2017年のカンヌライオンズでは異例の事態が起きた。なんと、広告を対象としたライオンズで、MV がブランプリを獲得したのだ。
受賞したのは、The Blazeの「Territory」という作品。
「Territory」は、長い間家族と離れて暮らしていた若者がアルジェリアの実家に帰り、地元の友だちや家族の中で心の安らぎを感じると同時に、そこから一旦離れてしまった故郷に再び溶け込むまでの心の葛藤を描いている。
なぜアルジェリアなのかと言えば、そこにはフランスとアルジェリアの深い関係がある。20世紀前半までフランス領だったアルジェリアは、8年間にわたる泥沼にような独立戦争の後に独立している。The Blazeは、そこにテリトリー (領土) の意味を重ねているのだ。
このMVの評価に関して、広告のニュースサイト ADWEEK が、カンヌライオンズの審査員を務めたロバート・ギャラゾの話を聞いている。
それによると、グランプリの最終選考には、この「Territory」と、イギリスのチャンネル4が夏のパラリンピックの広報用に制作した「 We’re the Superhumans (dir: Dougal Wilson)」の2本が残ったという。
ギャラゾは「Territoryを20回見てホテルに帰った後も、また見たいと思った」が、「Superhuman」のほうは、何度か見ると、細かい欠点がいくつかあったと話している。
「Territory」は「見事なキャスト、卓越した映像、素晴らしい音楽、最高の編集技術」と、文句なし評価をギャラゾは下している。
結局、「Territory」は全会一致でグランプリとなった。
カンヌライオンズでMVがグランプリというのは「少し変だけど」とギャラゾも認めているが、審査員たちは全員が「Territory」に心を奪われてしまったのだそうだ。
なかでも、2分53秒あたりから始まるシャドーボクシングのシーンが美しい。ボクサーの動きと音楽が完全にシンクロしているのだ。ここから、これが音楽に単純に映像を付けたものではなく、音楽と映像がひとつの作品として作られていることがわかる。
The Blazeは、ジョナサン・アルリックとギョーム・アルリックの従兄弟同士が結成した音楽と映像のデュオ。2人とも保守的なフランスの小さな村で育ったが、ギョームはレゲエに目覚めてメイド・ハブという名前で音楽活動を開始し、ジョナサンはブリュッセルの映画学校に進んだ。あるとき、ギョームがジョナサンに自分の曲のMVを作って欲しいと依頼したことからThe Blazeが結成された。
「Territory」はThe Blazeの2作目のMVとなる。1作目は2016年に発表された「Virile 」(男らしさ) という作品だ。2人の男友だちが部屋でじゃれ合うというだけの映像なのだが、なんとも微笑ましい。
「Territory」では、引き続き、そんな無邪気な男らしさを描きつつ、その脆さも表しているという。また、友人や家族との関わり方、自由な気持ちの分け合い方などを通して、若者特有の感情をこれからも表現してゆきたいとギョームは話している。
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