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希望は力なりとジャーナリズムの重要性を訴える
英・ガーディアン紙のCM

金井哲夫 Nov 27 2019

外の世界では一体何が起こっているのか? 部屋に閉じ込められた蝶が外へ出ようと何度も何度もガラスに体当たりする──この英・ガーディアン紙の動画には真実を見極めようという“ジャーナリスト魂”が込められている。

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James Marsh
m
Anaïs Mitchell
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イギリスの大手新聞社ガーディアンのキャンペーン動画。部屋に閉じ込められた蝶々が窓の外に見える世界は、ぼやけていてハッキリしない。外に出ようと何度も何度もガラスに体当たりして、ついにガラスを割って脱出する。なんとかして外の世界の真実を見極めようという、ジャーナリスト魂が表現されている。

その蝶々の努力を嘲笑するように、バックには「何も変わらないよ」とアナイス・ミッチェルの歌が流れる。そんなに必死になって、流れに逆らって、なんの意味があるの? 起きてしまったことは変えられない。それが川というもの。何も変わらないのだから、と。

しかし蝶々が脱出した後に、画面には「変化は可能」、「希望は力」とのメッセージが示され、空の下を自由に飛び回るたくさんの蝶々が映し出される。

これは、ガーディアンの「Hope is Power」(希望は力)というキャンペーンのためのCMだ。2022年までに購読者数200万人を目指しての宣伝なんだけど、その一貫として、ガーディアンのジャーナリズム魂を売り込むことにした。キャンペーンのサイトを見ると、「希望は力」というキャッチに続き、「世界は見たままではない。だがどう変えればいいかがわからない。今ほどジャーナリズムが重要なときはない。先人に倣いあらゆる権威に疑問をぶつける自由があれば、現状を打破できる……」といった声明が続いている。

監督は、「マン・オン・ワイヤー」(08年)で、アカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した映画監督ジェームズ・マーシュ。今年の1月にはコリン・ファース主演の伝記映画「喜望峰の風に乗せて」が日本でも公開された。

ガーディアンのCMと言えば、2012年に公開され、同年のカンヌライオンズのシルバーライオン賞を受賞した「Three Little Pigs」(3匹の子豚)が有名だ。大きな悪いオオカミを生きたまま釜茹でにした容疑で、3匹の子豚が警察に逮捕される。これがネットで炎上し、子豚は被害者だと同情的な意見が広がる。しかし、オオカミは喘息持ちで、木造の家を吹き飛ばすことなどできないという説が持ち上がる。息で木造家屋を潰すことは可能かと、科学的な検証が行われる。子豚の自作自演ではないかとの疑惑が持ち上がる。子豚は裁判にかけられ、レンガの家のローンが払えなくなったために保険金詐欺を企てたと自白する。だがそこからさらに、子豚は銀行に追い詰められたのだと世界中で炎上し、抗議活動が激化する。その間、ガーディアンの記者たちは中立性を保ち、全貌を見極めようとしている、という内容。監督はジョンルイスのCMなども手掛けるリンガン・レドウィッチ

ニューヨークタイムズもジャーナリズム魂を前面に打ち出したCMを打っていたが、こうした動きが日本でも起きるようになれば面白いね。

雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。

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