スタッフが見つからない…!
画作りの果てなきこだわり
リサーチと脚本で一ヶ月、実制作は二ヶ月。細部におけるこだわりが伺える山田監督の指示書。
──物語、キャラクター設定とこだわりが伺えます。演出のみどころについても教えて下さい。
山田: こだわり強いっすよ、オレ。背景はアナログで、人物はデジタルで描き分けていて、さらにシーンごとでも細かく分けています。というのも、今作は背景描写がひとつの肝になると考えたからです。求めているものが、”クロッキーの線”。ヨロヨロの線なんだけどパースがしっかりしている線。嘘を描いているんだけど、その線が空気感を描いていて、リアリティを作る役割。それって2Dアニメの醍醐味だと思うんです。その線を水彩でどう落とし込むのかに、またこだわりがあって。ケント紙を使うのか、水彩紙を使うのか、紙の目を起こすのか起こさないのか、サジペンで紙をひっかくように描くか、ツーーと描くのか、線の表情だけで、画もガラッと変わる。
イメージしていたのが、バンド・デシネ作家のニコラ・ド・クレシーのような世界観。どの紙にどのペンで、どういう力加減でどういう感覚で描くかっていう話ができる人を探し回った。そういうことができるアニメーターさんはスケジュール的に受けてもらえなかったりして、もう自分でやろうと腹をくくったときにやっと見つかった。そうしたら昔のルームメイトだった(笑)。小林周平くんを、相談という名の拉致を繰り返しながら巻き込んでいきました。
別所梢(別所): いつもの山田作よりも色のコントラストが強いよね。それはバイオレンスな内容に合わせて?
山田: 色彩もニコラ・ド・クレシーに準拠した。絵画的なアニメーションがそもそも好きだし、アートアニメーション的な表現にこだわった。もともとヨーロッパ的な画風なので、その方向でアジアの町並みを描いたら面白い感じになるんだろうなって。
山田: あとは、日本画家の鏑木清方の、黒の使い方がめちゃくちゃ上手い。黒と彩度の高い赤、それに水色の使い方が上手くて、その色彩感覚をどう取り入れるかっていうのも、今回挑戦したことのひとつ。
別所: シャラの服の水色が効いているのはそこからなんだね。
山田: とにかく、こだわりが強すぎて、誰も描いてくれないっていう問題が大きかった。
山田: もうひとつのこだわりは、音ハメアニメーション。僕の得意技でもあるんですけど、なめらかに動いていないカメラの回転で、ちょっと異質に感じる動きを、音に合わせて随所に取り入れています。違和感をあえて作っているのですが、そういうのをずっとやっていると、普通のアニメが描けなくなってしまうんです。そこをレジェンド級のアニメーター冨田泰弘さんや白梅進さんに手伝ってもらいました。冨田さんは「炎炎ノ消防隊」の作画監督さん。日常芝居の巧さにうなりました。白梅さんは70歳オーバーの大先輩。三コマ打ちベース(リミテッド・アニメーション)で行ききりにするようにみせて、最後でニコマ(フルアニメーション)にするシートテクニックなんかを見させてもらって、逆に勉強させてもらいました。
「違和感を出すカメラワーク」のレイアウト。びっしりと書き込まれた資料
キャラクターを憑依させて芝居を描く
「Philip」の登場犬物たち
──たくさん出てくる登場人物ですが、芝居におけるこだわりもあれば教えて下さい。
山田: 言語化するのが難しいんですけど、キャラクターにどれくらい憑依できるという作り方をしていて…。全キャラクターのモノマネできます。
──え、モノマネですか?
山田: そうっす。キャラクターのモノマネをしながら描いています。SPWのボス、チワワだったら、「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」のビートたけしっぽいキャラ設定なので、「なんだバカヤロー」とか言いながら、ずる賢く立ち振舞い、スイスイと歩く、みたいな。
──主人公のスタンは?
山田: 麹町あたりで、松屋にいこうか吉野家にいこうか、どうしましょうね、って迷っている、27、8歳の冴えないヤツ。「いや~でもね~、どうしましょうね。でもあそこに可愛いギャルがいますね~。どうしましょうね。でも仕事はしっかりしましょうね。うーん、バシッ(銃を撃つマネ)」。
──ヒロインのシャラは?
