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山田遼志によるmillennium parade MV「Philip」インタビュー。咀嚼と記号化が生むアニメーション表現

kana kana Oct 27 2020

2020年3月、今年始動したクリエイティブハウスmimoid.inc(ミモイド)。mimoidから届いた最新MVは、山田遼志監督作品millennium paradeのMV「Philliip」。mimoidは、映像ディレクター/プランナー の細金卓矢 、アニメーション作家/アーティストとして活躍する山田遼志 、アニメーションを主軸におく映像ディレクター稲葉秀樹 、同じく平岡政展、プロデューサーの別所梢からなる。東京とアムステルダムを拠点に、クリエイティブ業界の台風の目を予感させる集団だ。さっそくmimodのオフィスにお邪魔して「Philip」について、山田遼志監督を囲みmimoidメンバーとともにインタビュー。

Director
Ryoji Yamada (mimoid)
Creative Director
Shu Sasaki (PERIMETRON/millennium parade)
Music & Vocal
Daiki Tsuneta
Lyrics & Rap
Yuta Nakano
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──常田大希氏率いるプロジェクトにおいて、2500万回再生King Gnu「Prayer X」に続き、最新の監督作はmillennium paradeのMV「Philip」、本気のアニメーションMVとなりましたね。

山田遼志(山田): 常田くんとは学生時代からの知り合いで、WONKのピアニスト江﨑文武くんが紹介してくれたのがはじまりでした。僕、クラブが好きなんで、VJを一緒にやったり。millennium paradeの楽曲が、僕の作風と合いそうということで、どうせなら、企画から大事に作りたいよねって話になって、僕から5、6案の企画を出しました。millennium paradeが選んだのが、この企画「Philip」。楽曲の方は歌詞とラップを中野裕太くんが担当してるんだけど、相談しながら、こちらが投げた企画や映像をみて、歌詞の世界を”フィリップへの手紙”にしようって決めていったり、millennium paradeから戻ってくる歌詞や楽曲を聞いて、こっちからまた投げ返す。そんな風に自然発生的に進んでいきました。

──その辺は通常のMVのお仕事と、随分とフローも距離感も違いそうですね。

山田: そうですね、クライアントと直だから、やりたいこともできるし、フィードバックも早い。締切ギリギリまで追い込める。最終的にはSonyのレーベルマネージャーが、納品の取り立てにきちゃう。それでもみんなギリギリまで粘るんです。楽曲と一緒に作っていくことで、作品の純度を高められたと感じました。

Ryoji Yamada

山田遼志|アニメーション作家/アーティスト
2013年多摩美術大学大学院美術研究家アニメーション専攻修了。歴史の教鞭をとる両親(母親は東ヨーロッパやロシアが専門)の影響を受けて、文化庁新進芸術家海外研修制度研修員として向かった先はドイツのシュツットガルトのバーデン=ヴュルテンベルグ・フィルムアカデミー。アヌシー国際アニメーション映画祭で交流を持ったアートアニメーションの作家アンドレアス・ヒュカーデの元で一年間ドイツ式のアニメーションの作り方を学ぶ。Photo by Shina Peng| IG:@shina.peng

mimoid内で企画をブラッシュアップ

フィリップ

山田氏、小林氏による「Philip」のコンセプトアート

──「Philip」は「やりたかったハードボイルドもの」とTwitterに投稿していましたが、長年温めていたアイデアだったのでしょうか?

山田: ハードボイルド企画は、「ゴッドファーザー」や「フレンチ・コネクション」とか、その辺りの映画が好きで。常田くんはウォン・カーウァイ監督が好きなので、じゃあ、「Philip」をそういうトーンでやろうってなったんです。これまでディストピアな世界を描いた映像を作ってたんですが、SIRUPの「HOPELESS ROMANTIC」(2020年6月公開)を作っている最中に、現実が架空の作品の世界を飛び越えてしまった。ディストピアはもうやめようと。もっと根幹にあるものを掘らないとダメだと思ったんです。

──「根幹にあるもの」を「Philip」にどう具体的に落とし込んでいきましたか?

