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橋本麦さん「表現って出つくした」って思いますか?
映像制作からR&Dへ

kana Feb 21 2019
photo by Jo Motoyo

映像作家として、またはプログラムも取り入れた映像制作をするコンピューテショナルアーティストとして活躍する橋本麦。昨年はお餅を祖父母の自宅でトランスフォームさせまくったストップモーション・アニメーションMV「Fly」が話題となった。最近は北海道に拠点を移し、新しい取り組みをしているという。

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東京と北海道

橋本麦のサイトより

──最近、地元の北海道にベースを移して東京の二拠点ライフを送っているそうですね。

はい、どちらかと言うと、いなたい風景が好きで、いろいろ(アイデアが)湧いてくるんです。あとは、受託仕事を減らして、やりたいことに集中したいなと思っています。

──そのために東京と物理的な距離をとっていると。やりたいことというのは?

作りたい映像もあるし、作りたいツールがあるので、基本的に受託ではないプロジェクトに軸足をおいていきたいと思っていて。両軸でやればいいじゃないかって思われるかもしれませんが、仕事を受けちゃうと途端に生活のリズムが崩れてしまって……同時進行というのがどうも出来ない体質のようで。

違った技術を使ってみる

2月1日にローンチしたISSEY MIYAKEの「DOUGH DOUGH」では、Web とイメージ映像を制作。「クシャクシャっとしたら、その形状がキープされる生地のブランドサイトだったので、Webページ自体が自己言及的にクシャクシャなったら面白いだろうと着想しました。洗練されていてIQの高そうな公式サイトへのカウンターとして、メタい方向性で「おっ!」となるものを意識しています。最近はこのくらいのラフなインタラクションが気に入っています」(橋本麦)

——近過去の作品についておさらいさせてください。昨年話題になった imai のストップモーションアニメ「 Fly ft. 79, Kaho Nakamura」では、伝統的ともいえるコマ撮りの手順にカメラワープを取り入れ、効率化を図りつつワークフローを更新していますね。

imai「Fly ft. 79, Kaho Nakamura」dir: Baku Hashimoto

これを作ろうと思ったモチベーションが「仕事やだな」ってところから始まっていて、これを作ることでヒーリングされた感はありました。

——どういうところが橋本さんにとってヒーリングになったのですか?

「コマ撮りってこういうノリあるよね」ってありますよね。それを少し外したところから、コマ撮りの佇まいみたいなものを設計し直したかった。あくまでお餅達の動きの楽しさが主題でありつつ、コマ撮りによくある「大変でした自慢」が必然性をもって演出に取り込まれている感じをやりたかったんです。

——具体的にはワークフローの中で、カメラにVRのトラッカーである ViveTracker を取りつけて、空間上でカメラ位置や角度を取得したり、ストップモーションアニメ用ソフト DragonFrame にあてる独自のソフトを書いたりしている。

DragonFrame からの情報や ViveTracker で取得するカメラ座標といったものが、全部僕の作ったソフト側に送られてきます。それらの情報がソフト上でグラフとしてプレビューで出ます。あとは、それを見つつ、自分で三脚を動かしながら撮影しています。よく「モーションコントロールを使ってるでしょ」と勘違いされますが、僕が書いたソフトはカメラがどういう風に動いたかを出しているだけなんです。まあ、普通はモーションコントロールを使うところですが、実家にそれを持ち込めないし、万が一使ったとしても動きがスムーズになりすぎる。まるでモーションパスで機械的に補完した 3DCG のような動きは、単純にトーンとして合わないし、すごく感覚的なことなんですが、「手で動きをつけた方が結果的に曲に合うな」ってそれだけです。

ツール作りに突っ走る一方で、お餅がすべすべ動くことを面白いと思っているのは世の中で僕だけなのではないか、とナーバスになってきました。そこで、習作をいくつか SNS にアップしたところ、かわいいとかエロいとか、いい反応を貰えたので少し安心しました。テスト撮影をした時、映画「タイムマシン」(2002年 サイモン・ウェルズ監督)のように、お餅だけ周囲とは違うスピードで時間が流れているような印象がおかしかったので、本編でも活かしています。

「CamGraph」は橋本氏がopenFrameworksを用いて開発したプレビューソフト。「雑過ぎて僕の環境でしか動きませんが、諸々のソースです。Github : baku89/imai-fly」
詳細なプロダクションノートはこちらから。

——最終的にお餅と過ごした夏休みの制作はどれくらいかかったんですか?

