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Feature

Get Creative! Withコロナ時代の広告表現ってどうなる?
#2クリエイティブディレクター座談会。
feat. 瀧澤慎一、東畑幸多、原野守弘、藤井亮

kana Jun 18 2020

Withコロナ時代に「広告表現はどうかわっていくのか?」をテーマに、今の日本を代表する4名のクリエイティブディレクターによる座談会。未曾有の危機を体験した私たちの日常からは、今後消えていくものや生まれていくものがあるだろう。では、映像コンテンツ産業のなかでも、動くお金も大きく、リーチのインパクトも高い、広告(CM)表現においてはどうなるのか?広告の企画そのものを担当するするクリエイティブディレクターのみなさんに、現在感じていることや未来予想図を語っていただいた。

企画協力
Takeshi Nakamura (Caviar), Shinichi Takizawa (僕とYOU)
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ハリウッド的な時代は終わった!?
ワイデン+ケネディ CCOの発言を考えてみる

NTTドコモ「森の木琴」Creative Direction: Morihiro Harano

──原野さんはLUXの” LUX Social Damage Care Project ”広告など、コロナ前より、社会を変える力をもった広告のお仕事が多いですが、今回のパンデミックを経てより一層加速すると予想していますか?

原野:自らやろうとしているわけではないのですが、そういう話が多いことは確かです。それを欲しているオーディエンス側の空気があって、そこに向けて差し出すように作る。すると自然に広がったり、それなりの成果を収めることになる。そういう意味でいうと、大きく環境が変わって「利他主義的な新しい価値観」に触れた今、みんなが聞きたいものに変化があるかもしれません。

Ad Ageに掲載された、ワイデン+ケネディの共同社長兼グローバルCCO(チーフクリエイティブオフィサー)のコリーン・デコーシー女史のインタビューで気になる発言があるんです。Ag Age主催のアワードでAリストエージェンシーを3年連続受賞をし、その記念インタビューの中で、コロナ禍に触れてこう言っているんです。

「この業界のハリウッド時代は終わったと思っています」と。

なかなか衝撃的です。その後に続けて「そもそも長く続きすぎたと私は思っています。(中略)意図的に基本に立ち返ろうとしてこなかった企業にとって、おそらく厳しいものになると思います。私たちはこの2年間、初心に戻ろうと努力してきました。そして今、世界的な出来事に巻き込まれ、それが元いた場所に戻る原動力のようなものになっています。だから素早く、賢く、クリエイティブで、独創的になることです」と続きます。(続きはこちらから)。このワイデン+ケネディは、最も“ハリウッド的”な広告で成功を収めた代理店なんです。そのトップがこう語ったことには衝撃がありました。アイデアを表現に落とし込む際に、ハリウッド的なソリューションはその一つに過ぎないのに、そこに依存し過ぎてきたのではないかと、コリーンは言っている。もっと別のやり方もあって、原点に返らないといけないと言っているんですね。これはなるほどと思いました。

──ハリウッド的というのは、どう考えればいいですか?

原野:カンタンに言うと、監督やカメラマンを雇いスタジオを借りて役者やモデルを撮影する従来のCM撮影ということです。考えてみてください。広告といえば、映像表現が王様なんです。東畑さんにしても瀧澤さんにしても、代表作といえば映像広告になると思います。僕のは「森の木琴」とか、ちょっと変わったものが多いのですが。普通は人間の撮影をともなう“ハリウッド的なもの”なわけです。

実際、アメリカは訴訟社会なので撮影を再開するのが本当に大変なようです。誰かが命を落とすことがあったら、そのブランドやエージェンシーが訴えられる可能性が高い。そういう足かせができた今、これまでと同じようなハリウッド時代はもう戻って来ないのかもしれません。日本では想像しづらいですが、そういうものが終わるかもしれない、というのはびっくりしましたね。

