7月に発売されたエド・シーランのアルバム「no.6 コラボレーションズ・プロジェクト」に収録されている「クロス・ミー」のMVだけど、けっこう奥が深い。モーションキャプチャー用のスーツを着てスタジオで踊るダンサー(コートニー・スカー)と、エド・シーラン自身など、そのデータが割り当てられたさまざまな3Dモデルとが交錯する。仕事を終えて自宅に帰ったダンサーは、自分自身とエド・シーランのモデルが現実でも癒着してしまっていることに気付く……
歌詞は、男性が自分のガールフレンドのことを友人に話しているという想定。ボクと彼女は一体。自分の分身。一緒のときも離れていても、ぴったりくっついてる。心配するな。彼女は浮気なんかしない。彼女を困らせることは、ボクを困らせることだ。友だちでいたければ、よく憶えとけ、てな感じ。彼女を偏愛するサイコな男ってところ。なんかちょっと怖い。この歌詞を聞くと、あの映像の意味するところがわかってくる。
監督は、ライアン・スターク。カーネギーメロン大学でグラフィックデザインを学び、AppleでiPhoneやiPadなどマンマシン・インターフェイス開発の仕事をしていたという変わった経歴を持つ人だ。Promonewsのインタビューで、スターク監督は、「モーションキャプチャーを中心としたプロジェクトをずっとやりたいと思ってた。自分にとって、映像のミニマリズムと、モーションキャプチャー用ステージのデータ処理中心な感じがあわさってファンタスティックな場所になった」と話している。
「cross me」と「cross her」という歌詞(crossには交差するという意味と、怒らせるという意味がある)から、ある人の現実の描写と、代替描写とをクロスさせるアイデアを思いつき、映画監督で振り付け師のエリン・マレーやコートニー・スカーと、歌詞とのつながりをなんとなく残す形で内容を詰めていった。
「とてもチャレンジングで楽しいプロジェクトだったよ。紙の上ではうまくいくと考えていたアイデアを、実際に100パーセント成功させることは難しいから」とスターク監督は言っていた。
ちなみに、ライアン・スタークと言えば、2017年12月にNEWREELで紹介したヤング・サグの Wyclef JeanのMV で、ヤング・サグ(Young Thug)本人が現場にまったく現れずブチ切れて、めちゃくちゃウケるMVを作った人だ。
これが「クロス・ミー」のメイキング動画。モデリング用の写真撮影の日程がエド・シーランのスケジュールと合わなかったため、蝋人形館のマダム・タッソーで、エド・シーランの写真を撮りまくったとのこと。「絶対にめちゃくちゃキモいファンだと思われたね」とCG制作を行ったMPCのスーパーバイザー、ドミニク・アルダソン氏が話している。