イギリスの大手新聞社ガーディアンのキャンペーン動画。部屋に閉じ込められた蝶々が窓の外に見える世界は、ぼやけていてハッキリしない。外に出ようと何度も何度もガラスに体当たりして、ついにガラスを割って脱出する。なんとかして外の世界の真実を見極めようという、ジャーナリスト魂が表現されている。
その蝶々の努力を嘲笑するように、バックには「何も変わらないよ」とアナイス・ミッチェルの歌が流れる。そんなに必死になって、流れに逆らって、なんの意味があるの? 起きてしまったことは変えられない。それが川というもの。何も変わらないのだから、と。
しかし蝶々が脱出した後に、画面には「変化は可能」、「希望は力」とのメッセージが示され、空の下を自由に飛び回るたくさんの蝶々が映し出される。
これは、ガーディアンの「Hope is Power」(希望は力)というキャンペーンのためのCMだ。2022年までに購読者数200万人を目指しての宣伝なんだけど、その一貫として、ガーディアンのジャーナリズム魂を売り込むことにした。キャンペーンのサイトを見ると、「希望は力」というキャッチに続き、「世界は見たままではない。だがどう変えればいいかがわからない。今ほどジャーナリズムが重要なときはない。先人に倣いあらゆる権威に疑問をぶつける自由があれば、現状を打破できる……」といった声明が続いている。
監督は、「マン・オン・ワイヤー」(08年)で、アカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した映画監督ジェームズ・マーシュ。今年の1月にはコリン・ファース主演の伝記映画「喜望峰の風に乗せて」が日本でも公開された。
ガーディアンのCMと言えば、2012年に公開され、同年のカンヌライオンズのシルバーライオン賞を受賞した「Three Little Pigs」(3匹の子豚)が有名だ。大きな悪いオオカミを生きたまま釜茹でにした容疑で、3匹の子豚が警察に逮捕される。これがネットで炎上し、子豚は被害者だと同情的な意見が広がる。しかし、オオカミは喘息持ちで、木造の家を吹き飛ばすことなどできないという説が持ち上がる。息で木造家屋を潰すことは可能かと、科学的な検証が行われる。子豚の自作自演ではないかとの疑惑が持ち上がる。子豚は裁判にかけられ、レンガの家のローンが払えなくなったために保険金詐欺を企てたと自白する。だがそこからさらに、子豚は銀行に追い詰められたのだと世界中で炎上し、抗議活動が激化する。その間、ガーディアンの記者たちは中立性を保ち、全貌を見極めようとしている、という内容。監督はジョンルイスのCMなども手掛けるリンガン・レドウィッチ。
ニューヨークタイムズもジャーナリズム魂を前面に打ち出したCMを打っていたが、こうした動きが日本でも起きるようになれば面白いね。