東畑:アイデアの話だなって、感じます。さっきの利他主義じゃないですが、競争よりも協力の方が価値が出てきている。合理主義的にも、みんなが協力したほうが解決できる可能性が高い。新しいハーモニーやリレーションは、これからたくさん生まれるべきですね。これまで僕は、「企業と才能ある演出家をくっつける」というリレーションでメッセージを届けることをしていたのですが、例えば「小さなリーダーを大きなリーダーとくっつける」といったような、いろんなリレーションのカタチを考えてみたい気持ちになりました。みたことのない映像を作るイマジネーションや、パーソナルなものを突き詰める想像力も大事だし、相手側の立場を解像度を高く想像するイマジネーションも今後問われるだろうし。これは面白いことだと思います。いろんなことを面白がって、自分の役立て方を面白がる。ハリウッド的すぎたという言葉をきいてなるほどなって思ったんです。

原野:コロナ前で、僕が嫌だなって思っていたのが、タクシーで流れるBtoB企業のテンプレートCM。同じようなフォーマットで大量生産され、タクシーの後部座席は“広告の屠殺場”のように感じられました。でも2019年を切り取るとアレが「日本の代表的な広告映像」だったりする。先ほどの話を重ねると「これが“ハリウッド的なもの”の成れの果てか」と思ってしまうわけです。ああいったタクシーCMはあれはあれで成果が出ているのでしょう、だからみなさんやるんでしょう。ただ今となっては、監督やスタッフの命をリスクにさらしてまで作る価値があるものなのだろうか、と考えなくてはならない。

一方で「ダイソンは人工呼吸器を作ります」と、タイミングよく訴えかけられたら「ダイソンやっぱりかっこいいな」って思っちゃう。これはハリウッド的じゃなく、現実をプロデュースするタイプのクリエイティビティです。先ほどのサラダも同じ。

しかし“ハリウッド的なもの”を全否定する必要も全くありません。実際、広告代理店にとって“ハリウッド的なもの”はすごく武器であり、“ハリウッド的なもの”を利用してビジネスをしています。それで、できあがっているものが素敵だった頃は、若い子がインスパイアされ、広告を志す優秀な人が集まって成長してきました。しかし、テンプレート式のタクシーCMがある種のメインストリームとなった今、もう一度みんなが素敵だと思うものをちゃんと考えないと、僕らの業界そのものがいつかは無くなってしまうかもしれない。”ハリウッド的”というのは、キーワードだと思いましたね。

瀧澤:効果と文化を対立させるような議論がマーケティング業界の中ではありますが、ものさしはひとつじゃないですよね。デジタルのわかりやすいものさしだけで、そこの数値を上げるために「効率化だ!最適化だ!」とやるだけでは、均質化ばかりで彩りのある豊かな未来はやってこない。新しいものさしをどう作るかかっていうことも、僕らクリエイティブディレクターの大事な仕事ですね。

──それは、”ハリウッド的なもの”から脱却する時代がくるかもしれない、ということでしょうか?

原野:脱却ではないのですが、“ハリウッド的なもの”は、相対的に、高価なものになりました。ひょっとしたら命を落とすリスクさえもはらんだものになったわけです。今、再開にあたり、みんなが作るべきものが、タクシーCMのようなものなのかというと、たぶん違う。命をかけてやるようなものではない。だから“ハリウッド的なもの”をやるとなったときは、覚悟が必要です。撮影する意味のあるアイデアを考えなくてはいけない。そういう、ステージがひとつあがった感覚を、僕は感じているわけです。

東畑:それすごくわかります。これから広告は、乱暴な言い方をすると、オートクチュールなものと、そうじゃないものに二分化されていくと思います。オートクチュールというのは、単に予算規模が大きいとかではなく、さっき言った署名性のような、あの人じゃなければ作れないものという意味です。原野さんが言っているタクシーCMのようなものは、作り手の署名がない。企業が成長する上で、コンバージョン広告の重要性は百も承知ですが、効率化と最適化が広告のゴールになるなら、それはもう人間のやる仕事じゃない。AIがやった方がいい。差別化こそ、広告の原点であり、だから一人一人違った作り手が関わる意味があることを、みんな忘れすぎていると思う。すぐに役立つメソッドばかり追いかけて、自分をわざわざ機械化している人が多いように感じます。クリックさせる、リアクションさせる、ことばかり考えて、相手を喜ばすことを忘れると、広告表現は本当に嫌われ者になる。人に喜ばれる仕事って長持ちすると思っていて。ソロバンも大事だけど、ロマンも忘れちゃいけない。無駄や余白にこそ、広告を考える面白さや、人間がこの仕事をやる価値があることに気がついて欲しいです。

