謎の笛吹きロシア人と話題のMVの作者は日仏にゆかりの女性アートディレクターだった

ちょっと前から、SNS で何度も目にする MV がある。
Vladimir Cauchemar の「Aulos」だ。
ウェブメディアでもすでにいくつか記事が出ていて、だいたい謎のロシア人リコーダー奏者の中毒性のあるミュージックビデオがヤヴァイ的な切り口だ。
確かにその通りなのだが、本誌 NEWREEL としては、このビデオの素晴らしさを語るべきなのではないか? という謎の使命感に駆られた。
手法としては、単純な合成なのだが、そこで繰り出される小ネタの数とセンスが素晴らしい。そして作るのが猛烈に面倒くさそうだ！
尋常じゃない切り抜きの数。カメラもところどころ動いているし、なんでこんなに面倒くさいことに情熱を燃やしているんだろう？ と思うと同好の士を見つけたような気分になってにやついてしまった。

この MV を制作したのはいったい何者なんだろう？

Vladmirさんに突撃取材にいってみるかと思っていると、本人の思いがけないツイートをみつけた。

ええ〜〜〜、そうなんだ〜〜、というわけで、MV を制作した Alice Kunisue に早速コンタクトしてメールでインタビューを行った。ちなみに以下のインタビューは日本語でのやりとりです。

──MV、とても楽しみました。細かいところまで作り込んであって素晴らしい内容だと思いました。しかし謎の多いプロジェクトなので、質問させてください。
まず最初に、なぜこの作品を作ることになったのか？
VladimirさんとAliceさんはどういう関係なんですか？

Vladimir は友達です！ 今回の曲「Aulos」が有名な Ed Banger Records でリリースされることになったとき、元々知り合いの Pedro Winter から一緒に仕事をしようって連絡がきました。

──おお、Pedro Winter って、Daft Punk と Justice の元マネージャーでこのレーベルのオーナーですよね。フレンチエレクトロの有名レーベルからのリリースということも驚きましたが……。
Aliceさんは普段どこで活動されているんですか？

フランスです！

──普段から、こうしたビデオを制作されているのですか？

普段はイラストレーション、写真やビデオを含める art director の仕事をしています。こうして自分で撮った映像を作るのは初めてです。

──ええー、はじめてなんですか！　それにしては構成からなにから非常に凝っていると思うのですが、どうしてこのような内容になったのですが？

音楽を何回か聴いて、浮かんだイメージをとりあえず描いて、後から少しずつアイディアを整えていきました。日本やアジアの公園でよくみる朝体操をしているおじさんやおばさんのイメージがなんか強かった。
撮影とeditをしている時はタイミングと composition に特に注意したかな。

──このようなタイヘンな多重合成の手法を選んだのはなぜですか？

普段からビデオコラージュをするのが好きなのでその方法が一番簡単でしっくりきたかな。

──しかし大量の切り抜き作業ですよね。これはキーイングはどうしたんですか？

ビデオは結構安いカメラで撮り、撮影の質のチープな所を敢えて隠さないでおきました。後からの edit は AfterEffects を使いました！ パソコンの調子が悪くてちょっと大変でした！（笑）。
キーイングはAfterEffectsのマスクやキーライトを使いました。

──標準的なツールで、ちまちまと切り抜いたんですね。めちゃくちゃしんどそう……。

確かに締め切りが近かったので徹夜を何回かしました。でも時々夜中に仕事しながら一人で結構ウケてました！

──Vladimir Cauchemarについても教えてください。彼の音楽は非常にユニークですね。そして面白そうなキャラクター。彼はいったいどんな人物なのでしょう？

Vladimir は大好き！とても面白くていい人、周りにいて楽しい。
musicianとproducerとしてのタレントがすごいです。仕事がすごく早い、楽しくいろんな作品を作ってます。

──ほー。ますます興味がそそられますね。来日公演してほしい。
ところで、このMVが突然日本でバズったわけですが、そのことを知った時、どう思いました？

ビデオが完成した時に、日本っぽいユーモアだなあっと自分で気づいたので、日本人にウケてもらってすごく嬉しいです。

──ありがとうございました。この MV を楽しんでいる人たちになにかメッセージはありますか？

ちゃんと野菜と果物を食べて寝不足しないように！

Alice Kunisue のwebサイト