山田: メッセージとして「相違する主義や思想を凌駕する愛」、「多様な社会」をもってきています。ハードボイルド企画に決まった瞬間に、物語でいこうと決めていました。脚本の下書きができた段階でmimoidのメンバー、細金(卓矢)くんに壁打ち相手になってもらって、メッセージにまつわる思想的な部分を、掘り下げる作業をしていきました。

この物語は、保守派とリベラル派の争いの中で、揺れ動く主人公を描いています。世の中的にリベラルが強くなっている今、「リベラルを選ぶのがイケている」っていう風潮に違和感を持ったのがきっかけです。じゃあ、保守なのかっていうとそれも違う。お互い主義主張をかざして争っているのってどうなんだ、という問題提議をしたかった。争うよりも、愛だったり、もっと大事なところに立ち返ろうよっていうメッセージ。じゃあ、それをどう物語への落とし込むのか。

リベラルと保守との対立構造を描く際、映画「クラッシュ」 (2004年 ポール・ハギス監督)をすすめてもらいました。保守側の感情を描く大きなヒントになりました。様々な立場の間で揺れ動く、迷いのなかの美しさや儚さについて考えるきっかけをもらいました。

──「スターウォーズ」でいうと、ルーク・スカイウォーカーを主人公にするところを、あえて、ダース・ベイダー側から描く感じ?

山田: そう。保守派の犬を主人公にして、ドーベルマンのStan(スタン)というんですけど、スタンはずっとどこか居心地が悪そうにしているんですね。彼はドーベルマンという血統種なんですけど、人間社会に置き換えると、実は有色人種。勝者の中のマイノリティという立場です。雇い主のチワワは白人という設定。同じ血統種だけれども、ひとくくりにはできないわけです。そういった目の付け所や肝の置き方が、細金くんとの壁打ちで深みが出ました。

細金卓矢(細金): 「クラッシュ」に関しては、古い映画なので、現在の白人と黒人の関係性とずれているところはあるんですが、脚本術のテクニックとしてはかなりよくできていて。あの映画における白人の葛藤とか、黒人から白人に向ける目線というのは、適切かどうかはおいておいて、とても参考になると考えたんです。その上で、今こういったテーマを描くとすれば、強者の中の弱者としての主人公が、どう考え行動するのか描くと面白いんじゃないかって議論をしました。

SPW vs. The Dogs 。物語の世界を解説

        

「Philip」の世界を構築する多彩な登場人物たち

──犬の世界として描いてますが、設定を教えて下さい。

山田: 愛玩動物が覇権を握っている世界です。SPW(Social Pet Workers)と呼ばれる”飼い犬のチーム”の主張は「愛玩であることを受け入れて人間と共存していきましょう」。首輪が目印です。一方、「自らを解放し本来の姿に戻ろう」と主張を掲げる対立組織 The Dogsがあります。このリベラル側のリーダー、Don(ドン)の首には、首輪を外した際の傷がついています。

そんな背景のなか、「血統つきのドーベルマンは、美しい雑種の雌犬に恋をする」という話です。優生思想主義のEagle率いるSPW(保守派)に雇われているのが、主人公となる殺し屋、ドーベルマンのスタン、相棒はフレンチブルドッグのBen(ベン)。スタンは遂にThe Dogsのボスのドンを殺めることに成功するのですが、その時にドンの娘、雑種犬のShala(シャラ)に再会する。実は彼らは幼馴染だったんです。恋に落ちたスタンは、”純血と混血”という禁断の関係をSPWに隠しながら、シャラと生活を共にするのですが、相棒のベンの裏切りによって、SPWからも追われる身になり…。という話です。

──この曲のタイトル「Philip」というのは二人の…

山田: そう、これから生まれてくる二人の子供の名前。スタンからフィリップに宛てた、父からのメッセージなんですね。「主義思想や体制とか、そういうのを飛び越えてお前は好きに生きろ。そこに縛られるな息子よ」っていうことを、スタンが歩んできた人生を織り交ぜながら綴っています。

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