先日3DCGを用いた映像を得意とするディレクター高岸寛氏のオリジナル新作『Odd』が、Vimeoのスタッフピックに選出された。ビザールプランツ特有の「植物でありながらも規則的に配列された機械的な印象」と、「有機的な動きの印象を感じる造形」に着想を得たという本作。
現実の植物は静的な存在である。「もし動き出したら、その形態がどのように動き、変化していくのか?」高岸氏は3DCGを用いることで、それら要素を混ぜ合わせ、規則的な造形をフォトリアリスティックな質感で再現する。有機的な動きをシミュレーションやアニメーションで表現することによって、奇妙で魅惑的な世界を作り上げた。
『Odd』監督・デザイン:高岸 寛|デザイン:長岩恭矢|音楽:江崎文武
制作する上で意識したのは「湿度を込めること」
作中に登場する本来のビザールプランツは、乾いた土地で育つ植物だが、おどろおどろしいジメっとした空気感をまとう。つまり、日本人ならではの「湿度」という感覚を映像に入れ込むことで、ビザールプランツの持つ「奇妙さ」を表現している。
そして、映像と音楽の一体感も本作の魅力。音楽を手がけるのは、WONKのキーボーディストとして活躍するほか、King GnuやVaundy、米津玄師など、数多くのアーティスト作品にレコーディング、プロデュースで参加している江﨑文武氏。
幾何学的な形状、連続性・規則性のある動きを描く上で、3DCGソフト「Houdi」の強みであるプロシージャルなシステムを活用。また、モデリングでは、現実のビザールプランツを3Dスキャンするのではなく、手作業でモデル化することで、アニメーションやシミュレーション作業を行いやすくしたという。
メディアアート専門美術館「MUSEUM 1」にて企画展開催中
『Odd』は、韓国・釜山にあるメディアアート専門美術館「MUSEUM 1」で開催中の企画展『MYTH: Beginning Story』にて展示中。2018年に高岸氏が発表したオリジナル作品『STATUE EXPERIMENT』と共に、大型スクリーンに投影され、没入感を存分に感じられる内容になっている。『STATUE EXPERIMENT』は、本来硬質的である彫刻の質感をさまざまに変換してみせるCG作品となっている。イベント詳細は記事末尾を参照してほしい。
MUSEUM 1企画展『MYTH: Beginning Story』における『Odd』展示
匂いを感じる作品に。
『Odd』作者の高岸寛は作品づくりにおいてこう語る。
いつも心がけているのは、湿度のような空気感とでも言いますか、ビジュアルを通して伝わってくる“匂い”みたいなものを意識しながら制作することです。そのような匂いを帯びることで、作品の魅力をより高めてくれると考えています。
『Odd』で取り扱った植物自体はカラッと乾燥した印象ですが、その歪な形状に焦点を当てることで、どこか日本のホラーみたいなジトーっとした匂い。日本の梅雨時の匂いみたいなものを与えたいと思いました。乾燥しているものをジメっと見せていく面白さがありました。また植物の持つ幾何学的な形状から、どうしても機械的な動きになってくるので硬い印象になりがちなところを、質感やライティング、そして音の力によって生々しさが加わり、相反する要素が混ざり合うような不思議な空気感に仕上がったと思います。
また、音楽制作を担当した江崎文武氏は、「初めて制作でご一緒した時から、高岸さんの音楽への造詣の深さに驚きました。今回の制作も映像の質感に合わせた具体的な音の指示をいただき、映像の世界を音で拡張することの面白さを体感させてもらいました。植物の幾何学的なパターンを音楽的な要素として捉えられたのは、こうした3DCG化があってこそ生まれた、まったく新しい感覚だと思います」と語る。
高岸 寛/Hiroshi Takagishi
1987年生まれ、ディレクター。2024年からinbetweenに参加。3DCGを用いた表現を軸にしつつ、近年は映像メディア以外にも、サウンドインスタレーション、アナログデバイスを使用した作品等、ビジュアルデザインに関する様々な領域に活動の範囲を広げている。相反する要素を組み合わせ、CGならではの表現に落とし込む手法をベースにしたオリジナル作品も展開。
https://takagishi.myportfolio.com
江﨑 文武 / Ayatake Ezaki
音楽家。1992年、福岡市生まれ。4歳からピアノを、7歳から作曲を学ぶ。WONKでキーボードを務めるほか、King Gnu、Vaundy、米津玄師等、数多くのアーティスト作品にレコーディング、プロデュースで参加。映画『ホムンクルス』(2021)、ドラマ『黄金の刻〜服部金太郎物語〜』(2024)『完全無罪』(2024)をはじめ劇伴音楽も手がけるほか、文藝春秋『文學界』や西日本新聞文化面での連載、NHK FM『江﨑文武のBorderless Music Dig!』でパーソナリティを務めるなど、様々な領域を自由に横断しながら活動を続ける。芸術教育プログラム『GAKU』では音楽の講義を担当。https://www.ayatake.co
企画展『MYTH: Beginning Story』MUSEUM 1(釜山、韓国)
本企画展のテーマは「神話」。古いものから脱却し、新たな世界を提示する新進気鋭の作家による展示作品が一堂に会するメディアアートの展覧会。 韓国を中心に世界中から参画した若手作家による様々なメディアアート作品を展示している。高岸氏は、「Odd」とともに「STATUE EXPERIMENT」を出品。
MUSEUM 1について
韓国では近年増加している私立美術館を中心にメディア・アートの展示機会が拡大しており、若年層を中心に親しまれている。釜山海雲台に位置するMUSEUM 1は、文化芸術に対する社会貢献の役割拡大と水準の高い文化芸術を提供するため、2019年に設立された韓国国内でも有数のメディアアート専門美術館。 同時代を代表するアーティスト、デザイナー、企画者、エンジニアたちと共に現在の時代精神とトレンドをベースに、芸術、哲学、美学の理論を加えた 新しいジャンルのミュージアム/コンテンツプラットフォームであり、今後も市民が皆で一緒に体験して楽しめる芸術を提示していくことを掲げている。
取材・文: Arhito NUMAKURA
フリーランスの編集者&ライター。SDからHDへの過渡期という大昔に、広告系の映像プロダクション所属オフラインエディターとして活動した経験を頼りに、気づけば20年以上にわたり映像やCGなどのデジタルコンテンツ制作現場を中心に活動中。下手の横好きモードでイベントやウェビナーのMCも時々。