フォトグラメトリーを使った
絵画的な仕上げ
──メッシュっぽい質感とモレキュラーぽい質感が見受けられます。演出的な意図でしょうか? それとも撮影機材に依存するのでしょうか?
山下:3種類のスキャン方法を採用していて、BLK360というカメラで撮ったLiDARスキャンデータとKinect、それとフォトグラメトリーです。ガジュマルの森や広い景色をLiDARスキャンで撮影し、動く人物は時間軸で捉えることのできるKinectを使っています。LiDARの静止画的なものは丸で表現されていて、Kinectの動画はメッシュっぽい表現になっています。Kinectでも丸にすることはできますが、人物を描く表現としては最適ではないとの判断からです。
──もう一つのフォトグラメトリーはどう適応されているんですか?
山下:楽器や船というしっかりと見せたい象徴的なモチーフに適用しています。LiDARでスキャンしたデータだけだと、粗密差がありすぎるので、高精細に再現できるフォトグラメトリーを被せています。フォトグラメトリーは高画質な写真を撮ってその写真から3D化する技術です。
フォトグラメトリーで生成された「ハルモニウム」のポイントクラウド。
──撮影後のワークフローはどうなっていますか?
辻川:ポスプロワークでは、ライティングを作って絵画的にライトアップして画を整える、まさに絵を描くような作業を試行錯誤しました。ライティングを当てて画の粗密を作って…。要は僕たちが絵を描く時って見せたいものに焦点をあてて、背景はぼかしたりして描きますね。それを、ポイントクラウドとフォトグラメトリーという技術を2つを混ぜ合わせて、画の粗密とライティングをすることでより絵画的に仕上げています。
このプロジェクトのワークフロー。ポストプロダクションヘビーな制作の流れだ。
──これらの挑戦は「見えないもの」を描くという面でも功を奏したのではないでしょうか?
山下:見えてはいるけど、目が知覚していないデータを取るというのは、世界観とマッチしていますよね。
辻川:目で見る光学的な世界よりも、触るという感触に近い世界観。一点一点を手触りで作っているのに近いと言うか。ただ絵画的に仕上げるというのは、チームのがんばりがなくてはできなかったです。このプロジェクトはみんなで作っていくって感じだったんだけど、山下くんをはじめ、若い人たちがこんなにがんばっていたのが、なによりも感動的でした。
2つの場所を魂が旅する構成
9台のKinectでスキャンし、Unityで編集。
──魂の旅と重なる楽曲の構成ですが、映像演出というかデータ演出においての狙いをお聞かせください。
辻川:温泉につかっているような、桃源郷にいるような、サイケデリックな気持ちよさを目指しました。構成はライブの舞台となる”殯舟“にクローズアップしていく冒頭から始まります。鑑賞者のポインターが魂のようにふわふわと揺れながら儀式の場に集まっていきます。その魂は自分かもしれないし他の誰かかもしれないけれど、魂視点でみる臨死体験のような導入です。インタラクティブなコンテンツですが、動きのテンポを制御しゆっくり静かな雰囲気を作ります。「殯舟」の演奏中は、ライブをしているお二人を通過したり、魂の世界を体験してもらいます。
──「東」で再生を迎える前には、沈むように死の世界にさらに深く落ちていきますね。
辻川:深く潜った地中には屋久島でスキャンした枝や岩で再構築した、らせん構造のトンネルがあります。その中を抜けると常世の国である海のシーンに出るという流れです。
──詳細は実際に体験いただくとして、ラストに向かって気持ちがリフトアップされました。再生の場所を構築する際のこだわりは?
辻川:輪廻転生をする海をどう演出するかは試行錯誤を繰り返したところです。再生の場となる水面を、CGで作ろうか?というオプションもありました。なんですが、ここも「シンプルに考える」ことに帰結していきました。
山下:水面をデジタルエフェクト的な作り方をすると、明らかにCG感が出て浮いてしまったんです。監督から、「祭祀の場でのキャプチャーデータを、木々を分解して上下からギュッと潰すようにしてウネウネと動かして水面にしましょう」とアイデアが出ました。同じ素材で別の空間を作るので馴染みが格段に上がりました。リアルな海を目指すと、暗くなっていったので、バランスは何度も試しました。
山下誠(プロデューサー)
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