NEWREEL
Feature

ニッポンの女の子を応援するNIKEのCM。
共感する多様性を描きたい。エディターAika Miyakeインタビュー

kana kana Aug 16 2019
Aika Miyake

プロテニスプレーヤー大坂なおみ選手を起用したNIKEのCMが、今年の5月26日にオンエアし、SNSでも“かっこいい”“心を掴まれる”と話題になったのは記憶に新しい。NEWREEL.JPでは視点を変えて、本作の編集を担当したエディターのAika Miyakeさんにインタビュー。インタビュー時、Aikaさんは、活動拠点をL.A.に移して数日後。彼女の渡米の理由も、本作のテーマとどこかオーバーラップする──。

FacebookTwitterLinePocket

ニッポンの女の子を応援するNIKEのCM。
「うごきだす、それだけ」と「QUESTION / RETURN」

Nike 「うごきだす、それだけ」


dir : Raine Allen-Miller, ed : Aika Miyake|Ag : Wieden + Kennedy Tokyo

——映像制作において、撮影された素材を編集し、一篇の物語を紡ぐスペシャリスト、エディターであるAikaさんですが、オフライン編集とも呼ばれる、エディターの仕事内容を教えて下さい。

編集担当として、(撮影)素材の持っている力を最大限に出すのがエディターの仕事だと思ってます。料理のようなものですよね。今、冷蔵庫に入っている素材で一番美味し料理って何だろう?と考えるような。そのためには、ゴールとなる企画書を読み込み、そして撮影素材を何度も見る。そして、フィルムが“なりたい自分”になれるように、カットしていく。フィルム自体にアイデンティティってあるんです。まずは、そうやって、フィルムが活きる編集を探るようにしています。そして、監督の演出意図やクライアントの思いが出るように、摺り合わせていくのがエディターの仕事だと理解しています。

——話題になった、NIKEのキャンペーンCM、「うごきだす、それだけ」と「QUESTION / RETURN」のシリーズを編集されました。躍動感があり、勇気がもらえる仕上がりでSNSで話題となりました。

ニッポンの女の子たちがエクササイズをしたり、アスリートを応援することに対して、” Just Do It”と、応援メッセージを送りましょうというテーマ。この企画をもらった時、自分にぴったりな作品だと思いました。これまで培ってきたスキルがうまく出せるなと。というのも、テンポのあるアスリートの編集が得意というのに加えて、多様性がコンテクストにある企画になっています。多文化の狭間で生きる、なおみやエヴィリンという、今までの日本人の枠にとらわれない、多様な日本人がいることを表現出来るチャンス。こういう作品との出会いってなかなかないですから。

──そういえば、多様化する日本人に迫ったドキュメンタリー映画の編集を、過去に手がけられいますよね。

はい、2012年に「hafu」(ハーフ)という映画を編集したのですが、その間1年ほど、ハーフについて向き合う時間がありました。私自身もカルチュラルハーフっていって、文化的なハーフに数えられます。ハーフにも色んな種類があって。例えば、韓国人や中国人などは、インビジブルハーフ(見えないハーフ)と言われているんです。見た目が日本人とあまり変わらないので、自分の半分(韓国や中国人としての自分)を否定しながら生きることも出来る存在。そういった多様なハーフの生き方追ったドキュメンタリー映画なんです。

「ハーフ」Hafu – the mixed-race experience in Japan

dir : Megumi Nishikura & Lara Perez Takagi, ed : Aika Miyake

その時、日本は多様性のリソースがすごく少ないって強く実感しました。どういう事かというと、単純にハーフの人が考えていることに耳を傾ける機会がない。一方、現実はこれまでの“日本人”というラベリングでは対応できない人たちがどんどん増えていて、どう対応すればいいかわからなくなっている。それって単純にリソースが少ないだけだと思うんです。知る機会が圧倒的に少ない。この映画が完成した後、アメリカ人と日本人のハーフの宮本エリアナが、ミス・ユニバース日本代表になったり、バスケットボールや陸上でもハーフの選手の活躍が目立つようになりました。少し脱線しましたが、私が真剣に取り組んできたトピックが、このCMに総まとめされていて、しかも、その要素が、若者とアスリートを描く中に、エキサイティングかつ自然に入っている。これはやりたい!って思いましたね。

アスリートとしてのなおみ選手を表現したい

──「アスリートの編集が得意」とのことですが、アスリートを描く上で、技術面で意識したことは?

