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”不可能”倍増! メイクアップアニメ「資生堂THE PARTY BUS」
柳沢翔監督インタビュー

kana kana Dec 31 2018

1,000万回再生を越えた、イケメンがメイクの力で女子高生に変身する資生堂のハイスクールガールCM。その映像制作チームが繰り広げる今作は、メイクの妖精が踊るメイクアップアニメーションだ。

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みんなで「ファンタジア」の資生堂版をつくろう!

──「High School Girl? メーク女子高生のヒミツ」に続く資生堂のCM作品の監督ですが、今作をショートフィルム仕立てにした狙いは?

「若者に刺さる内容にしたい」というお題があり、テレビCMよりも制約の少ないWebフィルムで訴求したいと。僕としては、もちろん嬉しいオファーです。

資生堂は、2018年秋にSHISEIDOブランドのメーキャップラインの大きなリニューアルがあり、大きなテーマを「メイクで綺麗になって、自分に自信を持つことで勇気が湧いて本音を伝えられる」にしようとブレストでまとまりました。

他にも、資生堂は「東京レインボー・プライド」にも毎年協力するなど、ダイバーシティ(多様性)をサポートする取り組みをしていたので、「ジェンダーの壁を越えて、秘めた思いを告白する」というメッセージを軸に、物語を創ろうと決まりました。ここまでで大体2年ぐらい掛かっています(笑)。

──メイクでコマ撮り、という大胆なアイデアの着想はどこから?

資生堂が「メイクの力」をテーマに社内企画コンペをし、勝ち抜いたのが「メイクアニメーション」。顔をキャンバスに見立て、メイク道具で1コマずつ絵を描いては消し…を繰り返してアニメーションを作りましょう、というものでした。その表現アイデアとストーリーが合体して、「THE PARTY BUS」に収束していきました。

──壮大な映像制作が予測されますが、チームで共有したゴールとなるビジョンがあれば教えてください。

僕たち映像制作チームは、みんなでディズニーの「ファンタジア」を作ろうと話していました。

ファンタジアの主人公、魔術師の見習いミッキーは「僕は本当はもっとできる」と秘めた思いを持っています。そして夢の中でてんやわんやする、というお話なんですが、THE PARTY BUSで秘めた思いを持っているのは、かぐや姫。同性の友人に恋心を抱いているが、自分の気持ちに正直になれない、という設定です。ハロウィンパーティーで、メイクの妖精たちによって美しさが引き出され、勇気づけられた彼女はやっと本音を伝えられるというお話です。

──ファンタジアなんですね。「アデル、ブルーは熱い色」にインスパイアされたのかと思っていました。LGBTQな要素や、相手役のサムライゾンビのヘアスタイルを彷彿とさせたり…

公開後に何人かに「アデル?」って言われたんですけど、何のことか初めはわからなくて、「歌手の?」って(笑)。昔、役者の村上虹郎さんが金髪と青とグレーが混ざった髪型をしていて、それが狼っぽくてカッコ良くてずーっと印象に残っていました。それがこの髪型の元ネタなんですけど、この映画(アデル)も後で観て確かに! と思いました。

純愛ストーリー、メイクアニメ、ファンタジア、かぐや姫、パーティーバス、ゾンビというキーワードが頭の中にぼんやり出揃った時、僕の中ではかなり勝てるなっていう自信がありました。ワクワクしたから。

“無理なこと”を通常の2倍盛り込んだ、カメラワークと1970回の照明チェンジ

The Party Bus メイクアップエンターテインメント メイキング映像。

企画から数えて、制作期間は足掛け2年! 実際のプロダクションは約半年。

──以前の取材で、不可能っぽいことを2つくらい企画には入れ込む、とおっしゃっていましたが、今回はいかがですか?

あれ以来、「今回は“無理”何個くらいですか? うちはゼロでお願いします(笑)」ってよく言われるんです(笑)。

今回はまだ誰もやっていない、人の肌の上にメイク道具でアニメーションを描くこと。テストも含めて試行錯誤の連続でした。あと、バス全景を映すワイドショットから、芝居を撮りながら顔の周りを超クロースアップで360度回転するワンカットのカメラワーク。しかも、走行しているバスの中で! これらをミックスしながらどう実現させるか。

──まずカメラワークの課題はどう解決したのですか?

