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トラヴィス・スコットの「Franchise」は歌も映像も
デム・フランチャイズ・ボーイズ「White-Tee」への熱い返歌

金井哲夫 金井哲夫 Jun 4 2021

トラヴィス・スコットの「Franchise」のMVは、画面もアスペクト比が3:4で、フィルムっぽいテイストになっているのもデム・フランチャイズ・ボーイズのものと同じ。意図的に合わせて、まるっとオマージュした作品だ。

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Travis Scott
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Travis Scott , Young Thug , M.I.A., dop White Trash Tyler
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トラヴィス・スコットと言えば、もう1年以上前になるけど2020年4月にゲーム「フォートナイト」の中で行ったバーチャルライブ「Astronomical」を思い出す。同時接続数1230万人、期間中の参加ユニークユーザー数2770万人という大盛り上がりのイベントだったが、昨年9月末に公開された「Franchise」のMVもなんとも奥深い。ヤング・サグと、イギリスのラッパーM.I.A.をゲストに迎え、メインのシーンはマイケル・ジョーダンの豪邸で、M.I.A.のシーンはイギリスでそれぞれ撮影された。監督は、トラヴィス・スコット自身が務めている。撮影監督はトラヴィス・スコットのMVを数多くてがけているホワイト・トラッシュ・タイラー

この曲はデム・フランチャイズ・ボーイズの2004年のヒットソング「White-Tee」(ホワイトティー:白いTシャツって意味)にあやかって作られた。9月の時点では、そのまま「White-Tee」というタイトルでリリースされる予定で、その題名で予約も受け付けていた。Apple Musicのインタビューの中で彼は、Franchaiseというのは、いくつかあった候補のひとつで、いちばん「つながり」が感じられるものだったと話している。内輪では今でも「普通に」White-Teeと呼んでいるそうだ。

MVの画面も、アスペクト比が3:4で、フィルムっぽいテイストになっているのもデム・フランチャイズ・ボーイズのものと同じ。これは明らかに、意図的に合わせてる感じ。まるっとオマージュだ。

デム・フランチャイズ・ボーイズは「White-Tee」で、白ティーは安いし清潔だし何にでも合うし、とってもいいよと歌っていた。この歌から、アメリカの若者の間で、だぶだぶの白いTシャツが大流行した。ところが、これがギャングを象徴するものだからダメと、白ティーを禁止する学校が現れて問題になった。もちろん、まったく科学的根拠のないゴミ校則だ。どうしてこう、アホな大人がいるのでしょう。

この歌が流行った2004年11月のシカゴトリビューンの記事には、まともな洋服が買えない貧しい人たちは、白いTシャツをまとめ買いして着てるという高校生の話が載っていた。つまり、貧しいマイノリティーでもお金をかけずに清潔にスタイリッシュにいこうぜと、じつに前向きな提言をしているわけだ。これに対して、超リッチなトラヴィス・スコットは、「大成功したけど白ティー着てるぜ」とリスペクトを返している。ついでに、歌詞と映像の両方で、当時発売が噂されていた自らのブランドCacti(カクタイ)のアルコール飲料や靴の宣伝もしっかりやってる。

歌詞の中に「ユートピア」の話が出てくる。2021年に発売されるアルバムのタイトルは「Utopia」だと自身も話しているが(まだ制作中らしい)、彼にとってユートピアは、お互いに奪い合うのではなく、みんな同じ人間なんだとわかり合える世界だと説明している。「Franchise」の歌詞の中では「ユートピアの扉を開けると、そこはズートピアみたいだ」と言っている。つまり、いろんな種族が仲良く平等に暮らしている世界ってことだね。

Apple Musicのインタビューで、自分のミッションとして、子どもたちやファンのために音楽でユートピアの入口を作ろうとしていると熱っぽく語り、その気持ちが抑えきれない様子が見てとれる。いい人なんだね。

このユートピアが歌に出て来る最後のシーンでは、イギリスの牧歌的な草原に舞台が切り替わる。それがユートピアのイメージなのかな。そこでM.I.A.が白ティーではなく全身に花をまとって現れ「Bangers in the system」と歌う。Bangersは最高にいい歌とか、すごく偉大な人って意味。システムは、社会か人間を表してるんだね。そしてそれが「古代のアヌンナキ」だと言う。アヌンナキは古代シュメールに宇宙から来て文明をもたらしたとされる人たち。それにトラヴィス・スコットを重ねてるみたいだ。

このMVは、9月24日、世界の一部のIMAXシアターで、映画「TENET テネット」の公開に合わせてプレミア公開された。トラヴィス・スコットはその主題歌「The Plan」を歌っているが、これは映画のための書き下ろし作品。その歌詞に、映画の謎を解く最後の鍵が含まれているとか。

もうひとつ、トラヴィス・スコットのことをもっと知りたいという方には、Netflixのドキュメンタリー「トラヴィス・スコット: Look Mom I Can Fly」がお薦めです。

金井哲夫

雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。