日本の伝統美術からのインスピレーション
抽象的なCGは「BAKU」でもタッグを組んだ西藤立樹氏、レンダリングやコムアイの描写は+ringの早井亨氏が担当。コムアイと、木の精霊役のおばあさんは3Dスキャンをしている。おばあさんは沖縄からキャスティングしてきたそうだ。
──ビジュアル的にも美しくインパクトがあります。アートディレクションで目指したものは?
自然寄せたCGにはしたくないけど、馴染まないのも嫌なので、その解となるテクスチャや色などを探っていました。例えば、木のようなテクスチャを試してみたら、ただ怖い感じになってしまったり。そのバランスが一番難しくて。時間と予算との戦いでもありました。
色にしてみても、緑に合う色ってそんなにないんですね。それで金色を入れてみたり。西藤さんが焼き物好きで、テクスチャを釉薬のエナメルっぽい質感を提案してくれて、それがハマりましたね。ちなみに、西藤さんは経歴も面白くて、通販会社でモーショングラフィックスをやっていて、Qotori Filmがあったときは島田(大介)さんの弟子のような存在でもありました。一度VJの仕事で一緒になったとき、すごく潜在能力の高さが滲み出ていたんです。それでMVの案件で、がっつりとやってもらったら、一皮も二皮もむけてまくって、すごい人になりました。
——禅画や陶芸、日本の伝統美術とつながっているのは面白いですね。他にも、影響を受けた事柄があれば教えて下さい。
エイモス・チュツオーラっていうナイジェリアの小説家の本「やし酒飲み」 (エイモス・チュツオーラ、岩波文庫)は、様々な文体が入り混じっていてすごくぶっ飛んでいて、いいんです。日本の古事記や神話のシュールさにもオートマチックを感じました。狙っていないなんだけど、謎の緊張感があって参考にしています。僕は神社が好きで特に出雲大社が好きなんですね。あの、でっかいしめ縄とか圧倒的に厳格なんだけど、変な感じもある。シュールと緊張感のバランスが絶妙なんですよね。楽曲から、そういう雰囲気を感じてもらえると思います。
──ご自身の中で一貫したモノづくりのテーマがあれば教えて下さい。
マルコメ Definition of Japanese Kawaii
dir: Sojiro Kawaii
パッと見はわかりやすくはないかもしれませんが、「わからないけど、わかる」というのを大事にしてます。映像はビジュアル(絵)の連続です。その一枚一枚が説得力のあるものを作ろうと思っています。誰もわからないような細かいディテールをどれだけ詰められるか、色のリズムを大切すること、テクスチャのクオリティ、質感を可能な限りこだわって、見たときの気持ちよさを追求しています。
砂漠をゆく3週間。アフリカ旅行の土産話。
──アフリカ旅行から戻ってこられたばかりだそうですが、どんな経験でしたか?このMVとも全く関係がなくない気がしてなりません。
人類最古の部族ブッシュマンにあって音楽セッションをするという目的で、ミュージシャンの友達と、このカンパネラの仕事が終り次第行ってきました。ブッシュマンの生き方は超自然体。あるものはある、ないものは無い。セッションをしていて、弦楽器を弾いているおじいさんが、いい音が鳴らないなって、その辺に落ちている缶を付けてみたら、いい響きが出始めた。「これいいね」って。何千年もその楽器を使ってきて、今気づくっていうね。偶然と必然の境目がないんですよね。狩りにもついて行きました。すごく緊迫感漂う中、槍を投げるんですが獲物との半分位の距離しか飛んでないんですよね(笑)。「あー届かんかったね」みたいな感じで。それがまためちゃかっこいい。人が集っても好きなように集会が始まって、どこかに行っちゃう人もいるけど肝心なところで、バッチリのみんな戻ってきて盛り上がる。完全に自然の流れの中で生きているんです。かっこいいとしか言いようがない。
──最後に今興味あることや今後の計画などあれば教えて下さい。
ブッシュマンのことしか考えられない(笑)。彼らのような自然体の映像をつくりたいです。MVでもCMでもショートフィルムでも僕なかでは繋がっていて、というか勝手に繋げているのですが、先日作った森ビルのブランディングムービーでも、屋久島の自然のシステムと近いものを感じ、屋久島の流れを取り込んでいます。都市も同じように、創造と破壊を繰り返し、街を取り込みながら、更新していっている。今の渋谷駅前とかまさにそんな感じ。畑って3年目くらいで土がだめになるそうなんですね。それは土壌の生物ネットワークが単純化されてしまうために起こるそうです。そこで肥料を投入し、土いじりをして土壌ネットワークを複雑化させる。それを都市に置き換えると、街に新しいカルチャーを打ち込んで、新しい流れを作る。するとそれに対するカウンターカルチャーが生まれて一つのムーブメントが発生する。ずっと同じところに停滞するということはありえないんですよね、自然の流れは。相互に関係しながら絶えず変化し続けるもの。新しい感情が生まれ、流れが生まれる。それがカルチャーだなっていうのを屋久島で知って、それを森ビルの仕事に取り込んでみました。まぁ、その企画プレゼンでは、みなさんピンと来てなかったと思いますが(笑)。
──「それも、それであり」と、取り込んでいく鎌谷さんのその姿勢も自然のシステムとシンクロしていると感じます。ありがとうございました。