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イケアUKのクリスマスCMは
コメディーCMの大御所トム・クンツ監督作品

金井哲夫 Dec 25 2019

イケアUKはクリスマスCMにグライムMCのD Double Eを起用。「きたなくて寝転がれねー」「壁のひび割れもなんとかしろ」「このテーブルはピラミッドより古い」……家中の人形や置物たちが家主に不平不満をたらしまくる!

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Tom Kuntz
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D Double E
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イギリスのイケアがヨーロッパで放送したクリスマスCM。「批判家を黙らせろ」とタイトルが付いている。リビングルームでくつろいでいた夫婦が、なんか気配を感じた。うさぎさんのポットがラップを始める。「言わせてもらうが、ここは最低だ……」と家の内装について文句を言い出すと、人形やら動物の形をした置物たちが一斉に不平を訴える。

それを聞いて一念発起した夫婦はイケアの製品で模様替えを敢行。そして最後に「批判家たちを黙らせよう」とナレーションが流れる。

音楽を担当したのは、イギリスで大人気のミュージシャン、ディー・ダブル・イー。彼のこのラップ(正確にはグライム)が、今年のイケアのクリスマスソングになったわけだ。彼のキャッチフレーズになっている「バタバッバッ」(いろんな表記があるけど、だけどだけど、見たいな意味かな)がこのCMのおかげで子どもたちにも受けてるとか。

ディー・ダブル・イーのグライムはこう続く。「きたなくて寝転がれねーよ。壁のひび割れもなんとかしろ。床も気が滅入る。このテーブルはピラミッドより古い」。そして恐竜が「絶対無理」と言ったところで、家族は恐竜をチェストに押し込めれ、部屋の大改造にかかる。最後に恐竜が顔を出して「バタバッバッ、ナイス・アンド・クリーン」と褒めてくれる。

監督は、アメリカ人映像作家の大御所トム・クンツ。最初に務めた広告代理店での3年間のアートディレクター活動で、すでにD&ADなど数多くの賞を受賞している。1998年には、バラエティー誌が選ぶショービジネスを活性化させるニューヨーカー50人「Gotham 50」に加えられた。その後はMTVに移り、CM制作に携わった。そのころからコピーライターのマイク・マグワイア氏とコンビで数多くのCMを手がけ、やがてMVにも仕事を広げていった。そのほとんどがお笑い系。2人が最初に制作したMVがアバランチーズの「Frontier Psychiatrist」。めちゃくちゃシュールな作品だ。

2000年に2人が監督し、クンツ監督が脚本も書いたショートフィルム「Tokyo Breakfast」は、これまたおかしなシチュエーションで話題になった。

日本の一般家庭の朝食時の様子という設定なんだけど、なぜか全員がアメリカ黒人の文化にどっぷり染まってるというイカレた設定。
クンツ監督単独作品のCMとして派手なものは、2018年のApple Keynoteのためのものがある。Keynoteでどうしても必要になる重要アイテムをティム・クックCEOに決死の努力で届ける女性の話が描かれている。

届けたのは極秘の新製品とかじゃなくて、CEOご愛用のプレゼンクリッカーでしたって話。

2015年のスーパーボウルで放映されたゲーム「Clash of Clans」のCMでは、リーアム・ニーソンを起用するなど、かなり力が入ったお馬鹿作品になっている。

大御所だからこそ、大予算で思いっきりアホなことができる。その説得力というか満足度は非常に高い。おっ、というところに大物を出してくる。このイケアのCMでも、大人気の黒人グライム・ミュージシャンを引っ張り出してきてイギリスの人たちがびっくりさせた。

余談だけど、ディー・ダブル・イーは、この歌をリミックスしてシングルとして発売している。監督は違うが、リミックス版のMVも作られている。こちらは、若者が悪徳不動産屋にきたないアパートを押しつけられそうになって逃げるという筋書きだ。

雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。

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