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黒人のステレオタイプをド直球でぶつけてきた
JAY-Zの「The Story of O.J.」

金井哲夫 Dec 20 2017

6月30日に発表されて以来、大反響を呼んだ本作。なんとも自虐的なMVに見えるが、ここには深い深い意味が込められてる。

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Mark Romanek, JAY-Z
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The Mill
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Titmouse
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1940年代風のモノクロのアニメーション。ステレオタイプのアフリカ系アメリカ人 (ここではあえて「黒人」と表記) の描写。

そして連発される「二ガー」という言葉 (二ガーは黒人を示す侮蔑語。黒人同士では自分たちのことを「二ガー」って呼んだりもするけど、黒人以外が使うとめちゃくちゃ差別的) ……。

なんとも自虐的な MV に見えるが、ここには深い深い意味が込められてる。

これはジェイ・Z の6月30日に発売されたアルバム「4:44」に収められている「The Story of O.J.」の MV だ。

さて、歌のタイトルになっている O.J. とは、フットボールの元スター選手で、殺人事件やカーチェイス事件でも話題になった、ご存知、O.J. シンプソンのこと。

彼が言ったとされる「私は黒人じゃない。O.J. だ」という言葉が大きな論争を招いたのだけど (じつは社会学者のハリー・エドワーズが O.J. の心境を代弁した言葉が一人歩きしちゃったわけ)、この歌はまさに、その言葉に対するJAY-Zのアンサーソングだ。

「色の薄い二ガー、黒い二ガー、ウソ臭い二ガー、生粋の二ガー、金持ちの二ガー、貧乏な二ガー、召使いの二ガー、農家の二ガー。でも結局、二ガー」というリフレインの歌詞は O.J. に向けられているが、自分のことでもある。ジャーナリストの ディーン・バンキットによるインタビュー でこの歌が話題にのぼったとき、JAY-Zは、どんなに成功しても、黒人は自分が黒人であることを忘れてはいけないと話している。

監督はジェイ・Z 自身と、長年にわたりチームを組んで MV を製作している映像監督のマーク・ロマネク。

マーク・ロマネクと言えば、1980年代からミック・ジャガー、キース・リチャーズ、デイビッド・ボウイ、ビヨンセなど大物ミュージシャンの MV を数多く手がけ、2010年にはカズオ・イシグロ原作の映画「私を離さないで」の監督も行うなど、超ベテラン監督だ。

そのロマネクとジェイ・Z は、この歌にどんな映像を合わせるかを話し合い、昔の黒人差別的なアニメーションの雰囲気を出そうと決めた。

その昔、みんながテレビなどで普通に見ていたアニメーションでは、今からすると黒人がかなり差別的に表現されていることが多かった。

黒人は顔が黒くて唇が厚いとか、貧しいとか、スイカをよく食べるとか、そんなステレオタイプが当たり前のように定着していた。

そこを、ジェイ・Z とロマネクは敢えて前面に出してきた。そのアイデアをポストプロダクション The Millに持ち込み検討を重ねた結果、その当時のアニメーションの雰囲気を出すために、昔の手法で作ろうということになったのだ。

ただし、昔ながらの雰囲気のこのアニメーションには、さまざまな技術がつぎ込まれている。AWN.COM に掲載されたザ・ミルのリーシャ・タン (クリエイティブ・ディレクター) とティム・デブリン (アート・ディレクター) のインタビューでは、昔ながらの手法どおりに作れば9ヶ月かかるところを、数々の最新技術と数多くの人の手によって6週間で仕上げたと語られている。

このインタビューのなかで、どんなツールを使ったかという質問に対してタンは、「Photoshop、Illustrator、Cinema 4D、After Effects、Animate、Flame、それに何より重要だったのが紙と鉛筆」と答えていた。
手描きの背景、セルアニメーション、3D CGなどの技術が混在しているのだ。

JAY-Zはアーティストとしても実業家としても大成功を収め、資産は500億円とも言われている。奥さんはビヨンセという、超セレブ中のセレブなのだけど、そういうわけで自分は黒人だというスタンスを堅持している。
どんなに金を稼いでも、金はいずれなくなる。金持ちだからと言って白人と同化するのではなく、黒人として平等な社会を目指すべきだと訴えているのだ。
この歌が、そうした「カンバセーション」(会話) を引き出すきっかけになればよいと彼は話していた。

6月30日に発表されて以来、この歌とは大変な反響を呼び、この歌とMV とアルバムは、それぞれ 2018 年グラミー賞にノミネートされているほか、各種媒体のすぐれた作品を表彰するロンドン・インターナショナル・アワーズ (LIA) の4部門にわたって賞を受賞している。


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雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。

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