加速する消費スピードから離れ 理想郷を探りたい
mimoid.inc. 東京とアムステルダムを拠点に活動するクリエイティブハウス。 リサーチ及び企画、映像制作が主事業。
──個人の作家として活躍されているみなさんですが、今回法人化した背景にどのような思いがあるのでしょう?代表は細金さんが務めていますね。
細金(卓矢):形になっていく段階で、僕が代表をすることになりましたが、発起人は平岡(政展)です。
平岡(政展):僕らだいたい同じ世代で、iMac世代というか、一人でも映像を完パケまで作れるようになった世代。この世代の特徴に、作った映像をVimeo(動画配信サイト)のプラットフォームで発表して、見てくれた人から仕事が来るっていう流れがあって。僕らは、その辺のざっくりしたコミュニティメンバーなんです。そこでみんなが、共通して感じていたことが、”消費されて終わっている”という問題意識。一人の力だと何もできないけど、僕らが手を組んだら、少しでもこの憂鬱な流れを変えられるんじゃないかなって思ったのがきっかけでした。
平岡政展:映像ディレクター。2017年アニメ「リトルウィッチアカデミア」のEDを担当。 日清カップヌードル「アオハルかよ。」をはじめ数多くのCMでアニメーションと企業広告をうまく融合させ、印象に残る映像を数多く手掛けている。BATTLES、FLYING LOTUS 、RED HOT CHILI PEPERSなど海外アーティストとの仕事も多く、国内問わず活動の幅を広げている。
──それはコロナとも関係あるんでしょうか?
平岡:構想自体はずっと前からあって、5、6年前に遡るんですが、細金くんがL.A.にあるプロダクションBuckで働いている時、僕もフリーランスとして仕事を手伝ったりしていました。その頃から海外を拠点に会社作ってみるものありだねって、話していました。ところが、気がつくと細金くんはベルリンに引っ越し(現在はアムステルダム在住)、僕は日本でCaviar(中村剛率いるディレクターコレクティブ)に所属し、時だけが経っていたという実情に。
細金:一昨年くらいから、会社を作ろうっていう話が本格化してきて、平岡が稲葉(秀樹)と山田(遼志)を誘って、僕が別所(梢)を誘って、順次メンバーが集まりながら、考えを共有していくというプロセスでした。
mimoid代表 細金卓矢:ディレクター/プランナー 。2005年「四畳半神話大系」のエンディングアニメーションを担当。 2013年米LAのBUCKにてアニメーターとして参加。2011年から2020年にかけてデザインあにディレクターとして参加。 tofubeats No.1 feat.G.RINAのMVを制作。実写、モーショングラフィックス、ストップモーションなど、手法を問わず表現の幅を広げている。
平岡:動き出すまでに時間はかかってしまったけど、その間にみんなとは、一緒にVJをしたり、ご飯に行ったり日頃からプライベートでも仲良くしてきたし、クリエイターとして尊敬もしているから、このメンバーだったら、問題が持ち上がっても乗り越えていけるだろうなっていう思いは強くなりました。僕たち驚くほどそれぞれタイプが違うのですが、それがまた面白い。
山田(遼志):僕は東ヨーロッパのアートアニメーションが好きっていうところから始まっています。だけど仕事に追われて表現や作品について話せる場所に行けなくなったことに対して焦りがあったフリーランス同士って、そこまで重なり合わないんです。VJやったりZINEを作ったり試行錯誤はしてたけど、もっと突っ込んで色々できないかなって。フリーの作家同士で会っても最近の仕事の話で終わりがちで、突っ込んだ話や、実験の途中みたいなのを見せ合ったりとかあんまり無い。昔からもどかしさは持ってたけど、ドイツに行った時に向こうの友人と多くの議論をしたことが大きな影響かもしれない。だったらそういうことをラフにできる会社を作っちゃったほうが潔い。
山田遼志 :アーティスト。2013年多摩美術大学大学院修了。2018年に文化庁海外派遣研修員として、ドイツのフィルムアカデミーに一年在籍。広告映像に携わりながら作品制作を行う。アヌシー国際アニメーション映画祭をはじめ国内外の映画祭やメディアで上映、掲載、受賞。代表作にKingGnu「PrayerX」、「Hunter」など。
──今年は世界中がコロナに見舞われ、国際情勢もザワザワとした時代になってしまうとは想像できませんでしたね。そんな年に会社を登記というのも、なんだか印象深いですね。
平岡:先ほど、作品発表の場がVimeoって言いましたが、今の主流はYouTube。YouTube一強の時代に入り、コロナでますます拍車がかかった印象があります。それにともなって消費スピードはさらにあがった。そこに対してどうアプローチできるのって考えた時に、もはや「いい作品を作ればいい」ってことだけじゃダメだなって。映像だけじゃない動きも必要。こんな時代における理想郷はどこにあるのか、コミュニティが大事にされて、安心して長く創作活動が続けられる場所を模索したいんです。
──「映像意外の場所」というところで、プロデューサーの別所さんは映像業界とは違うバックグラウンドですが、どのように捉えていますか?
