CGって、依然として何らかのスタイルやイメージの再現のために使われることが多いです。フォトリアル、手書き風、あるいは近未来感であったり。
というより僕はむしろ、べつに何の○○風、○○感でなくても構わないので、色やイージング、エフェクトから投影法まで一貫性を持ってコントロールされていて、その映像世界の中で閉じた文法、公理系のようなものを感じさせる映像に惹かれます。
1 – Ohal Grietzer – Wintertime
プログラミング的な手法でサンゴやシマウマの模様みたいな有機的なパターンを生成するには、反応拡散方程式というものが使えるのですが、そういった作品のほとんどが Gray-Scottモデル と呼ばれる種類の式を使っています。このビデオはその中でも妙な種類の式を使っているようで、Gray-Scottじゃない! と嬉しくなりました。Ready というソフトウェアを使っているとのこと。最近触ってみているのですが、世の中にはまだまだ色々な反応拡散方程式があるのだなぁと感動します。
こういった方法で生成したテクスチャを映像作品に取り入れる場合もなお、どうにかリアルタイム系のアプローチで完結させようと、簡単なシェーディング程度で終わらせてしまう作品が多く、3DCGソフトにインポートして綺麗にレンダリングしてみせるのにはある意味で正しさを感じます。
dir: Nic Hamilton
2 – Stoned Boys «Strain»
たまたま見つけたやつです。作者のことも良くわかっていません。
微妙に変な色の混ざったグラデーションや、複数の斜投影図法の混在した空間、ディザ効果。たまらないです。どこか呪術的な佇まいも感じます。それでいて、ネット・ミーム的なものに便乗したり、懐古としてのローファイに安易に走らないスタンスに共感を覚えました。
僕含め、モーショングラフィッカーやUIデザイナーって、グラフィックの質感を深く分析せずに、一様に「気持ちいいモーション」に凝ろうとする傾向があると思っているのですが、その過剰な気持ちよさが却って邪魔くさく感じることが多くて。だからある種のリッチさ/きめ細やかさはなくとも、あくまでグラフィックに寄り添った、「なるほど奴ら(グラフィックの要素たち)ならそういう動きをしていそうだな」という納得感のあるモーションが好きです。いや、イージングとかもうよくね? というか、カクついたリニア補間が個人的に好きなだけなのですが。
こういった歪な色づかいをどうにか再現しようと、2年前からはRGBスライダーで配色することが多くなりました。
dir: Look At Media
3 – Zurich 2.0
フォトグラメトリ で3D化したチューリッヒの街並みを進む360°動画です。
風景の現れ方にやられました。手癖でこなせば、三角形のポリゴンがパキパキと風景を成していく、とか多分そういう感じになるのでしょう。いかにもVRコンテンツ臭いデジデジした印象に映るはずで、僕的には興ざめです。
だからフォトグラメトリ処理する際に自動生成されるテクスチャのUV座標をスライドさせてじんわりと風景を見せていくというアイデアは、独特の曲面的メッシュのニュアンスを大事にしているように思えて素敵だなと感じました。
dir: Dirk Koy
4 – ゆきすすみさりゆき Yukisusumisariyuki
尊敬している同世代の一人である、くわがたさんの作品です。クレイアニメのように1コマずつ送ってテクスチャを足して歪めて、デジタルでありながら手戻りの効かない作り方はとても格好いいです。画面にも独特な空気感として現れていると思います。
どういう作り方をしているか具体的には想像がつきません。多分僕がイメージしているよりずっと、いい意味で強引かつシンプルな方法で作っていそうなものですが。
作品の 特設Web も好きです。
dir: くわがた
5 – Cosmic Winds – IC 2944 The Running Chicken Nebula
数年前、ディスプレイスメントエフェクト について調べている中で知ったアーティストです。
去年通っていた コンピュテーショナル・アートの学校 にもゲストで来ていました。ビジュアル作りには触れずに、計算機科学について延々話されていたのを覚えています。 世界のグリッチアーティストはやはりそういう次元に興味が広がっているのだなぁと。
2010年に Kim Asendorf が開発した — と言うにはとても単純なものですが、Pixel Sorting というエフェクトの手法があります。元は Processing でラフに書かれたスケッチでしたが、やがて After Effects プラグインとなり、最近では Ghost in the Shell(のVFXリール)でも使われるようになりました。アルゴリズムのレベルから考え、実験できる人たちが、数年先の視覚効果のトレンドに影響を与えていくのだと思います。頑張ろう。
dir: Phillip Stearns