アスリートは当然ながら、ものすごく早く動きます。「うごきだす、それだけ」でいうと、バスケットのシーンが一番参考になるかと思います。短い尺の中に3カットくらい編集で入っています。ボールがシュートされるまでをタイムストレッチなどを掛けながら、小技を効かせたテンポの早い編集をしています。一例ですが、こういったテクニックを随所に活用しています。

私が一番注力しているのが、大きなストーリーの流れを決めるところです。全体の7部目って編集的にとても大切で、しっかり盛り上げたい、そういうポイントとなるところ。その先にある「シー」と言うタイミングで、エネルギーがストンと下がる。そこに向けてエネルギーのピークを作って強弱をつくるわけですね。

それを実現するためにどういう提案をしたかと言うと、当初、監督からのストーリーボードでは、スケートボードのカットが前半にありました。ですが西村碧莉さん、彼女は日本人で初めてスケートボードの大会で優勝した方で、その瞬間は、本当に素晴らしい瞬間でした。そこは優勝時のレコーディング素材を使ってもいいことになっていて、やっぱり、本物の瞬間のパワーって全然違うんです。彼女のモメンタムというのは、ものすごく価値がある。本物の感情が詰まっていて、オーディエンスと繋がって、エネルギーに満ちている。本物よりも力強いものは無いわけです。だから7部目に西村碧莉さんのシーンをもってきたバージョンも提案させてもらいました。

「QUESTION/RETURN」

dir : Stuart McIntyre, ed : Aika Miyake, Ag : Wieden + Kennedy Tokyo

──なおみがソロで登場する、ワンシチュエーションの「QUESTION / RETURN」では、エディットで印象がすごくかわりそうです。

そうなんですよね。先程の大きなストーリーを考えることで言うと、もともとこれは、ワンカット演出の企画でした。質問が投げかけられて、なおみがボールを打ち返すことによって答える。カメラがだんだんとクロースアップになって最後はスマッシュで決める、というアイデア。ですが、編集に入ってすぐに感じたのは、なおみのエネルギーってすごい!テニスをやっている人ならわかると思いますが、彼女の打つ球はパワー漲っている。ワンショットだとそれが伝わりづらいと思いました。マッキンタイヤー監督も色々と使えるように撮影をしてくれていたので、他の可能性も探って行き着いたのが、現行の編集に限りなく近いもの。ワンショットにはならないかもしれませんが、その方がエージェンシーの企画意図ともよりマッチするとも思いました。その後、多少の調整はありましたが、エディターズカットが採用されたのは、やりがいを感じます。

──編集を通してみたときの、なおみ選手の印象を教えてください?

なおみって、かっこいい。可愛いところもあるし、優しいところもあるけれど、ことにテニスをしている時は、ひたすらかっこいい。でも、”大坂なおみ”というキャラクター化された露出が多くて、真のアスリートらしさが表現されたものがないように感じていました。なおみが球を全力で打っている時のパワー、激しさ、それを掴みたい。アスリートとしての彼女のアイデンティを出したいと考えていましたね。

なおみ選手の登場は私にとってすごく衝撃出来でした。日本のアスリート界に、「私は、ワタシ」と、ここまで素直に生きてきたハーフの選手をみたことがなかった。日本で育っていたら複雑な思いを抱かずにはいられないでしょうね。フロリダに住んで、テニスっていう自分の最強のツールがあり、まっすぐに生きている姿に感動しました。彼女の初めてのナイキCMを編集できて幸せです。

音楽を奏でるように紡ぐ 気持ちいい編集ってなに?


Cut + Run(ニューヨーク)の編集室で作業するAikaさん

──Aikaさんはドラマーとしての経験もあるそうですね。音楽と編集も密接な関係があるかと思いますが、どう捉えていますか?

私にとって編集って、画と音で、作曲をしているような感じ。メロディーだったり裏ノリだったり、音楽で捉えている感覚。画にしても何かが動いてるわけで、そこにはリズムがある。画も音の一つと解釈をして繋ぐことが多いです。ビジュアルがひとつの音色のような感じで、全部ひっくるめて、音楽として存在できる気持ちよさを感じられるように意識してます。気持ちいい編集ってそういうことなんじゃないかなって。その上に、音楽よりもわかりやすいストーリーが付加されていくイメージです。よく、直感でやっていますって話を聞きますが、深く考えてみると、そういうことかなって思うんです。

日本、外国、女性、人種‥‥内側と外側からの視点

──「QUESTIONS/RETURN」は、話題なりましたが、特にSNS上で目立ったのが日本のマスコミ批判だったと思います。それについてはどう感じましたか?

