NEWREEL
Reel

反骨のストリートアーティスト、ティマ・ラディアが
未来を燃やす20分間のショートムービー「FUTURE」

金井哲夫 金井哲夫 Jun 3 2021

「FUTURE」という大きな文字に火を付け、完全に燃え落ちるまでの20分間を撮り続けた作品は、ロシアのストリートアーティスト、ティマ・ラディア氏によるもの。「未来」を燃やすという行為……そこにはいったいどんな理由が?

dir
Tima Radya
FacebookTwitterLinePocket

これは、ロシアのビート・フィルム・フェスティバル2020(10月14日から18日)のために作られた広報用のプロジェクト。「FUTURE」という大きな文字に火を付けて、完全に燃え落ちるまでの20分間を固定カメラで撮り続けている。制作したのは、ロシアのほぼど真ん中にあるエカテリンブルグという街に生まれたストリートアーティスト、ティマ・ラディア氏。大学で哲学を学んだあと、2010年からロシアやヨーロッパを中心にストリートアーティストとして活動を開始した。

aiopの2013年のインタビューでラディア氏は、バンクシーの強い影響と哲学的思考が融合してストリートアートを始めたと話している。彼にとってストリートアートの中核は、形態ではなくアイデアだという。ストリートアートであるからして、始めた当初は非合法な活動がほとんどだった。

自身のサイトのProjects(作品)ページは、hide vandal(破壊を隠す、つまり非合法)とhide legal(合法系を隠す)というフィルターがあるのが面白い。

非合法ものからいくつか紹介しよう。ひとつは、勝手に橋桁をドミノ柄に塗ってしまった2010年のプロジェクトだ。街も道路も橋も、すべてはいずれドミノ倒しのように崩れて消えてなくなる。だから、自分たちが好きなように変えてしまえ、という意味が込められている。

2016年には、大きなメッセージをサンクトペテルブルクの街に掲げた。「自由を十字架に張りつけたとしても、人の魂は拘束できない」というこの言葉は、人権活動家のユーリ・リバコフと音楽家オレグ・ボルコフがソビエト連邦のアーティスト弾圧に抗議して、1976年8月にかつての政治犯収容所だったペテロパブロフスク要塞の壁に書いたもので、そのために2人はKGBに逮捕され、リバコフは6年、ボルコフは7年投獄された。その40周年にあたる2016年8月3日に、同じメッセージを要塞の近くに書き出したというわけだ。

また、2018年3月のロシア大統領選挙の際に行われたプロジェクトでは政権批判も行っている。街に立てられた選挙公報の看板を勝手に書き換えるというものだ。本物には「大統領を選ぼう、未来を選ぼう!」と書かれているのだけど、手前の小さな看板は、そのスローガンが剥がれて下から「見栄えはいいが、最悪のショー」という言葉が現れる。

ラディア氏の作品は文字を使ったメッセージが多いが、単に文章でメッセージを伝えるのではなく、その場所や時間やシチュエーションとの関連に大きな意味がある。動画作品もいくつかあるが、そのほとんどは活動のドキュメンタリーだ。それに対してこの「FUTURE」は、珍しく独立したショートムービーとして成立している。これまた文字が前面に出ているが、「未来」を燃やすという行動、夕日が沈むのに合わせて火が小さくなり暗闇になってしまうとい時間帯が大きな役割を果たしているように思われる。

とは言え、夕暮れ時に未来を燃やす意味は説明されていないので、本当のところはわからない。ボクが映像から読み取れたのは、「U」は火付きは悪いけど、一旦燃え始めると火力は強いってことぐらいかな。だが、本当の答は単純じゃないはずだ。だから映像にしているわけで、そこがアートで哲学なわけで……、でも気になる。気になるけど、説明を求めるのも野暮な話だ。説明のないところを、それぞれが考えるってのがアートなんだよね。

それはそうとして、ときには政権批判も含む非合法アート活動で知られるティマ・ラディア氏だが、そんな彼を招待したビート・フィルム・フェスティバルと、ラディア氏との共同プロジェクトのスポンサーになっている大手銀行ティンコフには、あの怖いプーチンさんにも忖度しない気骨が感じられる。

金井哲夫

雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。