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ミシェルとオリビエのゴンドリー兄弟がリモートで制作した
IDLES「Model Village」の切り絵アニメMV

金井哲夫 金井哲夫 Nov 13 2020
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長編映画「エターナル・サンシャイン」をはじめ、CM、MV界の大御所兄弟ミシェル・ゴンドリーとオリビエ・ゴンドリーが、今度はIdlesの新曲「Model Village」でコンビを組み、お互いの長所を活かしたMVを制作した。

とくにミシェルが手がける作品はこのNEWREELでも何度も紹介しているが、オリビエと共同監督した作品として、ケミカル・ブラザーズの「Got To Keep On」のMVも過去にお話しした。とにかくミシェルの代表的なMVでは(「Star Guitarなど」)、視覚効果アーティストでもあるオリビエが参加し、その技術を活かして高度なVFXを作品に加えている。今回は、ロサンゼルスのミシェルが原案を考え手描きした素材を、パリのオリビエがデジタル合成するというリモート作業だった。

この曲は、イギリスのポストパンク・バンドIdelsが9月にリリースした新アルバム「Ultra Mono」に収められている「Model Village」。Idlesのボーカル、ジョー・タルボットは「模範的な村」と題したこの歌について、こう説明している。
「まさに金魚鉢みたいな街で暮らすのがすごく嫌で、できるだけ早く街を飛び出したんだが、そこで知ったのは、金魚鉢なんてものは存在してなくて、ただ魚がいるだけということだった。それもいたるところに」

金魚鉢みたいな街とは、プライバシーのない街ともとれるし、狭い閉ざされた世界ともとれる。そこに暮らす魚たちの閉鎖的な社会から彼は飛び出したかったのだが、外に出てみたら、あの環境は村に限定されたことではなく、どこでも同じだったってことだね。

ミシェルは、Model Villageの前半の歌詞を忠実に追いかけてアニメ化し、後半はストーリーを発展させて住民を宇宙に飛び立たせている。歌の内容はざっとこんな感じ。

この村にはペテン師に溢れてる
他にすることがないから……
模範的な車、模範的な妻、模範的な村
模範的な極右の村
あまり人に優しくない
ゴシップ新聞に燃え上がる
差別主義者ではないけれど
犯罪率も差別もヘイトも模範的にある
弱い者がボコボコにされる
ピンク色の肌の人が大勢いる
世界で一番強いヤツがいる
村中の女の子と寝たそうだ
戦え戦え模範的な村よ
お前たちの夢の社会なぞ知ったことか
結局、死ぬのが怖いだけなんだろ

さらに、ヤツらに国歌を聞かせると、意味も知らないくせに唱和する、ただイギリスってだけで国旗に敬礼し、それでみんな同族だと思い込んでいると皮肉が続く。

このMVの映像はそこからちょいと歌詞の内容を離れ、住民はロケットで月(とミシェルが呼んでいる)へ行く。月は「村では馬鹿高いドラッグ」の塊だ。それを爆破すると、街に色とりどりのドラッグが降ってくる。人々はそれを飲み、色とりどりになる。多様性が芽生えたってことかな。それに驚いた模範的な妻は、世界でいちばん強い男を呼び出す。そいつが歌うと色とりどりの人たちは吸い寄せられ、また元の色に戻される。強そうに見えるそいつだが、じつはへっぽこなタコ野郎が「わた言」をほざいているだけだった……、といったところ。

強い人に煽られて無自覚に極右思想に流される愚かな人たち。つまりそれが金魚鉢の中の「魚」だったわけね。下のメイキング動画の中で、ジョーは、大学に行くまで暮らした村の雰囲気は、今イギリスで感じているものと同じだと話している。これ、日本でもアメリカでもまったく共通してる。絵はすごくかわいらしいのに、笑えない。

しかし、最後に雲の上に手が伸びて骨を掴むシーンは、「2001年宇宙の旅」でモノリスに触った猿人が骨を武器として手に取ったあれのオマージュみたいだ。進化の期待を、ミシェルは最後に付け加えてくれたのかしらね。

制作にあたっては、ロサンゼルスのミシェルが手描きのイラストを切り抜き、キャラクターや建物を作ってコラージュしたものを机の上にセットしたiPhoneで撮影し、そのデータをパリのオリビエがコンピューターで加工し合成した。

このMVは、ファイル送信サービスのweTransferとのコラボレーションで行なわれた。彼らのキュレーションサイトwePresentの記事では、彼らの創作の過程が語られている。

ミシェルによると、2人は「完全に真逆のテクニック」を使ってこの作業に取り組んだという。「だから私たちはこの作品を楽しめたんだ。私は、紙を切り抜いて、一コマごとにカメラの下で紙を動かすという原始的な作業を行った。オリビエはそのすべてを、インビトゥイーンのモーフィングやワーピングやCGを使ってつないでいったんだ」

Idlesのジョー・タルボットは、2009年にミシェルが監督しオリビエが視覚効果を担当したThe White Stripesの「Fell In Love With A Girl」のMVを見て、ゴンドリー兄弟の大ファンになった。

The White Stripes – Fell In Love With A Girl

「自分の想像性と語用論とエンジニアリングをどう使えば、コンピューターを使わずにそれが実現できるか」というミシェルの考え方にジョーは感銘を受けた。そしてゴンドリー兄弟と仕事をすることを夢見ていた。それが今回叶ったわけだが、彼は、新型コロナによる隔離状態を逆手に取って、どんなMVが作れるかを考えていた。そこにミシェルのアイデアがばっちりはまった。

下のメイキング動画では、ジョー・タルボット(左上)、オリビエ(右上)、ミシェル(下)がwePresentを通じていろいろな話をしている。冒頭でジョーは、自分が生まれ育った小さな街の環境を直接的な比喩で表現したいと語っている。ミシェルが今ある素材で家を作れるかとオリビエに聞くと、オリビエは、もっと絵を描いてくれてストーリーボードがあればなんでも作れるよと答えるなどなど、あれこれ聞けて面白い。

金井哲夫

雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。