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イギリスのセインズベリーズのクリスマスCMに
クリスマス精神が戻ってきたと話題

金井哲夫 金井哲夫 Nov 28 2019

動画ファンが楽しみにしているクリスマスCMはジョンルイスだけじゃない! イギリスで第2位の規模を誇る大手食品スーパーマーケットのチェーン「セインズベリーズ」だって毎年力作を公開している。

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Ninian Doff
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イギリスではクリスマスの時期になると、百貨店チェーンのジョンルイスが制作したクリスマス向けの心温まるショートフィルム形式のCMが放映される。毎年、著名な監督を起用し、かなり予算をかけた大作が発表されるので、世界の動画ファンが楽しみにしている。そんなクリスマス向けのCMに力を入れているのは、ジョンルイスだけではない。150年の歴史がありイギリスで第2位の規模を誇る大手食品スーパーマーケットのチェーン「セインズベリーズ」もそのひとつ。2014年に放送されたクリスマス向けCMが大変に話題になり、それ以来、毎年力作を公開するようになった。

さて、今年のCMは、セインズベリーズの創立150周年記念として、150年前にセインズベリーズが食料品店として開店したときの話という設定になっている。「あらゆる偉大な物語と同じく、この話に始まりがある」というナレーションで幕を開けると、胡散臭い男が子どもたちを引き連れて街に出てくる。男は煙突掃除の親方で、孤児を集めてこき使っている。新鮮な果物を並べたセインズベリーズの店先を通過するとき、親方は「すまないね、セインズベリーの奥さん」と呟きながら大量の果物を万引きする。そこからひとつこぼれ落ちたものを一行の中の少年が拾うとしたとき、警察に捕まってしまう。

「見つけたぞ、ニコラス・ザ・スウィープ」と警察官。少年の名前はニコラス。ザ・スウィープとは煙突掃除人という意味。運悪く誤認逮捕され街中を引き回されるニコラスに、街の人々が罵声を浴びせかける。ダンジョンに閉じ込めろ! 魔女を火あぶりにしろ! その中の一人が「公正な裁判にかけろ!」と叫ぶと、人々はドン引き。「いや、ごめん……、永久に処罰しろー!」と言い直す、てなクスグリが入る。

それを見ていた親方は、「残念だね、芯まで腐った人間もいるもんだ」と嘲笑う。セインズベリー夫人は、そんな男の本性を見抜いていた。

街から追放され、耳に残る人々の罵声に苛まれつつ雪の中で凍えているニコラスを、セインズベリー夫人が見つけて助け出す。そして馬車の中で彼に果物を差し出す。
「でも、お代を払えません」
「クリスマスに誰かに特別なことができなかったら、いつできるの?」
その夫人の言葉で、ニコラスはひらめく。
「これがボクの仕事だ」

そしてニコラスは夜陰にまぎれて煙突掃除屋の宿舎に戻り、部屋に干してあった子どもたちのソックスの中に果物を配る。朝になり、子どもたちは大喜び。親方は何の悪戯だと怒鳴り散らし、自分のソックスの中を見ると石炭が出てくる入っている(サンタさんは悪い子のソックスには石炭を入れるという言い伝えがあるのだ)。

満足したニコラスが帽子の煤を払うと、それが赤い帽子に変わる。霜が降りて縁が白くなる。赤いマントを羽織り、雪の中に消えてゆく……。という筋書き。

ニコラス、ってことは、この少年がセント・ニコラス、つまりサンタクロースになったんだね、という話だ。ニコラスを助けた夫人は、夫と共にセインズベリーズを立ち上げた、メアリー・アン・センズベリーさんなのだろう。店の歴史と、サンタクロースの歴史という超ビッグな話を結びつけた大胆極まりない話だけど、最後に「これはすべて本当の話です」とナレーションが入る。セインズベリーズのブロードキャスト・マーケティング責任者ローラ・ブースビー氏は「今年のCMは、1869年の私たちの最初のクリスマスでの出来事を語っています」と話している。どうも、ほんとに実話らしい。

監督はニニアン・ドフ。広告代理店でCM制作を行なっていたが、後に独立して映像監督になった。MVやCMやショートフィルムなどを手掛け、2016年には、Miike Snowの「Genghis Khan」のMVでは、D&ADで最高監督賞と最高振付賞を受賞した。経歴には、軍が開発した殺人ロボットなのだけど、殺人に興味を示さず、映像制作を好きなった世紀の大失敗作と書いてある。変な人だ。

セインズベリーズのクリスマスCMは、2014年に第一次世界大戦の開戦から100年を記念して制作された作品が大変に話題になった。それ以来、心にぐっとくる「クリスマス精神」に溢れたCM作品が期待されているのだけど、去年のものは評価が別れた。ジョンルイスがその前の9月に公開した子どもたちの学芸会を題材にしたCMとかぶっちゃって、ちょいと気の毒だったかも知れない(そっちは大反響だった)。セインズベリーズはクリスマスCMから撤退したとまで言われて、散々だったのだけど、今回の作品でどうやら挽回した感じだ。

金井哲夫

雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。