アメリカのプロデューサーユニット「オデッサ」と、オーストラリアのプロデューサーでディープハウス・ミューシャンのゴールデン・フィーチャーズの新プロジェクト「ブロンソン」による「Keep Moving」のMV。映像がやけにクリアで、明るくて、どこにでもありがちな光景で、なんだか普通すぎて違和感を覚える。作り物っぽい。もちろんMVは作り物なんだけど、そういう意味ではなく、妙にわざとらしい。
でも途中から、会議で握手するエライっぽい人がピンクフロイドのジャケット写真みたいに燃えてたり、会議室の椅子がぶっとんで人がわさわさと押し流されたり、映像はどんどんカオスになっていく。妙に完ぺきな笑顔を浮かべる俳優さんたちとカオスが入り交じり、さらにカオスがメタ化して入り乱れる。
その背後では、ずーっとブロンソンの歌が「ブラックアウトだけど大丈夫、止まらず動け、進め進め」と急き立てる。ちなみにブラックアウトってのは停電の意味だけど、酩酊状態や大量殺人のことをそう言ったりもする。とにかく前後の見境がつかない混乱状態ってことかな。
あの映像のわざとらしさ、どっかで見たことがあると思ったら、なんとこのMVの動画素材は、すべてストック動画。つまり、こんなビジュアル入れたいなーってときに、借りたり買ったりして撮影せずに済ませられる便利なありもの映像だ。
制作はSMUGGLER。監督したのはスウェーデンの監督集団スタイルウォー。グラフィックデザインをベースにしたCMやMVを制作するコレクティブとして1998年にスタートし、しだいに実写素材を取り込むようになった。現在は、ストックホルムとロサンゼルスに拠点がある。
スタイルウォーでは、前々からストック映像を使いたいと考えていたそうだ。コロナでロックダウンが始まり、普通に撮影ができなくなってフラストレーションが溜まっていたとき、何か特別なことがしたいと思い、ストック映像とCGだけで作品を作るアイデアを提案した。
「俳優たちが入れ替わりボスを演じて、建設的な会議と討論を行う。ハイタッチして、握手して、ガラス張りのビルで自信満々にパワポの画面を指す。みんな真剣に耳を傾け、うなづき、承認したり、新しいアイデアを持ち出したりする。私たちは、微に入り細に入りこのスーパー陳腐な映像に惚れ込みました。人も衣装も小道具も場所も、とりわけ演技も、何もかもが超薄っぺらでウソ臭い。そんなビジネスの世界にブラックアウトが起きたらどうなるかを表現したかった」と彼らは話している。
もちろん、ただストック映像を編集しただけではない。人が燃えたり、エスカレーターから人がドバドバ落ちてくるストック映像なんてあるはずがないからね。彼らは、ストック映像に加工をしたり、映像に合わせてオフィスをフルCGで構築したり、歌詞に合わせて人が話す口元を撮影して合成したりもしている。
資本主義社会やビジネス界のうさん臭さを、ストック映像という既製品をあえて使うことで婉曲に表現したお見事な作品。