別所(梢):前職では漫画家やイラストレータ等の作家と関わることが多くて。アーティストのクリエイティブの方向性って本当に様々なのに、仕事の依頼、というか仕事の型はほぼ決まっている。それがもどかしく感じていた時、細金から「仕事の型を作る仕事をしませんか?」って誘いを受けました。これはいいタイミングだと。メンバーと初めて会った時に印象的だったのが、「いいものを作りたい」と口を揃えて言っていたこと。それでいて、どう世の中にアプローチしていくかは凄く現実的に考えていて、かつ行動もしている。そういう人達が集まれる会社って、探してもカンタンに見つからなさそうだと思いました。
別所梢:プロデューサー。武蔵野美術大学映像学部卒業。在学中より有限会社タコシェ勤務。書店業務の傍ら国内外作家の展覧会や出版企画、レーベル運営に携わる。紙媒体への寄稿や、アニメーターとして企業広告、TV番組などにも参加。メディアを問わず活動を行う。アニメーションプロデュース作にピノとピノコ「かわいい」って?等。
時間に対してのパラメーターを考える会社。キーワードは”誤発注”
──具体的な業務内容ですが、メンバー構成から推測するに、モーショングラフィックスやアニメーション制作がビジネスのコアになりますか?「映像以外のアプローチ」という声もありましたが。
細金:mimoidは「時間に対してのパラメーターを考える会社」だと捉えています。アニメーションもモーショングラフィックスもそのひとつ。ほとんどの体験は程度の差こそあれ時間軸と情報の変化によって立ち上がる、という切り口で捉えるということです。我々は特に視覚表現を得意とする集団ですが、その情報の内容は本来味覚でも触覚でもいい。
たとえば、コロッケにもタイムラインがあります。サクッときてその後ホクホクする食感や、ガツンとくるソースと油のうま味からの中和する芋の安心感、包み紙を通してじんわりと伝わる熱さ、衣と包み紙の擦れるガサガサした音、などの複合タイムラインですよね。フォーマットとしては静的な絵画も、最初にここを見て、次にあちらを見るだろう、あるいは近づいたり離れて見たくなる、という、視点の誘導に時間軸があるということが絵画の要件になってくる。そう考えると、他ジャンルの人とも共通言語を持って、会話ができるのが面白い。例えば、触覚系VRの研究をしていた友人がいるのですが、手に対してこういった刺激が最初に強めに入力されて、その後弱めの継続的な刺激が続くとこういう感覚になる、などという話はまさにアニメーションだなと感じました。逆に言えばとても美味しいコロッケを、抽象的にコントロールして作れる人というのは映像もすぐ上達するのだと思います。当面コロッケを作る予定はありませんが、「時間とパラメーター」を演出する会社として、広いジャンルに適応していきたいと考えています。
もうひとつ、僕は”誤発注”という概念が好きなんです。この概念は以前在籍していたボストークの伊藤ガビンさんが積極的に楽しんでいたもので、僕自身も誤発注されてきたし、今度は他のクリエイターに対して、意図的に誤発注していきたいと思ってます。本分としていないところの仕事を、きっとこの人の見ている景色はいい、というところを根拠に信頼して頼むことは、「前やっていたアレみたいな感じで。」というオーダーとは全く異なる頼み方だし、新しいものが生まれる余地がより大きいと思っています。自分自身も「見ている景色が良さそう」という理由で誤発注される事を光栄だと思っていて、そういう発注が増えてほしいですね。
──確信犯的な誤発注で、化学反応を起こしていくというのは面白そうですね。同じスタイルに縛られがちなクリエイターたちの環境を活性化しそうです。
細金:同じスタイルに、自分から縛られにいく人の理屈は理解出来ます。実直さや、ひたむきさ、安心感といった印象の獲得が、有利な局面は結構あるからです。個人的には、興味の範囲が狭い、というイメージも反動で付きまとうので、メリットばかりではないトレードオフだと考えていますが、一般的にはメリットの方が多いとされているのかもしれません。
一方で、好奇心が強くあれもこれもと手を出してみるタイプの人は、良く言えばジェネラリスト、悪く言えば器用貧乏。少し過小評価されているのでは、という気がします。「何でもそこそこ出来る」だけの場合は確かに器用貧乏に見えるかもしれないけれど、「何かがかなり出来る」人にとって、隣接領域を超える桂馬(ナイト)としての動きは、面白いことが多いし、純粋に見てみたい。また、誤発注される側としての視点で言えば、常に何かの領域の初心者でありたいという思いがあります。
別所:mimoidにその誤発注がされた場合に、会社として巻き取れる環境をコアに持っておきたいんです。
細金:たとえば実写経験がないメンバーに実写の依頼が来た時に、そのリスクを他のメンバーが手助けすることできちんと着地できる、誤発注耐性を上げていくことでより「いい景色」を活用できる、という感覚です。
──新しい「仕事の型」と「誤発注」が組み合わさったものって、どういうものを想定していますか?
