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ジェイ・Z が総力をかけて妻に謝る壮大なる懺悔ドラマ

金井哲夫 Jan 17 2018

冒頭からオスカー俳優たちによるドラマが繰り広げられ、曲がはじまると妻のビヨンセや愛娘ブルー・アイビーちゃんまでもが登場する本作。そこには以前ジェイ・Zが起こしたある騒動への謝罪の気持ちが込められている。

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Ava DuVernay
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ジェイ・Z が昨年の6月に発売したアルバム「4:44」に収録された「The Story of O.J.」の MV がかなり話題になったけど、同じアルバムの「Family Feud」の MV もまた凄い。というか、こちらはかなりヘビーな内容になっている。Family Feud とは家族の争いのこと。まずは、動画のストーリーをざっくり解説しておこう。

冒頭に現れる文章は、作家で公民権活動家だったジェームズ・ボールドウィンが残した名言だ。

「この世の惨劇は絶滅の道を選ばず、反対に増殖を決めた。命は命に対する彼らの武器であり、命が彼らのすべてだ」

時は2444年。由緒あるコンスタンス家の大切な日に、若い男の小言が屋敷内に響く。亡き父の教えを厳格に守ってきた真面目な兄が、寝坊をしている妹を起こしにゆくところだ。この家の当主は妹が引き継いでいる。身支度もできていない、だらしない妹に対して「オレが (当主に) なるべきだった!」と怒る兄。

そこへベッドの中から妹のボーイフレンドが現れる。男は兄に襲いかかり殺してしまう。だが妹はそのボーイフレンドを殺し、「私が一番よ。この王座は私のもの」と言い放つ。

場面は変わって、女性大統領の前に呼ばれたアフリカ系男性とネイティブ・アメリカンの女性。彼らは「ミスター・プレジデント」「マダム・プレジデント」と呼ばれる副大統領だ。大きな力を持つ2つの家系の人間という設定になっている。

そのミスター・プレジデントの一族で過去に殺人事件があり、それが今の一族の形成に大きく影響していることを問題視した大統領は、世間に説明すべきだと話す。しかし彼は難色を示し、それよりも勇気や温かい気持ち、知恵について語りたいと主張する。これに対して、「私たちは何世代にもわたって共に戦ってきた」と助け船を出すマダム・プレジデント。

ここからミスター・プレジデントのナレーションによって、彼の一族の先祖が平和と自由に貢献してきた歴史が語られる。場面は2050年に移り、「アメリカの創設の母」と呼ばれる女性5人からなる憲法改正会議の議長が登場する。彼がもっとも敬愛する先祖だ。「その当時、アメリカを偉大にするという考え方があったが、それはお互いに恐怖心を抱かせることを意味した」とミスター・プレジデントの解説が入る。

彼女たちは、銃を持つ権利 (修正第二条) について討論を行うが、なかなか銃規制への方向には進まない。そこで議長は奴隷制を禁じた修正第十三条を持ち出し、「アメリカは家族です。すべての家族は自由でなければなりません」と語る。

場面は議長の子ども時代の回想として2018年の教会に移る。そのときに父に言われた言葉が「家族の争いに勝者はいない」というものだった。ここから父親 (ジェイ・Z) の声になり、こう話す。「ご先祖様の言ったとおりの人生を送れなかったとしても、ご先祖様が間違っていたわけではない。再び輝けると私は期待している。私たち自身の出自を忘れてはならない。いつだって家族が第一だ」

ジェイ・Z は娘を席に座らせ、自分は懺悔室に入り、ここでようやく歌が始まる。歌詞は「Family Feud」の短縮版になっているが、家族が団結していないと成功しない。家族の争いに勝者はない、と歌う。

女性やマイノリティーが白人と同等の力を持ち、国を支えてゆく社会は、ジェイ・Z の理想の未来なのだろう。しかし、そこにあっても家族の不和はいつでも起こり得る。家族がいがみ合ってはダメだ、という強いメッセージがそこにある。

とは言え数年前、ジェイ・Z は浮気をして、奥さんであるビヨンセを裏切ったことがある。ビヨンセは2016年に発売したアルバム「Lemonade」の中で、それを批判するような歌「Sorry」を発表して話題になった。この歌の最後に「髪のきれいなベッキーを呼べばいいじゃない」という一節がある。ベッキーとはジェイ・Z の浮気の相手とされた女性の名前だ。一方、ジェイ・Z は「Family Feud」で、「ベッキー、オレを放っておいてくれ」と歌ってる。早い話が、ジェイ・Z はこの MV の中で、奥さんに「ごめんなさい、仲良くしてね」と謝っているわけだ。

それを聞いているのが女性司祭の姿のビヨンセだ。席に座らされた子どもは、彼らの実の娘のブルー・アイビーちゃん。家族揃って出演しているのだから、仲直りはできているのだろう。

監督は、多くのドキュメンタリー作品を手がけるエイヴァ・デュヴァーネイ。1965年のアラバマ州セルマでのマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師率いる大行進を題材にした2014年の長編映画「グローリー / 明日への行進」で監督を務め、アフリカン・アメリカン映画批評家協会賞の作品賞と監督賞、女性映画批評家協会賞の女性による映画賞、ブラック・フィルム批評家協会賞の全部門などを始めとする数多くの賞を受賞し、アカデミー賞作品賞にもノミネートされた。

さらに、お気づきの方も多いかも知れないが、登場している俳優陣がまた分厚い。ミンディ・カリング、アメリカ・フェレーラ、コンスタンス・ウー、ジャネット・モック、マイケル・B・ジョーダン、ロザリオ・ドーソン、ラシダ・ジョーンズ、ブリー・ラーソン、デヴィッド・オイェロウォ、タンディ・ニュートン、トレバンテ・ローズなどなど、20名ほどの有名どころの俳優がこの5分間のドラマに出演している。

この MV は、グラミー賞最優秀ラップ/サング・コラボレーション賞にノミネートされている。

歌詞の中には、「ひとりの大金持ちより、もっといいものはあるか? それは2人の大金持ちだ」という意味の一節がある。明らかに、ジェイ・Z とビヨンセのことだ。大金持ちとは、こういう豪華な仕掛けで「かみさん」に謝るのだなと感心させられる。

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雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。

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