すでに日本でも話題になったアメリカのxFinity(エックスフィニティー)が放送したクリスマス向けテレビCMだ。1982年の映画「E.T.」の続編ということになっている。タイトルの「A Holyday reunion」とは、家族が再会して一緒にクリスマス休暇を過ごすって意味。ここでは、宇宙の友だちとの再会という意味もかかってるわけだ。
映画に出演していたエリオットの37年後の家にE.T.が戻ってきて、クリスマスを一緒に楽しく過ごして帰ってゆくという話。オリジナルの映画では10歳だったエリオットくんは現在47歳。どちらもヘンリー・トーマス氏が演じている。今のエリオットの息子と娘は、映画のときのエリオットと妹と同じ年齢に設定されている。E.T.が初めて姿を現して子どもたちが叫ぶシーンや、自転車で空を飛ぶシーンなど、懐かしい場面が今回も同じように登場する。当時のままの小道具は、30個以上が画面にちりばめられているそうだ。企画は Goodby, Silverstein and Partners 。監督は、「マルコヴィッチの穴」、「ロスト・イン・トランスレーション」、「かいじゅうたちのいるところ」などの撮影監督を務め、2013年の Apple のクリスマス CM を監督して世界をうるうるさせたランス・アコード。制作費は非公開。
メイキング動画でトーマス氏も話しているが、E.T.はスティーブン・スピルバーグ監督にとって特別な作品なので、おいそれとは続編が作れなかった。なのに、今回のCMにスピルバーグがオーケーを出したから、トーマス氏はたまげたという。しかも全編を通してスピルバーグ氏が助言をしているそうな。
このCMに登場するE.T.は、フルCGではなく、基本的にマペット(人形師ジム・ヘンソンによる造語でパペット+マリオネットのこと)。コンピューター処理はポストプロダクションでのバレ消しにのみ使用している。ラジコンや手動で動かしている。フルCGでもできるのだが、20世紀の方法にちょっと戻ってみたかったとスタッフは話している。また、パペットを使うことで、とくに子役と絡むシーンでは、子どもたちが自然に演技ができるという利点があったそうだ。
E.T.の続編だと騒がれているが、これはあくまでエックスフィニティーというケーブルTVやインターネット回線などを提供する電気通信企業のCM。エリオットが声で操作しているリモコンは、エクスフィニティーのX1 TVという製品。エリオットの息子がE.T.にタブレットの画面を見せると、そこにエックスフィニティーのロゴが表示されるなど、それとなく宣伝が入る。ちなみに、エックスX1 TVを使っている人は、リモコンに「E.T. phone home」(E.T. オウチ デンワ)と言うと、このCMが見られる。
E.T.と言えば、その世代にとっては単なる映画を超えた特別な物語だ。それを4分間のCMに使うとは、相当な覚悟が必要だろうと思われる。それに関しては、あれこれ批判もある。
このエックスインフィニティーの親会社が、巨大メディア企業のコムキャスト。そしてコムキャストは、2013年から、映画「E.T.」を制作したユニバーサル・ピクチャーズの親会社だ。そんなわけで、今まで続編を作らずE.T.を大切に守ってきたスピルバーグのオーケーを取り付けて宣伝に引っ張り出したのかとも邪推される。
コムキャストと言えば、アメリカの非営利消費者団体コンシューマリストが毎年行っているアメリカで最低の企業を選ぶ投票で、2010年と2014年の2回も1位に輝くという不人気な会社。2014年は僅差でモンサントに競り勝った。その会社が、大切に大切にしてきたキャラクターをCMに使うか? とか、といった批判が見受けられる。
たとえばアメリカの National Review 誌は、おやじ世代にとって文化とも呼べるE.T.は「何よりも心の試金石だった」とし、このCMはそれを忘れるよう奨励していると批判している。さらに、E.T.は「コムキャストを宣伝する以外に、これといった理由もなく地球に戻ってきた昔の宇宙人の友だち」で、その技術的にはるかに進歩しているE.T.に、エリオットのカウチポテト一家は、Wi-Fi やタブレットやVRゴーグルを見せて喜んでいると言っている。
ストーリーに意外性はなく、ベタと言えばベタだし、家族の再会ってタイトルなのにE.T.は家族を置いて遠い地球まで一人で来ちゃてるのもワケわからないし、最後はああなるだろうと予想はついていたものの、やっぱり最後まで見るとウカツにもうるうるしてくる。映像の力って、すごいのね。いや、E.T.の力か。