”不可能”倍増! メイクアップアニメ「資生堂THE PARTY BUS」
柳沢翔監督インタビュー
1,000万回再生を越えた、イケメンがメイクの力で女子高生に変身する資生堂のハイスクールガールCM。その映像制作チームが繰り広げる今作は、メイクの妖精が踊るメイクアップアニメーションだ。
メイクアップコマ撮りアニメーションの作り方
──コマ撮りのメイクアップはどのタイミングでやっているのですか?
本番ギリギリまでテストを繰り返したんですが、最終的にリアルに1,970回、肌に絵を描くのはやめようと判断しました。メイク道具で肌に絵を描いて拭き取るというのを数回繰り返しただけでも、肌は赤くなってしまい、皮膚の油分が取れていってしまう。そうすると肌に描く線がどんどんコントロールできなくなっていってしまうんですよね。
撮影本番では、キーになるフレームだけ肌にステンシルを使って描いて、その間のアニメーションはCGで補完する方法をとりました。
──コマ撮りで描かれている内容について教えてください。
お話の流れとしては、メイクの妖精たちのダンスが終わると、かぐや姫のメイクが華美なものから自分に合ったナチュラルメイクに変化しているという展開です。
メイクアニメの造形とモーションデザインは、キャビア所属の平岡(政展)くんと共作しました。彼の自主制作品のような、抽象的で、アニメーションの快感が伝わるものを目指しました。僕は平岡くんの大ファンで、いつか一緒にやりたいと思っていました。才能の塊。楽しかったですね。
平岡氏によるリップ・ポピンズのデザイン案
メイクアニメシーンの流れは…
ドラキュラに迫られ、自分の想いを押し殺すように目を閉じるかぐや姫。かぐや姫の涙が唇に落ちると、口紅からリップ・ポピンズが生まれます。リップ・ポピンズは、メリー・ポピンズがネタです。彼女は涙を傘で受け止めて、「あれ? うちのご主人様が泣いてる⁉」と、唇の端まで歩いて行くと、窓ガラスにスマホの画面が反射していて、かぐや姫とゾンビ侍のメッセージのやりとりを見てしまうんです。
メッセージには侍ゾンビから「怖がらせてしまって、ごめんなさい」といった内容が書かれています。それは、映像の冒頭で侍ゾンビがかぐや姫の手を握っているんですが、そのことを指しています。「さっきの涙はそういうことね。自分の気持ちに正直になりなさい、ご主人様」と、リップポピンズは傘でチークを椿の花に変え、その花びらがシャドウダンサー(アイシャドウ)を目覚めさせます。
シャドウダンサーが手に持った扇子で前髪をあおぐと、ブロウバンド(アイブロウ)が目覚めます。ブロウバンドが陽気な演奏を始めるとまつ毛がにょきにょきと伸びはじめ、毛先に付いた涙を唇まで運びます。涙がもう一度リップポピンズに落ちると、それまで平面だったポピンズが立体になり、シャドウダンサー達を従えて鼻の上でダンスを踊ります。踊りながら宙に舞ったリップポピンズは、その姿を椿の雫に変えて唇に帰って行きます。
かぐや姫が目を開け、窓ガラスに映った自分を見るとメイクが変わっている。より自分らしく美しくなった顔を見て、「私、本当の気持ちを伝えなきゃ」と一歩を踏み出す。
…という内容です。
──メイキングでは、実際の演技を撮ってロトスコープでアニメにしている様子が紹介されていますね。
時短のため、振り付けを作って、ダンサーに踊ってもらった撮影素材を平岡くんにアニメーションにしてもらっているんです。すごく贅沢な素材制作ができたと思います。
メイクの妖精のデザインは、故・石岡瑛子さんが衣装を担当したターセム・シン監督の映画「落下の王国」にインスパイアされています。記号的なデザインになってもつまらないし、僕も平岡くんも「落下の王国」が好きという理由で。
ロトスコープの制作過程
ギミックの効いた映像表現 vs 物語
駆け出す姫を描ききるための、渾身の衣装制作
──衣装も凝っています。オリジナルで作られているんですよね?
ええ。ドコモの星プロシリーズでも一緒にやっているスタイリストの 酒井タケルさんにお世話になっています。酒井さんは演出家としての目線も持ち合わせているので、毎回衣装制作は非常に刺激的ですね。
今回彼がこだわったのは、かぐや姫が好きな人のもとに駆け出すシーン。故・高畑監督のアニメーション映画「かぐや姫」で、かぐや姫が十二単を一枚一枚脱ぎ捨てながら走るシーンのような躍動感を目指していたそうですが、どのように衣装に落とし込んでいくか、試行錯誤を繰り返していました。走り出す姫を印象的にする衣装とは、と。
その結果、通常の着物よりも薄くてレースのような生地を幾重にも重ね、揺れるように仕上げています。僕は衣装と美術は密度がギュッとなってるものが好きなのでアレッサンドロ・ミケーレ(GUCCIのクリエイティブディレクター)のクオリティでお願いします! と発注してみました(笑)。
——さらにハードルを上げていった、と。
酒井さんは日本で最高の刺繍ができる人を呼ぶしかないと。「シナ スイエン」のデザイナー 有本ゆみこさんを口説いて、この共作に誘ったそうで、酒井さんと有本さんの化学反応が素晴らしかったです。メインキャストの衣装のシルエット、色使い、生地、刺繍、箔プリント、どれも本当に気品があって美しかった。
なかなかの厳しい現場でしたが、有本さんはそうなればなるほど、燃えていた印象があります。(編注:有本さんのTumblrに、今回の衣装制作についての思いが綴られていますのでご一読を!)
──クリエイター魂ですね。
3徹くらいして仕上げてもらい、本来なら衣装を作ったら終わりのところ、現場に制作バッグを背負って来ていて、ビックリしました。「え!? 手伝う気満々!?! 」って。現場の演出や芝居を見て、合間に衣装を手直ししているんです。手の寄りがあれば刺繍を追加したり。ちょっとシルエットを調整したり、衣装部の異常なほどのクリエイター魂に感動しました。
──他の衣装はどうしているんですか?
こちらも贅沢なコラボで作っています。バレーの衣装で有名な「チャコット」にご協力いただきました。チャコットの技術力は、それはそれは素晴らしい。酒井さんからの提案を面白がってくれたようで、協力していただけました。少ししか写っていないサブキャラの衣装も、実はとんでもないクオリティ。既成品は1つもありません。いつか改めて写真に収めたいですね。