別所:例えば、「これをPRしたいんです」という依頼に対して、「どういう動画にしましょうか」って映像ベースで話を進めるのが通常の発注だと思うんですけど、もう一歩手前の段階、どのメディアが適しているか、ブランディングにどう関わるか?というところから提案できるようなフォーマット作りかなって考えています。mimoidメンバーを中心に適切な座組を都度組んで、何でもやっていけると面白そうだなって。
tofubeats – No.1 feat.G.RINA|dir: Takuya Hosogane
──みなさんはどんな誤発注されたいですか?
平岡:実写の演出をやりたくてCaviarに所属したのですが、未だアニメーションをひたすらやり続けています。踏み込むのに勇気がいるじゃないですか。得意分野が確立してきた時、その精度を上げていくのか、未知の領域に踏み込んで幅を広げるのか?っていう問いがありますよね。誤発注の範囲には含まれないかもしれませんが、クレイアニメや3Dプリンターを使ったストップモーションなどの隣接領域に手を伸ばしたいという気持ちもあります。
細金:僕は話を作ることに興味があります。妻がマンガ家ということもあって、プロットやストーリーの制作風景を見ているうちに興味が出てきました。モーションだけじゃない、別の角度から提供できることがありそうだなって感じています。
稲葉(秀樹):つい最近、自分の引き出しを広げたくて新しい表現にチャレンジしました。チャレンジは新しいことを発見できる面白さもあるし、なかなかうまく進めないという難しさも両方ありますね。なので誤発注を受けながら、新たなチャレンジをしつつ、今持っている表現をさらに深く掘り下げていくことも引き続きしていきたいと思っています。僕は自分のことを作家とかクリエイターって感覚があまりなくて…。単純に「仕事をしている人」って感覚なんです。この映像の仕事は、僕に多分合っている気がするし、仕事自体は好きですが、たまたまこの仕事に就いて、今があるって感じですね。
Slowly Rising|dir: Hideki Inaba
──それは意外ですね。作家性の炸裂した映像を作っているので。
稲葉:そう思って頂けて嬉しいです。僕の仕事は、クライアントからのお題に対して、回答として映像を作っている感覚なんです。なのでクライアントがその回答である映像に対して喜んでくれる瞬間が一番楽しいです。だから作家とかクリエイターって感覚があまりないのかもしれないですね。
細金:mimoidで一番不思議な人です。
──一番ミモイドなメンバーかもしれませんね。稲葉さんは、12月12日には、グローバルなモーショングラフィックスのイベント「Motion Plus Design」でプレゼンテーションをされるそうです。楽しみにしています。
稲葉秀樹:映像ディレクター。2017年 Red Hot Chili Peppers「Getaway Tour Viz」に映像作家として参加。オランダのミュージシャンBeatsofreenのミュージックビデオ「Slowly Rising」にて第20回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。 繊細で緻密なアニメーションのスタイルを得意とし、CM、MV、OOHなど幅広く手掛けている。
これからのmimoid 海外:国内=50:50に
L’Œil du Cyclone|dir: Masanobu Hiraoka
──細金さんがヨーロッパ在住ということで、ロケーションを生かした活動もプランしているんですか?
別所:クライアントは世界に広げていきたいなって思ってます。その際に細金がアムステルダムにいることをどう活かせるか、これから力を入れていきたいところです。アムスにいるからこそ仕事が頼みやすいと思ってくれるクライアントもいるわけなので。
平岡:アムステルダムにいいモーションのスタジオAMBASSADORSがありますね。将来的に、クライアントの割合を海外:国内が50:50を目指してます。
別所:日本のアニメーターを海外に紹介することもできるし、海外のアニメーターを日本の案件に引っ張ってくることも積極的にしていきたい。
──チームとして、これからもフレッシュに保ち続けるために考えていることはありますか?
