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血みどろの惨劇を逆回しで見せるロシアの「低俗」コメディー MV

金井哲夫 Jan 10 2018

一度見ただけではちょっと意味がわからない。この全編逆回しMVに秘められた監督の狙いとは……?

dir
Ilya Nayshuller
prod co
Fancy Shot, Versus, Great Guns
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ロシアで20年間活動を続けている17人編成の賑やかなバンドLeningradの「Kolshik」という曲の MV を紹介しよう。

見てわかるとおり、全編が逆回し。血みどろのメチャクチャな大混乱の場面から始まり、サーカスを見に来ていた女の子のシャボン玉がボトルに収まって終わる。いくつもの話が並行していて、それらが互いに関連しているようなのだが、一度見ただけではちょっと意味がわからない。

じつはそこが、この作品の監督イリヤ・ナイシュラーの狙いだ。

ナイシュラーはロシア生まれのミュージシャンにして映画監督。ニューヨーク大学 Tisch 美術大学院で映像技術を学んだ後、2008年にロックバンドBitting Elbowを結成した。

そして2013年に自身のバンドのシングル Bad Motherfucker の MV を製作し、監督デビューを飾った。
その一人称視点の映像が評判となり、2015年、ロシアとアメリカの合作映画 Hardcore Henry (リンクは予告編) の監督を務めた。

こうして、ゲームのような一人称視点のアクション映画の監督として知られるようになったナイシュラーだが、心の中では普通の視点の映画を撮りたいという欲求が溜まっていたのだという。

Little Black Bookのインタビューでナイシュラーはこう話している。

「Hardcore Henryで一人称視点の技術は頂点を極めたので、新しいことをしたかった。もう一人称視点の映画は作らないと決めたのだけど、Weeknd から一人称視点でFalse Alarmの MV を作って欲しいと依頼されて、条件がよかったのでそれは例外として引き受けることにした。でもそれが最後だ」

さて、そうして溜まりに溜まった欲求をぶつけたのが、この「Kolshik」だ。

始まりは、Leningradのメンバーが「サーカスをメチャクチャにしてみたい」と言ったことだった。

そこでモスクワの近くのトベリという街にあるサーカス劇場で、5日間かけて撮影を行った。基本的にすべて実写で、CG による後処理を少々加えている。こちらがメイキング動画 だ。

種明かしをすれば、ひとつのシャボン玉がきっかけとなって、いろいろな出来事が連鎖的に進行してゆくという話なのだが、逆回転にしたのは、見る人に考えさせて、何度も見て欲しいからだとナイシュラーは言っている。確かに、見れば見るほど新しい発見がある驚きのビデオだ。

特に気を配ったところは、残酷で気持ちの悪い映像にならないよう「ブラック・コメディーのバイブ」を一定に保つことだった。目指したのは「低俗で暴力的で、愉快なフェリーニ風」だ。

たしかに、非常にグロい映像だが、全体にコメディーの楽しい雰囲気が貫かれている。

ところで、Kolshikの歌の内容は、一緒に暮らしていたダメな男が出て行ったので、記念に眉毛にタトゥーを入れてちょうだい、というもの。MVとはあまり関係がないみたいだ。

おまけ:何度見てもスッキリしない人は、逆回しの逆回し版をどうぞ。


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雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。

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