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山田遼志監督は語る、映画「ホムンクルス」
テーマ曲 「Trepanation」のMVは語らない物語

金井哲夫 Jun 11 2021
dir
Ryoji Yamada
creative dir
Shu Sasaki
prod co
mimoid
m
millennium parade
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山本英夫の漫画「ホムンクルス」の実写版映画が4月に公開されたが、これは常田大希氏率いるmillennium parade(ミレニアム・パレード)によるテーマ曲「Trepanation」のMV。監督はクリエイティブハウスmimoid(ミモイド)所属の山田遼志氏。以前、NEWREELでもインタビューしているが、多摩美術大学大学院を卒業後、ドイツの映画学校でアニメーション制作を学んだ経歴を持つ。恩師であるアートアニメーション作家アンドレアス・ヒュカーデの影響を受けたアーティスティックな作品が多い中、今回はぐっとジャパンアニメ風な輪郭のハッキリした感じだ。

山田監督は自身のツイートで、「語らずしてどう浮かびあがらせるか」に執着したと話している。

https://twitter.com/ryojiyamada/status/1388076920559046672

作風を封印して、語らずして物語を浮かび上がらせるって、なんだろー。よくわかんない。映像と音楽がかっこいいと感じれば、受け手としてはわからなくてもオーケーなんだろうけど、やっぱり気になるので、山田監督に直接聞いてみた。

「自分の作風を封印し、どこまでケジメのない作品を作れるか。またなるべく物語を語らずに物語を語るような構成」を意識したと語る山田監督は、「ミレニアム・パレードのアメリカへの進出というコンセプトもあり、ダイナミックでインパクトのある画面を目指し、音楽と映像が感覚に直接畳みかけるようなシンクロと、それでいてエモーショナルな構成」を目指したとのこと。

「ケジメ」とは、山田監督にとって、CMのようにクライアントの意向に沿って「課題解決」的に仕事をすること。MVは「クライアントワークでもあるが自分の作品でもある」ので、ケジメの境界が曖昧な世界。なので「ケジメのない作品」とは、本当に自分が作りたいものという意味のようだ。

昨年のインタビューで、山田監督はmimoidのメンバーである映像作家の細金卓矢氏と「壁打ち相手」になってもらって脚本を掘り下げたと話していたが、今回は、意識的にドラッグ的な作品にするかどうかという根本的なところから細金氏とブレインストーミングを行ったそうだ。その結果、「表層的にトリップする作品」ではなく、「音とのシンクロ、画面による密度と、最低限の物語で攻めることが誠実」という向き合い方が固まった。そこで、アイキャッチとなる主人公をポップにして「表層的なアングラ性」、つまりパッとみて「ああ、アングラなやつね」と思われないようにした。表現自体が突き抜けていれば、アングラにもポップにも迎合することなくオーディエンスに突き刺さるものができる、と山田監督は成功の秘訣を話してくれた。

実際の作業では、山田監督と長い付き合いのある「クールだと思うアニメーター、クリエイターたち」にカットを振り分けることで、自分だけでは表現しきれないダイナミズムを狙った。参加アニメーターは山田監督自身の他、冨田泰弘氏、mimoidの稲葉秀樹氏と平岡政展氏、畳谷哲也氏、有吉達宏氏などなど。

クリエイティブディレクションを担当する、常田大希氏のクリエイティブレーベルPERIMETRON(ペリメトロン)との仕事では、いつも「パンチがあるか」という注文を受けるという。今回は、顔が開くシーンからCメロまでの流れは、山田監督がまさにその「パンチ」に応えた部分だった。

「パンチがあるかないか、というシンプルな問いは自分の中にも大きなテーマとしてあるので、同じ美学を持つチームと制作できる喜びと、それをクリアしたと自覚したときに、毎回達成感を感じます」と山田監督。

綿密な設計と哲学と技術から生み出された作品なわけで、だからこそ、最初から最後まで目が離せないインパクトが飽きることなく継続する。しかし、純粋なオーディエンスとしては、そこをあえて深掘りせずに酔いしれるべきでしょう。本来そのために制作されたい。クリエイティブ・ディレクターの佐々木集氏も次のようにツイートしている。

雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。

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