まるっと3週間。合計で2850コマ撮影しました。僕は今まで「ポーズ・トゥ・ポーズ」(主なポーズを撮影してその間を埋めていく作り方)の方法でしかモーションを作ったことがなかったので、頭から1コマずつ順撮りで画を動かしていく「ストレート・アヘッド(送り描き)」の方法で1本映像を作り切ったことに、かなり異化されたような気がします。撮影中は、お餅達のこれまでの動きと相談しつつ、むしろ彼らがやりたいようにやらせる位の気持ちで動かしていました。この制作を通して、「アニマ(魂)」(編注:アニメーションの語源)なるものの本質を少しだけ理解できたような気がします。

——3年前になりますが、OlgaのMV「ATA」でも2Dと3Dを行き交う表現が面白い。その頃、似た表現手法のひとつとしてフォトグラメトリーが流行ったけれど、橋本さんは、あえてフォトグラメトリーを使わずにモノクロの印象的な世界を作られていますね。

Olga Bell – ATA Dir: Baku Hashimoto 詳細なプロダクションノートはこちらから。

2D から 3D へというところは、フォトグラメトリー(いろんな角度で撮った写真から立体的な形を再現するという技術)に引っ張られた点ではありますね。しかし、Olagaさんはニューヨークのアーティストということもあり、遠隔作業が前提だったので、フォトグラメトリーという案は無理でした。

——では、どんなアプローチを?

学生の頃から温めていた「空間認知の錯覚」というアイデアを、テーマに持ってきました。よく、地面にビヨーンと歪んだ滝が描いてあって、ある視点に立ったときに周囲の風景に溶け込むかたちで滝が浮き上がってくるトリックアートってありますよね。しかし、この映像は逆で、「ある視点」からスタートします。最初は二次元の写真がしっかり見えている状態なんだけど、そこから視点がずれていくことで、その写真が投影されている空間の実際の構造が見えてきます。写真では凹んでみえるところが実は出っ張っていたり、そういう意外な展開があったら面白いなと狙ったものです。そういう考え方の逆転が出来たら、ちょっとは発明になるのかなと思い作りました。

ザック・リバーマンにイジってほしいという下心

——ちなみにOlgaさんとの出会いは?

FITC というクリエイティブイベントに登壇したのですが、その時、Olgaさんの彼のNicholas Feltronさんも登壇されていて、ついでに僕のトークを見てくれていたのがきっかけです。その後、僕の方から「何か作らせてもらえませんか?」って声を掛けました。僕にとっては珍しい行動でした。

──珍しく積極的な行動をとらせた理由はなんだったんでしょう?

海外のアーティストの映像を作りたいっていう下心はありました(笑)。それと、僕の尊敬するザック・リバーマンという openFrameworks の開発者がいて、彼が5年ほど前にOlgaのMVを作っていたんです。僕にとって、ザックは神というかなんていうか……。彼は画家から始まって、その流れで Flash の ActionScript や Processing を触り始めて「これじゃ足りない、作りたいものに対してツールが追いついていない」って、自分で oF を作るってことをスパッと体現しちゃっている潔い人で、勝手に共感しています。なので、見てもらえるかなって、そういう下心がありました。

——それでリバーマンさんには見てもらえたんですか?

ザックのツイートです。

自分のテクニックを参考にして作られたものです。僕は、MVとしてつくったのですが、ARと相性がいいということに、これを見て気づくことができました。上海出身のビジュアルアーティスト/クリエイティブプログラマーの Raven Kwok(レイブン・クウォック)のツイートからも、ARやリアルタイム系のほうが面白く発展させることができるという発見がありました。

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