熱量を60秒に込める!ポカリスエットCM「でも君が見えた」篇。監督・柳沢翔、撮影監督・岡村良憲、美術・三ツ泉貴幸をインタビュー!
演出の狙いと映像的な表現が渾然一体となり、主演の中島セナが大切な友達のもとに駆けつける一瞬を切り取ったポカリスエット 2021年春CM「でも君が見えた」篇。制作陣にとっての大テーマは熱量を60秒に注ぎ込むこと。監督の柳沢翔、撮影を担当する岡村良憲、圧巻の美術セットを作り上げた三ツ泉貴幸のインタビュー。
撮影監督の岡村良憲さんに聞く:
ファンタジーをリアルに捉える撮影
「でも君が見えた」篇 メイキング映像
──本作が2日で撮影されたと聞いて驚きました。さまざまな挑戦があったかと思いますがどのようにアプローチをしてきましたか?
「ファンタジーの世界をどこまでリアルな質感で撮影できるか」、「どうワンカットに見せるか」、「主演の中島セナさんの表情の変化をいかに捕らえて表現出来るか」が、この作品の鍵だと感じました。あの大きな起伏のある動く装置の上を、最初は主人公を引っ張り、途中から追いかけながら全速で走る。更には宙を舞う2人を撮影する…。カメラをどう動かすか…難題は山積みでした。
──「ファンタジーの世界をどこまでリアルな質感で撮影できるか」というゴールへはどう取り組みましたか?
リアリティを感じる映像って何だろうという課題に、普段使っているiPhoneの動画が、もはや一番現実味があるのではないかと発想しました。
──「シン・エヴァンゲリオン劇場版」を観た柳沢監督も、iPhoneの画角が多用されていてそこに生っぽさを感じた体験が、岡村さんのアイデアと重なったとコメントされています。
そうなんですよね。それで、ワイド感のある手持ち撮影にたどり着きました。選んだレンズは「Zeiss9.5mm」。テスト撮影で何種類かレンズを試した上で決めました。ワイドレンズ特有の歪みが少ないのが特徴です。美術セットが既に歪んでいるので、それをレンズで相殺してはいけないですからね。現場で監督からもっとワイドが欲しいとリクエストがあったので、自分の判断でギリギリまで画角のラインを広げています。なので正直、今回の正確なレンズミリ数と解像度は分かりません(笑)。
──アナログにこだわり熱量を表現するという大きなテーマもあったそうですね。
人の手でカメラを持って走りながら撮影する事によって、熱量がある画になったと思います。ジンバルにカメラを乗せて、それをステディカムオペレーター2人掛かりで持つ事にしました。カウントに合わせ被写体を見ずに前を向いて走ってもらい、フレーミングは僕がセットの外からリモートでオペレートしています。主人公が友達と出会う講堂のシーンは別のスタジオにセットを組み、今度は僕が1人でカメラを持ちオペレートしています。ここは被写体に合わせて直感的にカメラを動かすことが目的でした。監督のカメラの動きへの演出的オーダーにも沿いながら、ドローンや撮影用クレーンではできない最適な見せ方ができたと確信しています。
──ワンカット風ですが、ブロックにわけて撮影しているんですね。
今回は3つのカットをつなぎ合わせていてます。廊下、藤棚、講堂ですね。ワンカットに見せる場合、つなぎ目がバレてしまうと見ている人の作品への感情も止まってしまいす。なので人の思考をいかに騙せるかみたいな所があって、ある意味新しいマジックを発明するような作業です。撮影者としてはとても楽しい部分でもあります。過去にも柳沢監督とは「GRAVITY CAT」と言うCMで、手持ち撮影のカットをつないだワンカット風撮影をしているのですが、「でも君が見えた」篇では、それとは全く違う技法を考えました。
──このような一筋縄ではいかないシチュエーションにかかわらず、主演の中島セナさんがとても魅力的に表現されています。
本篇で中島セナさんの表情の変化がよく分かる所が主に4ヶ所あって、それは「最初の皆んなとは逆方向への振り返り」、「歪んだ廊下を走り抜けた後のドア前」、「藤棚を越え、講堂で友達に出会う所」、「ラストの飲みカットの大ヨリ」。当然撮影には光が重要ですが、それぞれの箇所で彼女の感情に寄り添った表現をライティングで作っています。それから、今回は全長85mもあるセットに対しスタジオの中でいかに太陽の光を作れるかもポイントでした。この巨大なセットに照明で太陽の陽射しを作るには、かなりの台数のライトが必要となり、さらにひとつの光源に見せる必要があります。これは照明技師の高倉進さんの得意とするとこでもありました。その中で被写体に対する光、レンズフレアやハレーション等をコントロールして、世界観を表現出来たかなと思います。
──達成感のあるプロジェクトだったかと思います。
全てのパートで難易度が高く、規模の大きい撮影でしたが、苦労も含めとにかく楽しかったです。打ち合わせ段階から、各部署と連携をとりながら作り上げていけたことや、撮影本番で全スタッフが一丸となって取り組むことのできた、美しい現場だったと思います。
柳沢監督に聞く:絶対にすべらない企画
どうしたら代表作をアップデートし続けられる?