別所:手法や作風が異なる人を積極的に入れて、自分たちの立ち位置をずらしながら、新陳代謝していきたいと思っています。特殊技能持ちの人だとしても単純にその人に全振りするのではなく、教えてもらったり、逆にこちらのやり方を取り入れてもらったり。チームとして停滞しない環境づくりは考えています。
細金:自分たちを何かを教えたり伝えないといけないという状況に追い込むことで、自分の知見を抽象化する圧が高まりますし、相手に教えてもらう、相手に教えられるようにする準備を両方しておきたいと思います。
別所:来年にワークショプを試験的にしたいですね。
山田:知見を広める場でもありたいよね。新しいテーマや知らなかった作品の発見の場にもなりそう。リファレンスの選択肢を増やすような活動もしていきたい。
King Gnu – Prayer X|dir: Ryoji Yamada
──クリエイティブ業界の視野が狭いんじゃないかと。
別所:ビジネス新書で「美術をわかろう」ってキャッチコピーのついている書籍で紹介されている美術って、クラシカルなものばかりなんですよね。もしくはテクノロジーアートに特化しているか。現代美術を知ろういうのはすごく少ない。もちろんクラシックが基礎だから、最新技術とビジネスは密接しているから、という考え方はありますけど、今世界でどういうものが作られているかをシェアするプラットフォームは相対的に弱いと思います。
山田:みんなカンタンにアートって言う。自分の学生の頃もそうでしたが、「こういうのが正解だよ、売れているよ」って言われて、それに憧れるんですけど、あっという間に平均化されて、異質なものが受け入れられなくなっちゃっている気がするんんです。リファレンスも平均化されたわかりやすいものばっかりだし、アートもそうなってるって感じる。
細金:「わかりやすいに抗いたい」っていう気持ちは僕もある。「わかりにくい=悪いこと」あるいは「わかりやすい=良いこと」という考えは半分正しいけれど、半分は間違っていると思っています。良いことが何かなんて、そもそもわかりづらくて当然というか。広告案件は基本的に、「もっとわかりやすく」っていう方向がすごく多い。それは半分は理解できるけど、クライアントの先にいる消費者をもっとリスペクトしたいとも思う。人はそんなに愚かじゃない。そこに敏感な人が増えているとポジティブに信じることでしか、正気を保てないと思っています。
平岡:アウトプットとしては、つながっている海外のアニメーターも誘って一緒にZineを作ったり、Podcastsをやろうって話してます。山田くんの言う考える場所の一貫にもなるだろうし。細金くん、別所さん、山田くんがテーマに沿ってトークする番組はやる予定。
──最後に、mimoid(ミモイド)、響きがかわいい社名ですが、どのような由来がありますか?
細金:「ソラリス」という小説から名前をもらいました。ある星に居る(あるいは在る)知性や意志があるのか分からない、正体不明の存在が”ミモイド”と呼ばれています。その人類とは完全に異質の存在に、科学者らが色々なアプローチから理解と対話を試みていくパートがあり、そのような異質な存在に対話と理解を試み続ける姿勢でありたいと、あやかりました。
──コロナ禍において、ウイルスとの共存を想起させますね。ありがとうございました。
年末企画:mimoidメンバーによる、今年観たおすすめ映画/ドラマ/その他
別所梢:映画「はちどり」
思春期特有の不安定で曖昧な様が繊細に描かれている映画。主人公の足元の不確かさが手に取るように分かり、コロナ禍で自身もまた不安定になっていたのだとこれを観たことでようやく気付けた、大げさですが心が洗われた一作でした。
稲葉秀樹:Amazon プライムビデオ「The Boys」
僕、一枚の画面の中に全部の感情がはいっているってのが大好きなんです。喜び、悲しみ、憎悪、愛、感動などなどが一つの画に詰まっているクライマックスにグッときました。
平岡政展:Netflix「梨泰院クラス」と「半沢直樹」
コロナで精神的にネガティブになってたから、わかりやすいエンターテイメントに心が上がりました。勧善懲悪ものは観てて感情移入しやすくてスッキリしました。コロナ前の世界なので、楽しい世界が他にあるんだっていう希望と癒しでした。
山田遼志:Netflix「ミッドナイトゴスペル」
ポッドキャストのインタビュー番組の音声に、全く別の世界を描いたアニメーションが乗っている。作り方も面白いし、瞑想的な視聴体験。怪作「アドベンチャー・タイム」のペンデルトン・ウォード監督の新作です。
細金:短編小説「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」
テッド・チャン(映画「メッセージ」の原作「あなたの人生の物語」の著者)の「息吹」に収録されている短編小説です。ソフトウェア上の知性を持った生命体が性を獲得することの意味を考えさせるSF小説。
映画「リーマン・トリロジー」(サム・メンデス監督)
リーマンブラザーズの三世代を描いた演劇作品を映像化したものを映画館で観たのですが、mimoidの会社を登記した日にだったのもあって個人的に忘れられない体験となりました。