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熱量を60秒に込める!ポカリスエットCM「でも君が見えた」篇。監督・柳沢翔、撮影監督・岡村良憲、美術・三ツ泉貴幸をインタビュー!

kana Jun 25 2021

演出の狙いと映像的な表現が渾然一体となり、主演の中島セナが大切な友達のもとに駆けつける一瞬を切り取ったポカリスエット 2021年春CM「でも君が見えた」篇。制作陣にとっての大テーマは熱量を60秒に注ぎ込むこと。監督の柳沢翔、撮影を担当する岡村良憲、圧巻の美術セットを作り上げた三ツ泉貴幸のインタビュー。

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美術デザイナーの三ツ泉さんに聞く:
圧巻の美術セットの舞台裏

全長約85mに及ぶ”動く機構”

──うねる廊下をはじめ、圧倒的な美術セットが印象的です。「ジョジョの奇妙な冒険」の「岸辺露伴の出てくるシーンで、教室が突然に本になってバラバラっとめくれていく場面」から柳沢監督が着想したものがベースにあると伺っていますが、ファンタジーな世界をリアルな美術セットに起こすのは大きな挑戦だったと思います。

たしか、企画の第一稿では、壁が紙のようにトランスフォームし風に煽られていくような内容だったと記憶しています。予算や時間、実現性との攻防で、この最終案があがるまで何稿かのやりとりがありました。でも「うねる廊下」は一貫して監督の中にありました。話を聞いた時、経験上”縦”のうねりは作れる算段は立っていましたが、この規模感で、照明やカメラ、お芝居がはいったときにちゃんと成立するかなというのは心配でした。実際にこの美術の上を役者さんが走れるか?カメラマンが撮影できるのか?エキストラが入ったリハーサルの時間もとれなかったので、果たして10人が乗った時に動くのか?と本番まで未知数は大きかったです。

──美術をデザインし制作するうえで、意識したのは?

「アゲンスト」という大きなテーマ、そして「逆風」というテーマを、デジタルではなく生で再現することで、熱量を映像の中に残すという目的がありましたが、それらは、もうすでに柳沢さんの演出の中に含まれていました。美術でできることといえば、安全に機能し、撮影可能な状態にもっていくこと。今回はデザインよりも設計部分にものすごく頭を使いました。最後の最後まで調整はつづき、なんとかギリギリクリアできたというのが本音です。

ポイントはシンプルであること
そして人力であること

床と天井が連動してうねる仕組み。

──具体的にどこが最大の難関でしたか?

いくつかクリアしなければいけないポイントがありますが、ひとつが「床と天井が一緒に動く」こと。うねりを作っているのは、大・中・小の3つの山です。この写真のように山にそって天井もうねっています。これはなんとか3日間で仕上げることができました。

───この山を動かしているのは人力なんですね。

電動ははじめから考えていませんでした。予算的にはまらないというのもありますが、人力だとフレキシブルな調整ができます。たとえば、この装置に役者やカメラマンが乗って撮影をしたときどれくらいの動力が必要か、前もって正確に把握するのは難しいのです。本番でもっとパワーが必要だとなったとき、電動だとリスクが大きい。人力ならば、押す人員を増やせばいいだけです。

機構の設計そのものも、単純になるように務めました。同じ理由でフレキシブルに調整ができるようにするためです。実際に人が乗った状態でリハーサルが進むにつれて、トラブルはどんどん発生しました。それらの修正に対応できたのも、単純な仕組みと、人力にしておいたからなんです。

何より最大の難関が壁でした。動く天井と床の動きに合あわせて、動く壁を建てたいのですが、これは手こずりました。壁には窓もあり、教室の出入口もあって、それらも一緒にうねらないといけない。「伸縮する素材にしてみよう…、窓枠が上手くいかない」。「じゃあ、ウレタン素材にしてみるとどうだろう…」と、実験を重ねるのですがどれも上手くいかなかったんです。実験につかえる日数は限られていて、いよいよ翌日には発注をしないと間に合わない最終日の結果もボツでした。「これで行こう」と言ってもらえるところまでたどり着けなかった。「壁だけはいよいよCGか…」と、みんながっくりですよ。「アナログでやることでで熱量を込める」というコンセプトに反してしまうわけですからね。ギリギリまで待ってもらったのに申し訳ない。でもここまでやってムリなら、しょうがいないかっていう空気になりました。

──どんな一発逆転が起こったのですか?

「これならできるんですが」と提案したのが、壁を短冊状態にするという案でした。そもそも「短冊状の壁」って言っても、みなさん想像はつかないですよね。廊下に面としての壁を作る代わりに、短冊状の板が天井と床に連結している。窓のブラインドを縦にした状態を想像してください。これならうねりについてくるし、正面からのカメラアングルなので、短冊が重なり合って平面に見えるわけです。この案で1日だけ実験の時間をもらい、短冊の端にアルミを貼ってアルミサッシの窓枠に見えるとかという検証して報告したところ、それでこれでいこうと決まりました。

──話を聞いているだけでも手に汗握る展開ですね。主人公が藤棚へ出ていく扉ですが、柳沢監督がすごく褒められると言っていました。魚眼でみたような湾曲した扉がファンタジックで、まさに「新しい世界の扉を開ける」瞬間を印象的に演出されたのではないでしょうか。

美術とカメラレンズあわせ技で、いい効果が出たところです。扉の手間に向かっての膨らみの二次曲線は美術で作っています。横へ広がる膨らみはカメラレンズでつくっています。扉をあけた向こうに広がる藤棚のシーンは、ブワッと花びらが舞い、藤の花が風になびくように長さなどにはこだわっています。

───ここまで美術セットが主役級になる作品も近年では珍しいですよね。やりきった感はあるんじゃないでしょうか?

ええ、周りからもたくさんの嬉しいメッセージをもらいました。でもこのCMを見て感動してくれたとしたら、60秒に込めらた熱量を心が感じているからなんですよね、見えるものだけじゃなくて。柳沢さんの人を巻き込んでいく力は圧倒的で、現場のスタッフの一体感や熱量もしっかりと捉えられていると感じました。

次のページ次は、撮影監督の岡村さんに聞く舞台裏&柳沢監督に聞く”絶対にすべらない企画”

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