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変態(メタモルフォーゼ)アニメーションナイトというNEW CHANNEL(3) エイミー・ロックハート、ホン・ハクスンと向かう超次元への旅

土居伸彰 Dec 7 2017

「変態ナイト」主宰の土居伸彰による短期連載の第3回目。今回は「変態ナイト」をスタートさせてから新たに知ることとなった「第二世代」の作家について。

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ホン・ハクスンと「2歳」の知覚

変態ナイトでフィーチャーする作家にはいくつかの共通する特徴があって、たとえばそのリストには「目がキレイ」「髪の毛が天然パーマ」みたいなものがある。あと、「変態作家あるある」として、占いにハマりがち、というものもある。(これについては僕もJOJO広重師匠のところで断易を学んでいるので人のことはいえないのだが。)

その流れで言うと、ホン・ハクスンは、髪の毛が天然パーマで、占星術をやっている。占いの腕は結構良いらしく、一時期はその道でプロを目指そうとしたこともあるそうなのだが、今はアーティストとしての活動に専念していて、お世話になった人に対して無料で占うくらいにしているそう。今回、変態ナイトで彼の作品を大きくフィーチャーするということもあり、僕も占ってもらった。なんでも僕の生年月日時間というのは、財閥の跡継ぎが生まれるときにあえてその時間帯に生まれるようにするくらい、お金に長けた星らしい。今は特にその兆しはないし、むしろ真逆っぽい感じがあるけど、将来的にそうなることを信じたい。人生の最盛期は2031年に訪れるらしく、それも信じていきたい。

ちなみにブルース・ビックフォードも占星術が好きである。ただし彼の場合、人の誕生日を聞いてほくそ笑むだけで、何も教えてくれないのだが。(家に帰って調べて勝手にその人の人生を想像するのが好きらしい。きっとみんな悲惨な人生を歩まされているのではないかな…)

占星術に関係ある話として、「ウィンク・ラビット」という作品のラストは、ハクスン曰く「宇宙時計」なのだという。宇宙時計とは、ウィンク・ラビットの故郷の言葉であり、星座の星のめぐりと自分自身の理論とを組み合わせて作ったものらしい。(もうこれくらいの説明でいいですか?)ちなみに宇宙時計のシーンはこんな感じ。スケッチブックに落書きしたようにしか見えないけど、とにかくそうなのだ。

宇宙時計のシーン(「ウィンク・ラビット」より)

これはつまり宇宙の運行を示した、宇宙暦みたいなものなのだろう。観てないけど、「メッセージ」に出てくる異星人ヘプタポッドの言葉みたいなものなのではないか。(原作の「あなたの人生の物語」は読んでる。)だとしたら、それがわからないのは当然である。だって僕たちは普段宇宙の運行について考えたことなどないわけだし、そこで使われている言語も、異星人のものなのだから。

そのことに関して、ホン・ハクスンは面白いことを言っている。「自分の作品を観る観客は2歳」なのだというのだ。気をつけなければならないのは、2歳を対象年齢として作っている、ということではない。そうではなく、ホン・ハクスンが描いている世界(=ラビット宇宙世界)を観ることに関して、人類は2歳ということなのだ、理解レベルが。ほとんど考えたことがないし、観たこともないような世界の話だから。ここでまた「メッセージ」の例を出せば(観てないけど)、いくら言語学者=言語のプロだからといっても、ヘプタポット語という地球上の言語とは異なる体系に直面したとき、その理解レベルは2歳にすぎない、みたいなこと。

あー、わかった。いろいろとわかった。変態アニメーションナイトのポテンシャルが見えた。変態ナイトの作品を観るとき、人は2歳になる。それがこの上映の可能性だ。「アニメーションとはこういうものである」という体系とは違うゆえに、変態ナイトは未知なるロジックの作品に人を向き合わせ、人を常に2歳にする。そしてもしかしたら、そのロジックとは、自分が思っていたのとは異なる宇宙原理を記述するような記号である可能性がある。

2歳は、成長できる。(観てないけど)「メッセージ」でヘプタポットBと呼ばれる言語を解読するなかで、主人公の言語学者は、ヘプタポットBが可能にする世界認識を手に入れるのだ。それは、物理現象を記述する計算式のように、未来がどうなるかを見通せてしまう認識だった。未知なる言語を理解することで、彼女の世界認識は大きく変わることになる。

僕はこれまで二冊の本を出しているのだが、そのどちらにも共通する主張のようなものがある。簡単に言えば、アニメーションとは記号である、ということだ。その記号は適切に読み取られるとは限らない。何を意味する記号か、その性質も変容するし、そもそも何も意味しないことだってありうる。逆に、アニメーションという変容する記号が意味するものは、現世のものでなくてもいい。もしその作家に現世ならざるビジョンが見えていれば、その現世ならざるものをアニメーションという記号のうちで表すことだってできるだろう。ウィンク・ラビット語のように、宇宙の運行を理解するための言語であってもいい。

そこまで大げさなものでなくとも、少なくとも、それは短編アニメーションを作る個人作家が世界と対峙するための自己内言語であることは確かなのだ。その記号の体系は独自のものなので、面食らうこともあるだろう。でも、それを解読する作業は、間違いなく、今まで自分のなかに存在しなかったような、世界のあり方を理解するための新しいロジックを生み出してくれるのだ。

連載の最初に言ったことがある。変態アニメーションナイトは、観客の世界の見え方を変える。それはポテンシャルとして、人生のあり方さえ、メタモルフォーゼさせる可能性がある。自分が「2歳」でしかありえない場所に、あなたを置くことによって。

とういうわけで、「変態アニメーションナイト ザ・ツアー:セレブレート」では、あなたを2歳にするための異次元のアニメーション=トンネルをお目にかけます。それは、これまでと違う宇宙とつながるためのチャネリング行為にもなるかもしれません。みなさま、お待ちしております。

アニメーションの配給やイベント企画・運営等を行うニューディアー代表。新千歳空港国際アニメーション映画祭フェスティバル・ディレクター。著書に『個人的なハーモニー ノルシュテインと現代アニメーション論』『21世紀のアニメーションがわかる本』(ともにフィルムアート社)

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