欧米のクリスマス休暇シーズンに向けたCMが登場し始めた。ああ、またこの季節が巡ってきたのね。その先陣を切って公開されたのが、HPのプリンターのCM。2017年にイギリスの百貨店チェーンのクリスマスCMを監督したミシェル・ゴンドリーが、今年はこちらを監督している。
CMのタイトルは「Print The Holidays」(クリスマス休暇を印刷しよう)。「クリスマスの12日間」という有名な数え歌形式のクリスマスソングがあるが、それをもじった内容だ。最初に登場する女の子が「12日間のスクリーンタイムで失うものは……」と歌い始めると、「12人の子どもがメッセージを送り、11人の男が『いいね』をして、10人の姉妹がスクロールして、9回スワイプして……」と続く。そしてついに「あと5パーセント」と最初の女の子が少ないバッテリー残量に気付く。
そこで、HPが現在行っているキャンペーンのキャッチフレーズ「Get Real」の文字が表示される。スマホのスクリーンから離れてコンテンツを印刷すれば、こんなにリア充になれるよ、という趣旨だ。このキャンペーンでは、SNSの投稿動画っぽい映像を並べて「ほんとに面白いの?」と問いかける皮肉たっぷりなキャンペーン動画がすでに公開されているが、ミレニアル世代から「OK, Boomer」(年寄りの説教を「はいはい、おっさん」と受け流すときのTikTokから流行した今時のコトバ)という大量の批判を受けてちょいと炎上したいわく付き。
さて、「Get Real」から先は、おもに子どもたちがプリンターを活用したアクティビティーで楽しむ映像に切り替わり、ハッピーエンドにつながる。
上のメイキング動画でゴンドリー監督は、スマホを使うことで世界から隔絶してしまった人たちと、コンピューターを使って現実の活動をする人たちの対比を見せたかったと話している。HPキャンペーン・ディレクターのエイミー・ローワン氏は、クリスマス休暇の間に一世帯がスマホのスクリーンを見て過ごす時間は250時間以上あることを知り、「スクリーンタイムとリアルタイムとの活力の違い」を描こうとしたと言っている。制作デザイナーのマックスウェル・オージェル氏によれば、それを空想的な映像にするために、ミニチュアや3Dプリントを駆使して、できるだけ実写にこだわったという。
最後にゴンドリー監督は、何か楽しいことができるかも知れないと期待して、とくに理由もなく紙を買うことがあるとキャンペーンのコンセプトを支持している。ペーパーレス社会なんて言葉がすっかり死語になって、DTP(これも死語?)で逆に紙の消費量が増えて自然破壊だと問題にされて、でもやっぱり紙はいいよねという、古いメディアから離れられないおっさんとおばさんの嗜好に若者たちが反発するのもわからなくもない。でも、印刷が「過剰なスクリーンタイム問題に対する答」であり、「印刷することで少しだけ画面から離れることができる」というアソシエート・クリエイティブ・ディレクターのカート・ミルズ氏の言葉が、いい感じで腑に落ちる。