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Feature

Get Creative! Withコロナ時代の広告表現ってどうなる?
#2クリエイティブディレクター座談会。
feat. 瀧澤慎一、東畑幸多、原野守弘、藤井亮

kana Jun 18 2020

Withコロナ時代に「広告表現はどうかわっていくのか?」をテーマに、今の日本を代表する4名のクリエイティブディレクターによる座談会。未曾有の危機を体験した私たちの日常からは、今後消えていくものや生まれていくものがあるだろう。では、映像コンテンツ産業のなかでも、動くお金も大きく、リーチのインパクトも高い、広告(CM)表現においてはどうなるのか?広告の企画そのものを担当するするクリエイティブディレクターのみなさんに、現在感じていることや未来予想図を語っていただいた。

企画協力
Takeshi Nakamura (Caviar), Shinichi Takizawa (僕とYOU)
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緊急事態宣言が明けて広告メッセージはどう変わる?
「利他主義」というキーワード

──6月から経済活動が再開し、広告の撮影もはじまるにあたり、世の中へのメッセージはソーシャルグッドなものが増えると予想されていますか?

東畑:どうでしょうね。メッセージ以上にアクションが問われていて、その延長にメッセージが来るという構造のようになるのかもしれませんね。先程、原野さんがおっしゃったように、「この機会をどう役立てるか」というアイデアは問われていると思います。とはいっても、マジメなことだけじゃないですよ。ソーシャルディスタンスに会話禁止と、人間性を否定される状況で、笑いや人間性を回復するような事も求められるんじゃないかと思います。

原野:政府が「Go Toキャンペーン」の実施をアナウンスしています。田舎に人を送りましょうと。「みんな休め」が終わったら今度は「みんな行け」と、どうも雑すぎると思ってしまいます。そうでもしないと失くなってしまうディスティネーションは確かにあります。僕も旅行は大好きです。一方、コロナでの気づきのひとつに「利他主義」があったと思います。誰かのために行動することが回り回って自分の得になる、ということに気づけた瞬間がありました。困っている観光地や飲食業、移動にまつわる業界を活性化すること自体はいいと思うのですが、お金を配って、旅行しましょう、割引します、ポイントが貯まりますと、以前と変わらないやり方で物事を動かそうとすると、利他的な価値観を知ってしまったみんなが「え!?」ってなるんじゃないかと思うのです。広告やプロモーションをやるにしても、そういう利他主義的な考え方をふまえたものだと上手くいくと思うんですけどね。

──利他的な価値観でおこなわれた、印象的なキャンペーンはありますか?

原野:外出自粛がはじまったときに、毎日自宅でUber Eatsばかり食べていたんですが、ある日からお気に入りのサラダ屋さんがサービスを止めていたんです。「この肝心な時に何やってんだ~!」と思ってググったら、そのお店は医療機関にサラダを提供していた。(編注:Crisp Connect 。医療機関に無償提供をするために、クラウドファンディングを立ち上げ展開)

そういう利他的な行動が人々の信頼を獲得します。将来的には病院のような大口顧客の獲得にもつながったりして、まわりまわって自分に返ってくるかもしれません。このようなこの時代の空気を捉えた取り組みが成功するのではないでしょうか?ですから「Go Toキャンペーン」もやり方によってはすごくいい施策に見えた可能性はあった。でもちょっとすくうところが違ったんじゃないのかなって思いますね。

──歴史的にみた時、類似キャンペーンの成功例ってどういうものがありますか?

原野:歴史的に見ると「I ♡ NY」キャンペーンが近い。昔、誰も行きたがらなくなってしまったニューヨークに観光客を呼び込むためのキャンペーンで、大成功を収めました。(編注:1970年代から1980年代にかけておこなわれたキャンペーン。暗黒都市ニューヨークを、憧れのディスティネーションとして蘇らせた)。広告の基本的な仕組みは、自分が「好きなもの」を表明すると共感する人の間で広がっていくということだと思います。そういう意味では、「Go To」じゃなくて「I Love」だったらよかったんじゃないか、とか思うわけです。これは比喩ですが、そういう考え方や価値観をもつことが大切です。

”好き”に特化していく。
大手制作会社とYouTuberの中間に位置する映像制作

dir: Ryo Fujii

──「好きなことを表明して共感で広がる」というと、藤井さんの作品群はそれが凝縮された塊のように思えます。

藤井:僕の場合、今後、コロナを表現に絡めることはないって思うのです。そこはみなさんがちゃんとやってくれるので、コロナとは関係ないところで、”好きなことをやる”ということに、より特化していきたいと思っているんですね。誰か一人くらいが端っこで好きなことをやっていてもいいんじゃないかと思うんです。

自粛期間がはじまってから、制作スタッフがどんどん減っていき、今は、CM案件でも僕と、エディター、音響、音楽屋さんと、完パケを作るポスプロの担当者という、すごく小さなチームで制作をすることもあります。それでもギリギリ成立しているんです。僕は、大きなバジェットを扱う広告案件とYouTuberの、ちょうど中間の立ち位置じゃないかと。”手作り”と大規模チームで作る”ハイクオリティ”の中間。そこ、スポッと空いている場所で、この枠の可能性ってあると思うんです。地方の広告予算規模だったら、なおさら向いている。関西でも、広告案件は、未だに大人数集めてオールスタッフミーティングをして、編集室にクライアントと代理店の営業がずらりと連なって編集していますけど、もうそういうことをしなくてもいいのかな。リモートでここまで出来るとわかったので、いっそのこと沖縄とか地方に移住もありというか。でも、独りではさみしいから誰か来ないかな……(笑)。広告や映像業界の人がどこか地方に住み始めたら面白いと思うんですけどね。ハリウッド的な感じで、東京ではないどこか。気候のいいところにそういう場所ができたら楽しいんですけどね。

東畑:藤井さんが沖縄に行きたいというの、僕もわかります。同じ年収500万円でも、東京で暮らすのと、岩手で暮らすのでは、住環境の充実度はぜんぜん違いますよね。広くて気持ちのいい空間で暮らす「空間所得」とか、リモートで通勤時間を減らして好きなことをする時間を増やす「時間所得」を増やすとか、そういう価値観が生まれるといいなと。企業の成長も、売上とかシェアとか、お金で測る基準しかないのは問題。成長の指標をもっと多様にして、企業も人も、伸びしろをもっと増やしていけるといいなと思います。

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