右)柳沢翔監督 左)主演を務める中島セナ
──常に話題作を手がけられていますが、勝負となる仕事で絶対にすべらない秘訣って何でしょう?
いやいや、毎回必死なだけで、秘訣もクソもないです。ただただずっと焦ってます。
──しかし定期的に、自分のポートフォリオの代表作をアップデートし続けられるというのはカンタンではないと思います。
それは完全に周りに恵まれているからですね。今回のCMもそうですが、僕が代表作として挙げさせてもらうものって、演出コンテが全然通らなかったモノばかりなんです。何回も修正が入って、コンテが修正テープの層でズッシリ重くなる(笑)。あ、僕はいまだに手書き派です。今回も4回目で最終的なGOサインが出たと記憶してます。僕は一人だとダメダメタイプ。クリエイティブ・ディレクターやプロデューサーが厳しくジャッジしてくれるからジャンプできるんです。
──アイデアのジャンプの具合が、想像を超えてくるところに柳沢さんらしさを感じますが、その枠にとらわれない思考の土台をつくったものって、思い当たることはありますか?
うちの父親がIBMのエンジニアだったんですが、今は家具職人をしています。さまざまな国に勉強だと言っては出かけていく、ちょっと変わった父親で。よく言われたのが「”何日間以内に、この狭い場所に快適な家の設計図を作ってください”というお題は、日本人は得意。なんだけど、”何もないだだっぴろい平野に何をしてもいいから、気持ちのいい家を設計してください”となると途端に弱い」。その話をしながら、そうなっちゃダメだよって、言い聞かされてきました。それは父親が経験から得た気づきです。日本って制約の多い国ですから、意識的に縮こまるなと言いたかったのかもですね。今の60代後半ってヒッピー世代ですし、フロンティア思想なのかな(笑)。
──最後に今後挑戦したいことを伺いたいと思います。
やっぱり前から言っていますが、趣味に振り切った好きなモノを撮りたいですね。最近UTA (United Talent Agency)という、米国映画業界の4大エージェンシーの一つと契約したんです。契約というかお試し?期間みたいな感じですが。今後どういう風に転がっていくかは未知数ですが、チャンスが来た時に逃さないように全力で日々積み重ねていくしかないですね。作り手にとって目の前に仕事があるって言うことが、そもそも一度あるかないかのラッキーなことですから。
──ありがとうございました。
柳沢翔:映画監督、映像ディレクター。
多摩美術大学美術学部油画専攻卒業。 カンヌ国際広告祭、ClioAwards、One Showフィルム 部門ゴールド、ACC ベストディレクター、ADFESグラ ンプリほか受賞多数。海外ではPRETTY BIRD(US)、 RSA film(UK)、DIVISION(FR)に所属。
三ツ泉貴幸:美術デザイナー STARBOY inc 代表
1975年生まれ。1994年から大道具会社にてテレビの舞台制作を手掛ける。2001年から映画美術制作、美術制作進行業務、デザイナーアシスタントとして経験を積む。2019年独立しSTARBOY inc.,を設立する。
岡村良憲:撮影監督
1975年生まれ。1999年 黒澤フィルムスタジオ入社。2003年 フリー撮影部を経て、2012年独立。2016年よりスタージョン所属。https://cvr-stg.com/ryoken-okamura
「でも君が見えた」篇 フィルムスタッフクレジット
企画制作社:電通・なかよしデザイン
スプーン
プロデューサー:大桑仁/冨田裕和(Spoon)
演出:柳沢翔
助監督:木村昌嗣・新尚樹
カメラマン:岡村良憲(STURGEON)
DIT:石井紀章
照明:高倉進
美術:三ツ泉貴幸(STARBOY)
操演:村木一州(LOCUST)
スタイリスト:酒井タケル/茶畑由紀
ヘア・メイク:古久保英人(Otie)
キャスティング:増田恵子(ギャンビット)
キャスティング(サブキャスト):海江田順子・森川裕介(ジャングル)
アクション・ワイヤーコーディネーター:川澄朋章
演技指導:yurinasia
音楽制作会社:YUGE inc.
音楽制作プロデューサー:戸波和義・小牧秀平(YUGE inc.)
音楽制作アシスタントプロデューサー:磨田幸樹(YUGE inc.)
題名:BLUE SOULS
レコーディングスタジオ:illicit tsuboi
オフラインエディター:田中貴士(Diamond Snap)
オンラインエディター:佐々木賢一(IEMOTO)
CGプロデューサー:山藤真士(Slanted)
CGディレクター:山内太(Slanted)
カラリスト:田中基(L’espace Vision)
主演:中島セナ
友達役:小高サラ
先生役:才勝
生徒役:学生キャストの皆さん