大きく3つに分けて考えました。まず、冒頭のバス車内での仮装パーティーシーン。ここは人物同士の関係性描写が目的だったので、リアルに撮ることを最優先しました。ゾンビ侍がかぐや姫のことを想っているけど、同時に傷つくのを恐れているとか、そういう感情の波を、言葉を使わずに映像だけで表現したかったので。

かぐや姫が自分の本当の気持ちと葛藤するくだりで、カメラがどんどんかぐや姫に近づいて、顔のすごいクロースアップになると涙が一雫こぼれて、そこからメイクアップアニメーションが始まる。そこまでは、実際に走るバスの中を、手持ちカメラで撮影しています。

パーティーバスが走るのは秋葉原。夜間、秋葉原の信号は1分間は赤信号に当たらないので、撮影においては好条件。

メイクアニメーションのシーンは、カメラが役者の眼や唇にものすごく近寄るので、危険すぎて移動するバスの中では撮れませんでした。スタジオにバスの車内を完全に再現し、モーションコントロールカメラで顔の周りのカメラワークを厳密に決めて、超接写撮影しています。

人物が少しでも動くと、顔にカメラや周りについている機材が当たってしまうので、人物はガチ固定。窓外はバスのセットをぐるっと囲むように巨大スクリーンを張って、そこにプロジェクションで撮影してきた走行風景を投影しています。

カメラマンからの提案で、プロジェクションに投影する車窓素材を、静止画で撮ることになりまして…なぜなら、静止画だとスローシャッターが使えるので、バスの窓外がびよ〜んとした光の軌跡になってカッコいいんじゃないかと!

確かにメイクアニメシーンの非現実感も演出されるし、すごくいいね、と採用になりました。めっちゃ素材撮影が大変になりましたけど(笑)。ロケバスの四方にカメラを3台くくりつけて、スローシャッターで夜明け〜翌朝までぶっ通しで撮影しました。

──バスセットの撮影では、車窓を1フレームずつ投影していくイメージですね。スライドショーみたいに。

ええ。それで、プロジェクションの光量だと車内は真っ暗なので、投影されている静止画を見て、照明部さんはそれに合わせたライティングを車内に創るんですね。「あ、これ1枚ごとに毎回照明変えるんだ…! で、これ何回やるの?」って計算したら、1,970回やるってことが判明しまして。

1,970回ライティングチェンジをするんですね。不眠不休でやっても、メイクアニメシーンを撮り終えるのに1週間はかかる計算になる。ヤバいねって(笑)。最終的にはスタッフ全員のアドレナリンが出まくって、4日半でやりきれたのですが。奇跡です。

──メイクアップコマ撮りアニメはどのように撮影しているのですか?

モーションコントロールを使って、事前にカメラ軌道を設定して静止画で1枚ずつ撮影しています。なにせ原理的にはコマドリ撮影と一緒なので、後戻りできない。なのでものすごく慎重になるんです。

現場では、たとえばフレーム番号が「371番」の時は、「プロジェクションチーム、背景371 OK?」「モーションコントロールチーム、カメラ位置371 OK?」、次に「エレーナ(かぐや姫)人物位置371 OK?」「照明部、ライティングOK?」と、4部門からOKが来たら「はい、シュート!」。カメラマンがカシャッとシャッターを切る。というのを永遠と繰り返す。この4つのどれか1つでもズレてしまうと、アニメーションが崩れてしまうんです。

1,800回を越えたところで、みんな泣けてきた。霞の先に頂上が見えてきたぞって。「あー、宗教ってこうやって生まれたのかな〜」って、薄れる意識の中で思っていました(笑)。サグラダファミリアとかピラミッド作ってた人もこんな感じだったのかな〜っとか。

主演のエレーナは本当に大変だったと思います。当たり前ですけど人間なんで、心臓の鼓動ごとにミリ単位で動くんです。なんですが、すごい寄りなので0.1mm動くだけで、フレームアウトしてしまう。全員でエレーナをサポートして、全員でちょっとずつ前に進んで行きました。本当に、彼女じゃなかったら、このスタッフじゃなかったら完成してないです。

──余談ですが、NHKの番組「テクネ」の企画で作られた、乃木坂46の伊藤万理華をフィーチャーした「花枯去影」もバスが舞台ですよね。

完全に僕のバスブームです(笑)。映像作家は、絶対バス好きだと思うんですよ! 車窓の背景が変わり続けるし、窓から入ってくる光も変化し続ける。電車よりもスピードはゆっくりだし、意思を持って、どこにでも行ける。常に何かが変化しているって、放っておいてもリッチなんですよね。

なんで、バスが好きなんです。本当は、バスの外装をミラーボールの素材を使ってネバーエンディングストーリーのファルコンのようにしたかったんですが、おカネが尽きました。