2020年の船場センタービルを
僕らは描く
──マンガとアニメーションのタイトルを変えているのは、どんな理由からですか?
村井:最初は「船場センタービルの広告マンガ」っていうタイトルでした。マンガだとおもしろいけど、動画になるとあまり響かないタイトルだと思って。マンガに比べると、世の中の動画の広告率って圧倒的に高いから、面白さが打ち消されちゃう。気持ち的には、この映像は広告だけど、短編アニメーション映画を作るっていうモチベーションで挑んでいるので、タイトルで全体をポエティックに包みたいという気持ちがありました。
候補案として出ていたのは「船着き場にて」。制作が進むにつれて、エンディング曲の「忘れたフリをして」という歌詞が、この物語全部を言ってるかもしれないと思い始めて。それでこの歌詞をまんま持ってきたんです。「治った…のか?」と本編でもあるように、ある種うつ病を忘れたフリをする町田さん、開業から50年経って若い人たちから忘れられた船場センタービル、男性中心で成り立ってきた社会の中で、こちらを向いて笑っている写真の女性…加えて、コロナ禍において、自粛期間中に感じたことを良くも悪くも忘れたフリをして前に進もうとしている僕たち。忘れたいこと、忘れられないこと、残したいこと、変えていきたいこと…そんなところを表現できればと考えたんです。
三上:ラストカットの誰もいない街から人が増えていく描写では、コロナ禍から、また人が戻ってくるといいなという思いも込められていたり。
村井:2020年の船場センタービルを僕たちは描いたっていう、証。エンドロールの実写も、あえてマスクを外したりせず、本当のことを、みんながマスクをつけている船場センタービルを残しましょうと。
──なんども繰り返し観ると、その時々でまた感じることも変わってくるんじゃないかと思わせる、アニメーション作品だと思います。最後に、コロナをきっかけに始めた習慣があればシェアください。
大川原:走るようになりました。雨の日と納品前以外は、誰もいない夜の街を1日5キロ走っています。体も動かしていないと気持ちがしぼんでいっちゃうんです。
村井:亮くんはそうね。作画しているときの姿勢が衝撃だからね。画面と顔の距離が数センチしかない。
作業中の大川原監督。確かに姿勢が気になる。「大川原監督、健康に気をつけていい作品を創り続けてください!」
村井:僕は底辺YouTuberデビューしました(笑)。時間ができたので、音楽の実験みたいなことをしていたので、それをあげちゃおうって。
三上:僕は手洗い、うがい、衛生面を気をつけるようになりました。
大川原:SNS用のオリジナルコンテンツも作りたいな。連載やシリーズ的なものをアニメーション仲間と一緒に。
村井:振り返ると、マンガ原作モノをやってみて、すごく楽しかったし、分業って大事って思った。
三上:学びが多かったです。
村井:またこういう試みをやってみたいです。
PROFILE
町田洋|マンガ家
2013年、全編描き下ろしの単行本「惑星9の休日」(祥伝社)でデビュー。短編「夏休みの町」で第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を受賞。2014年、上記受賞作を収録した短編集「夜とコンクリート」(祥伝社)を刊行。2018年9月より、初の連載「砂の都」をモーニングツー(講談社)にて開始。
大川原亮|アニメーション監督、イラストレーター
1986年神奈川県横浜市生まれ。2009年多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。2012年東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻修了。「アニマルダンス」(2009)が文化庁メディア芸術祭で奨励賞受賞ほか、シュトゥットガルト国際アニメーション映画祭、オタワ国際アニメーション映画祭、アヌシー国際アニメーション映画祭等で受賞多数。
村井智|音楽家、映像作家、アーティスト
広島生まれ。MURAIMURA代表。元TYMOTEの音楽映像担当として、D&ADイエローペンシルやNYADCゴールドなど多数のデザイン賞を受賞。近作に、YouTube Originals「のんたれ」の劇伴&アニメーションパートの演出や、石野卓球「Rapt in fantasy」、KREVA「敵がいない国」、王舟「Lucky」などの映像監督作がある。
三上太朗|プロデューサー
神奈川県茅ヶ崎出身。映像作家/アートディレクターの木村和史に師事。CEKAI所属のプロデューサー。