山田: シャラはギャルの設定です。看病しながら「なんかうちの親父が主義思想とか言ってんだけど、マジキモいんだけど。あ~クラブ行きて~」みたいな。「元気になったら今度クラブ行こうね~。ん?なんかヤベーやつ来たっぽいけど、大丈夫、大丈夫」。肝が据わっている心優しきギャル。彼女の父親、リベラル派のボスのドンは西田敏行。ちょっと暑苦しくてうざいんですよ。正論ばっかり言って、絶対にうるさいんですよ。全キャラのボイスメモを作って公開したかったんですが、予算的に却下されました。
平岡政展(平岡): なるほど! 山田くんのアニメーション、キャラの演技がうまいって思っていたけど、自分の中でめちゃくちゃ落とし込んでいるから、キャラクターが生きているんだ。腑に落ちた。8コマ/秒で演技できる人って、アニメーションが上手い人なんですよ。でないと、ぎこちなく見えたりとか、感情がこもってなく見えるんですけど、山田くんのキャラってイキイキしていて個性がある。しかも、アニメーターに発注する時に、こういう感じでってモノマネするの、普通は恥ずかしいじゃないですか。その辺の肝のすわりかたは山田くんの強みだよね。ギャグものも向いてそう。
山田: 実は…僕の処女作はロックンロールのバンドが、温泉に行くだけの「ロックンロール銭湯」っていうギャグアニメでした。
mimoidのメンバー。左から、稲葉秀樹、山田遼志、別所梢、平岡政展、(モニター内)細金卓矢。
──山田作品のトレードマーク的な表現で、目がグルグルと渦巻状になっていく心理的な描写がありますね。
山田:「まじやば~」っていうときに登場します。今作だと「かわいこちゃんがいるんだけど~」みたいな。
細金: それ、平岡くんのアニメーションと比較すると面白いよね。
──平岡さんは国内外にファンを多く持つアニメーション作家であり、演出家。モーフィングするようなアニメーションが印象的ですよね。
細金: 平岡くんが、あの手の表現を使っているのを僕はみたことなくて。山田くんのアニメーションは、人を観察してアニメーションに落とし込む時に、一回抽象化を経ているんだろうなって思ってる。「もう何がどうなってるかわからん!」って混乱している様を記号に一度置き換えた時に、視点が定まらないっていうのを咀嚼して、あの目がグルグルしているアニメーションに落とし込んでいるんだと思うんです。それが山田くんの魅力かなって思っていて。目の位置が動くっていうのはアニメーションの特権だし。そういう記号としての感情表現の自由度を探っているんだと思ったんだけど。逆に平岡くんは記号をどこか信用していないのでエンコードせずに感情をRAWなままアニメーションで扱えないかを探求していると思う。
山田: モノマネも同じですね。一回落とし込んで記号化する点では。
細金: そうそう、一度エンコードして記号化した後、デコードし直す作業。コロッケの「ロボット五木」みたいなこと。あれって一回記号に落とし込まないとできないはずで。
稲葉秀樹: 山田くんの過去作「Hunter」(2017年)から、今作うわ~ってレベルアップしてるって思ったんだけど、「Hunter」のときはすべて一人でやっていたからなのかな?「Philip」は、背景と人物のメリハリが効いた画面で映像として完成度高いって思った。
山田: 太田(貴寛)さんの技によるところが大きい。KhakiのVFXアーティストさん。キャラクターはデジタルで描いているから、線がパキッとなっちゃうのを、うまく締めて背景とマッチングさせてくれた。これまでのMVでオンラインにはいることをしてなかったから、その効果を実感してる。あと普段背景に文字を入れないのは、時間がないのと、デッサン力の問題からなんだけど、小林君はデッサン力がとにかく高いので背景も描ける上に、レタリングもできる。なので背景の説得力が「Hunter」に比べて格段に上がっていると思っている。
──本作をはじめ、山田さんのこれまでのMV作品はオリジナリティとクオリティともに、見応え抜群のラインナップです。MVはアーティストのプロモーションという商業的側面もありますが、MVというメディアをどう捉えていますか?
山田: 自分の作品という意識はあまりなくて。僕は、みんなと作るのが好きで、もっと多くの人達と作れるといいなって考えています。作家性とか自分の作品だ、みたいなところはあまり意識していないですね。もちろん自分の作品としての責任は持っていますが、関わる人たちも同じくそう思っているのがいい。そう思っている人が多ければ多いほど、いい作品ができるんじゃないかなって思ってます。millennium paradeに関して言うと、プロモーションサイドと制作サイドの関係性が近いので、やっぱり純度の高さが圧倒的だと思うんですね。そういうのはいいなって思います。
「エンコードし記号化をしてデコードしている」と細金氏が解説するコロッケによる「ロボ五木」
近日クリエイティブハウスmimoidのメンバーに迫るインタビューも公開予定!「誤発注大歓迎」と語るその真相は?お楽しみに。
mimoid.inc
東京とアムステルダムを拠点に活動するクリエイティブハウス。
リサーチ及び企画、映像制作が主事業。細金卓矢 (ディレクター/プランナー )、山田遼志 (アーティスト )、稲葉秀樹 (映像ディレクター)、平岡政展(映像ディレクター)、別所梢(プロデューサー)からなる。