撮影だけじゃない。 離れていても心をひとつにして挑んだ編集。 ポカリスエット「NEO合唱」オフラインエディター田中貴士氏インタビュー
先日NEWREE.JPでご紹介したポカリスエット「NEO合唱」の舞台裏。出演者が自分のスマホを使って撮影に挑んだ本作では、編集の作業も同様に、STAY HOMEの状況下で行われた。視点を撮影後に行われるポストプロダクションに移し、編集作業を担当したオフラインエディターの田中貴士さんにインタビュー。リモートでも感動の一篇に仕上がった「NEO合唱」のプロセスには、With コロナ時代におけるヒントが随所に!
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──オフラインエディターとして活躍されている田中さんですが、まずはかんたんにオフラインエディターの仕事内容を教えて下さい。
シンプルに言うと「切って、繋ぐ」、これが仕事だと思っています。なんですが、そのためには、撮影状況、撮影素材、企画、アウトプットまで、川上からワークフローのすべてを理解する必要があると考えています。僕は、映像の雰囲気、伝えたい事はほぼオフライン編集の段階で決まると思っています。そのために、音楽の編集や仮合成なども取り入れながら、作品制作に関わる人々が最終の結果が想像しやすいように組んでいくことを心がけています。
──新型コロナウイルスの影響で、撮影を全てリモートで行った「NEO合唱」ですが、編集の現場も自宅となったそうですね。柳沢監督とよくお仕事をされていますが、通常はどのような流れになりますか?
通常の流れとしては、自分の事務所で編集の仕込みをして、監督に編集したデータを送って事前確認していただきます。その後、編集室などに集合して、クライアント試写の前日、もしくは当日の午前中から一緒に膝を付き合わせて作業をします。最近あった面白いこと、嫌なこと、ポジティブもネガティブも雑談を交えながら編集を進めます。
柳沢監督との仕事には、ある特徴があって…。監督の絵コンテはとにかく緻密なんです。通常はその緻密に計算された演出コンテに、撮影時にいかに近づけるか検証をするところから始めます。カメラワーク、アングル、タイミング、ベストな手段を、各部署と本番まで詰めていきます。そして、必ず撮影現場に随行し現場でオフライン編集をします。現場では、監督のしたい事や、思いついた事に柔軟に対応しながら、撮影時にやっておくことと、編集でやるべきこと判断し、ポスト作業の不透明な部分を残さないように心がけています。
撮影後は、事務所で編集の仕込みをし、まずは自分の考えるベストテイクで組んだオフライン編集を(監督に)見てもらいます。後はそれをベースにひたすら、議論と検証を繰り返しながら進めます。準備段階から密にやり取りをして進めてはいますが、やっぱり、監督の頭の中を完全に覗けるわけじゃないので、提案した編集が監督の思い描く完成形と比較して、どう離れている?どんな違和感がある?どうしたらもっとかっこよくできる?かわいくできる?感動したものができる?と、理想に向かって構築し続けます。例えるなら積み木をしているような感覚でしょうか。監督の、妥協なき信念と映像愛に追いつくのに、いつも必死です。
──しかし、新型コロナウイルスの影響で、撮影は出演者自身によって行われることになりました。自宅から監督と離れての作業は実際いかがでしたか?
今回やってみて、リモート編集は非常に難しいと感じましたが、監督のビジョンを達成すべき立場である事を、常に心に留めて進めていきました。特に、同じような企画が増えていくことで既視感は生まれないか? 文化祭の思い出映像のようになってないか?というポイントには気をつけました。
──監督との、コミュニケーションにおける柔軟性はどうでしたか?
送った編集を見てもらいながら、Zoomで議論をするのですが、ちゃんと狙いが伝わっているのかどうか…というのは不安でした。これまでだと、言葉で補足しなくても、映像を見た時のテンションなどで、実は想像以上に多くの情報を共有できていたんだな、ということにも気がつきました。
とは言え、この状況で編集を進めなくてはいけません。落ちついて自身を持ち続けるように努めました。具体的に言うと、やっぱり自分の編集を前向きに捉えることしかない。なんだかんだ言って、僕の不安や迷いって、視聴者にも伝わってしまうと思うんです。音楽を軸に、表情を軸に、感情を軸に、様々な角度から編集を見直しながら、一つづつ迷いや不安に打ち勝っていくプロセスでした。原動力を自家発電しているような(笑)。僕自身、コロナウィルスが蔓延している時期に出来上がった、この作品を通して学べた事でもあります。
200以上にのぼるクリップ数。素材を下準備する
田中氏の使用ハードウェアはフルスペックのMacBook Pro 16 インチ。オフライン編集ソフトはPremiere Pro(CC2019)、ラストカットの青空のマルチ画面はAfter Effectsで組んでいる。
──「NEO合唱」の編集フローについて具体的に伺いたいと思います。まずはどのような準備をされましたか?
98名全出演者が、各自のスマートフォンを使って撮影を行う企画だったので、まずは出演する高校生へ向けた教則映像制作からスタートしました。撮影方法や、歌唱指導のビデオだったり、送ってもらう素材の種類、そういったものを映像で伝えるセットですね。高校生が対象なので、YouTuberやバラエティ番組のような、みなさんに近く感じてもらえる映像を心がけました。
それに加えて、これまでの「ポカリスエット」CMにはどのようなものがあり、それを踏まえて新しく「NEO合唱」というフレームが始まるぞ!というムードを伝える、ワクワクさせるようなティザーも作りました。
企画の趣旨、この時期にしか出来ないということ、みんなで作り上げる映像なんだというメッセージを伝えるには、丁寧にこれらの映像を作ることしかないし、一体感を生み出す原動力として必要不可欠だったと思います。(演出面での詳細は柳沢翔監督インタビューでアツく語られている)
──田中さんの気持ちが伝わってきます。撮影後のフローを今度は伺いたいと思います。
その後、実際に撮影した素材が続々と届くので、それらをどんどん編集ソフトに取り込んで、素材を整理したり、フォーマットを統一したりと、下準備をしていきます。一人の出演者につき2種類(メインパートとハモリパート)の撮影素材があるので、それぞれのOK出しをしたものをひとつのシーケンスにまとめて、そこからトーナメント戦式で監督とディスカッションしながら、カットを選んで編集をしていきました。
──100人近いキャストから届く撮影素材って結構な量になりますよね?
1つのクリップの長さが1分弱でクリップ数は合計で200近くにのぼります。それに加えて、リテイクしてもらった素材や、自主的にリテイクして送ってくれる子もいたりしていて、最終的にかなり多い量になりました。
──しかも、撮影するデバイスもそれぞれ変わってくるので、解像度やコーデックにバラつきも生じますよね。
4Kで撮影している素材もあれば、フルHDの解像度に足りていないもの、解像度やフレームレートは、もちろんバラつきがあります。ただ、解像度のバラつきは、出演者の多様性を印象づけることにもなるので気にしていませんでした。逆に、フレームレートは、音楽とシンクさせた時にズレが生じると致命的なのでしっかりと統一することが重要です。納品はフルHDなので、1920×1080の解像度と30pのフレームレートに統一しています。
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