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イエローと6年ぶりにコラボした
ダーク・コイのモーショングラフィックスMV

金井哲夫 Oct 14 2020

エレクトロデュオのYelloと視覚の天才ダーク・コイがMVでコラボ。正統派エレクトロニクスのダンスミュージックに乗ったキレキレのデジタルエフェクトが気持ちいい。

dir/ani
Dirk Koy
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Yello
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ディーター・マイヤーとボリス・ブランクによるスイスのエレクトロニックミュージックのデュオ、イエローの新アルバム「Point」に収録された「Out Of Sight」のMV。監督と制作は視覚の天才とも呼ばれるスイスの映像アーティストのダーク・コイ。正統派エレクトロニクスのダンスミュージックに乗ったキレキレのデジタルエフェクトが気持ちいい。

歌詞の内容は、

明日のことなど考えず
付いて行くしかない
キミは体で語る
キミのように歩きたい

キミは体裁を気にせず
私の心に躍り続ける
愛とはそういうもの
私の心を揺さぶり裏返してしまう

左に右に
キミの目が輝く
左に右に
そうしてキミは見えなくなる……

てな感じ。

70年代から活躍するイエローの2人は、その「いい歳」の風貌が渋く決まっているが、その姿がエフェクトで変化し踊る様子は、どこかコミカルでもある。「クラブを揺るがす」ほど踊りまくる彼女に翻弄され、付いて行けずに見失ってしまうおじさんといったところか。

ダーク・コイ監督は6年前にもイエローのMVを制作しているが、今回はデジタルなスタイルを前面に押し出し、鮮明な映像で、めちゃくちゃキレがいい。

Visual Atelier 8のインタビューでダーク・コイ監督は、こんな話をしていた。

1989年、母親がビデオカメラを買ってきたときから映像の世界に魅せられた。母のビデオカメラを独占して、どこへ行くにも持ち歩き、肉眼よりもファインダー越しに世界を見るほうが多いと思えるほど撮りまくった。おかげで右目の周りにはファインダーの痕が赤く付いた。

子どものころ、そのビデオカメラをテレビに接続し、アナログの設定をいじって映像を加工して遊んでいたときに発見した「制御」と「偶発性」が、その後の人生を開いたと彼は話している。今でも、デジタル作品の制作時にも、そのビデオカメラを「鉛筆代わり」に使っているそうだ。

スイスのバーゼル造形芸術大学ビジュアルコミュニケーション科でインタラクションデザインとビデオとアニメーションを学んだ後にグラフィックデザイナーとなり、グラフィックデザインと動画の融合やデジタルアートを追求するようになったダーク・コイ。強い影響を受けたのは、アニメーターのオスカー・フィッシンガーと、映像作家のノーマン・マクラレンとのことで、なるほどって感じがする。

普段は、あらゆるタイプの視覚素材を大量に集めてから実験を行い、いろいろなパターンを試しながら作品を作っているのだが、あまりにも好奇心が強く、実験の手を止めるのが難しくなるそうな。とにかく、締め切りぎりぎりまでいじり続ける。そのためときどき、最初に明確なゴールを定めずに作品を作れる自由な日を設けているという。

伝統的な手法と現代的な手法を結び付けることで、創造的進化が起きると彼は言う。どちらも互いを必要とする。いずれにせよ、クリエイティブなプロセスは今も昔も変わらないとダーク・コイ監督。今年は、ファッション映像スタジオSHOWstudioの依頼で、そのロゴマークを12本のアニメーションで表現した「キネティック・タイポグラフィー」も制作している。ここでは、ドローン、2D、3D、フォトグラメトリー、AR、VRなどを駆使しながらも、伝統的なグラフィックデザインとタイポグラフィーに軸足が置かれている。まさに新旧を結び付けるダーク・コイ監督の神髄が見られる。

雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。

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