──広告の表現だけに留まらず、これからの在り方まで考えたくなるようなお話をありがとうございました。最後に、それぞれのWithコロナの歩き方をお聞かせください。

東畑:Withコロナの時代と言いながら、今、急激に「元通り」に戻ろうとしていることの方が気になります。緊急事態宣言という非日常に置かれて、企業も個人も、自分たちを世の中にどう役立てるのか、考える契機になったと思います。普段、開かなかった扉が一瞬開いたような気がしていて。ワクチンができて普及するまでを、Withコロナと呼ぶならば、企業も個人も、その気づきを実践してみる、試しに形にしてみる、期間限定の貴重な時間にできるといいなと。ルネッサンスのように新たな価値観、広告表現が生まれる、そんな時代になると面白いなと思います。

藤井:この期間中、世界中が「自分死ぬかも」って思ったっていうのはすごいことで、生きていてなかなか無い。死ぬかもしれないのに、中途半端なものを作ってはいられない。僕自身、考え方がどんどん”非ハリウッド的のもの”に向かっていると感じます。元々は、”ハリウッド的なもの”をやりたくて、広告業界にはいったんですけどね。いまではすっかり家族に「ようこんなもん作ってお金もらえてるね」なんて言われたりしているんですけど、どんどんそうなっていこうかと。電通にいた頃は、十数件のプロジェクトを一斉に回す仕事の仕方をしていましたが、ひとつずつちゃんと納品していく生活でも、ご飯は食べられるっていのはこの自粛期間でわかったし、そういう生活もいいじゃないかって考えますね。ただのチンドン屋にもどろう思います。

瀧澤:「みんな死ぬかもしれない」というは海外の人もそう思ったわけで、いままでオリンピックを含めて感動を共有するという機会はありましたが、ここまで自分の身に差し迫った危機を、全世界が共有するというのもなかったんじゃないかと思います。そういう意味では、日本から発信するものが、世界により届くという可能性もあるんじゃないかと思っています。

原野:「死ぬかもしれない」という真剣味や、他人の幸福を考えることが、自分が生き残るために必要だという思考に触れた期間でした。このタイミングでリセットすると、いい未来が生まれる可能性もみえてきますね。

──どうもありがとうございました。NEWREEL.JPでは、フィルムメイキングにまつわる座談会を今後も予定しています。こういうテーマを取り上げて欲しい、などありましたら、Twitter(@newreeljp)までぜひお寄せください。

Get Creative ! #2クリエイティブディレクター座談会
登壇者プロフィール (五十音順・敬称略)

瀧澤慎一|クリエイティブディレクター/CMプランナー
僕とYOU代表。博報堂、HAKUHODO THE DAYを経て、2018年7月、僕とYOUを設立。主な仕事に、日清「カレーメシ」シリーズ、爽健美茶「ゴクゴク、自然に生きていく」、メルセデス・ベンツ×スーパーマリオの「GO! GLA」、水曜日のカンパネラ「ラー」など。

東畑幸多|クリエイティブディレクター/CMプランナー
株式会社電通。主な仕事に、 HONDA「ONE OK ROCK Go, Vantage point」、サントリー天然水「宇多田ヒカル 水の山行ってきた。」九州新幹線全線開業「祝!九州」など。

原野守弘|クリエイティブディレクター
もり代表 。電通、ドリル、PARTYを経て、2012年11月、株式会社もりを設立。OK Go「I Won’t Let You Down」、NTT Docomo「森の木琴」、Godiva「日本は、義理チョコをやめよう。」など。

藤井亮|映像作家/クリエイティブディレクター
豪勢スタジオ代表。武蔵野美術大学卒。電通関西卒。 主にくだらないものを制作。主な仕事に、 滋賀県「石田三成CM」、NHK「ミッツ・カール君」「オドモTV(オドモCM)」など。TVアニメ「別冊オリンピア・キュクロス」放映中(宣伝)など。

bykana

NEWREELの編集者。コツコツと原稿を書く。

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