雪に覆われた荒涼とした平原。そこかしこに切り株が目立つ。そこへ薪たちが集まってくる。
日が暮れて寒くて仕方がない。すると、年老いた太い薪は、手に持っていた杖を折り、マッチで火をつけて焚き火を始める。
温かくなったのは一瞬で、すぐに火は小さくなった。
そこへ、小さな薪が自分の体から生えていた葉っぱをもぎ取り、火にくべる。それを見ていた他の薪たちも、自分の枝を折ったり皮を剥がしたりして火にくべる。
だが、いちばん強そうな薪は自分の体を提供しようとはしない。別の薪が、隣の薪に手頃な枝が生えていることを強そうな薪に知らせると、強そうな薪は枝が生えている薪に襲いかかる。
それに加担する薪と、止めようとする薪の戦いが始まる。
最後には、いちばん小さな薪が生き残る。彼は、この戦いに疑問を持ちつつも、火で暖を取ることで一夜を過ごすことができた。
朝、遠くから木を倒すチェーンソーの音が聞こえる……。
薪が焚き火に当たるという、ユーモラスでありながら、どこか恐ろしい話。スイスのNils Hedingerが製作し,2014年6月に発表したショート・アニメーションだ。2015年にはスイス映画賞で最優秀アニメーション賞を受賞し、世界各地で上映された。
それがアニメーションのニュースサイトカートゥーン・ブリューが主催する今年のCBフェストで上映され、同時にVimeoで公開されたことで再び話題になったというわけ。
Hedingerはスイスのルツェルン美術大学でアニメーションを学んだ後、独立してストップモーション・アニメーションやイラストを製作してきた。これは、彼のメジャーデビュー作品と言える。
この作品では「危機に際したときに、人と人がどう関わるかを表したかった」とHedingerは話している。
ただし、薪が焚き火を囲むという、滑稽だけど考えてみれば残酷な設定だし、そこに込められたメッセージが強く出過ぎて説教臭くならないようにと、敢えてキャラクターを可愛くして、シンプルで楽しい2Dアニメーションにしたという。
最後のチェーンソーの音が聞こえるシーンは、「人生は繰り返すということ、新しい薪がまた生み出され、自分自身を燃やすということを暗示している」のだそうだ。
「昔のアニメーションが大好き」というHedingerは、キャラクターをしっかり2Dアニメーションツールでリギングしているものの、セルアニメーションのようなぎこちない動きを出している。HedingerのTIMBERサイトの「Making of」では、そんな製作の様子が、絵コンテからポストプロダクションまで細かく写真で紹介されている。
また、気になるのが風に舞う雪だ。これがすごくリアルで、漫画っぽいキャラクターや焚き火に奥行きをもたらしている。クレジットを見ると、なんと「スノーフレーク」担当として、Yves Gutjahrというアニメーターがついていた。地味なところで結構凝ってる。
楽しいことに、ここに登場する薪のキャラクターのペーパークラフトがあり、それにはマッチ棒が1本付属している。「だからすぐに燃やせます」とHedingerは言っている。