「日本語で答えてください」は、実際によく言われていましたよね(笑)。台本に関してはエージェンシーのクリエイティブが作っているので、エディターとしての全くの個人的な意見になりますが、決して日本のマスコミだけを批判しているわけじゃなく、マスコミ全体を批判していると思うのです。英語でも「賞金は何に使いますか?」とか、他に聞くこと無いのかなって思いますよね。まあ、そうやって茶化してはいるけれど、私の解釈では、このCMで、「こういうことを聞くもんじゃない」と言っているわけではないんですね。アスリートに対して、どういう問いかけをすべきか考える、いいきっかけなんじゃないかと思います。そして、なおみは質問に怒っているのではなくて、どんな質問に対しても全力で真剣に答えているんだって思うんですね。彼女が一番出したい答えはテニスで出すっていうのが私の中の理解です。

結果として、多様性への議論も生んでいて、それはすごく嬉しいです。「ハーフ」を作った7年前はまだ閉鎖的な時代でした。「多様性」という言葉は、動物やネイチャー番組でしか登場しない単語だった。「ハーフ」では、多様性と対話がキーワードなんですが、今は、電車やポスターで、多様性という言葉をみかけるようになりましたよね。それで、やっとナイキという大きなブランドでもこういうことが言えるようになったんだって。

Pampers – Love the Change – New World

dir : Lisa Rubisch (PARK PICTURES),  ed : Aika Miyake

──Aikaさんのリールには女性が主人公の作品が多いように思いますが、偶然でしょうか?

エディターは、作品を自分の好きなように選べないというところがあるので、自然にそうなってると思います。なんですが、フェミニストじゃないですけど、私のコアには、女性に活躍して欲しいという思いが強くある。ナウシカを観て育ってしまったので。

──ナウシカ効果(笑)。そういうところも渡米を決めた理由でしょうか?

今回アメリカに拠点を移した理由はいくつかあって。大きな理由は、日本でテレビを観ていて、自分が編集できなくて悔しい!って思うものが…ないんです。昔はそういうのがあったのに。自分がやりたい作品が存在しない?と疑問を持ち始めて…。それは、私が別の場所にいっているのかもと考えはじめたのが一番の理由です。

──狩りをする森を間違えた!みたいな?

もしくは、ハエが止まるのを待っているカメレオンみたいな(笑)。ずーっと飛んでくるのを待ってるカメレオンの気分。たまにきても、自分のタイミングでくるとは限らない。そういう立場なんで、もうちょっとハエのいる場所にいくべきだなって。ハエに例えるのもなんですが(笑)。自らを適切な場所に置かないと、自分のキャリアもストップしてしまうし、チャレンジ精神が腐ってしまう。私はぬるま湯が好きじゃないんですね。ロスに住みたくて、とかじゃなくて、自分がやりたい仕事が少しでも取れるような環境を求めた結果。もしここでもハエがいなかったらまたその時に考えればいい。12年エディターをやっているけど、自分的には、12年もかかってしまった~と思っていて。

──それでも、早いほうですよね。ちなみに個人的に、効率化ばかり言われる時代ですが、必要な時間をちゃんと使って成長した強さってあとで効いてくると実感しています。

満を持して、じゃないですけど、時が正しいと、色々な機会は巡ってくるし、認められれる時に認めてもらえる。亀なんですよね、私。

──亀?

うさぎよりも、亀タイプ。仕事がなくて、独りで、寂しくて惨めに感じるときもあったけど、それでも亀みたいに這いつくばって、少しずつ進んできた。編集を理解するまで時間がかかるけど、だんだんとわかってくることに楽しみを見出しているんですね。わからないことがあるって素晴らしいことだと思うんです。

──わからないことが楽しいって感覚すごく共感します。

若い時は、なんで私にはそれがわからないんだってことが沢山あったんだけど、一つひとつ見えてくると自信にもなっていくんですよね。エディティングへの理解も深まり、ルールも一通りわかった。それをこれからどう壊すのかっていう楽しみもあって。自信がついていく。日本の教育は、特に女の子は自信が持ちづらい構造だと思うんです。自分はこれでいいんだって本気で思えない。それは自分の中でも問題視していました。だから自信につながることは、なるべくしましたね。でも亀なので、安全圏から出るのに時間がかかった(笑)。

──日本の教育はプレッシャーが半端ないと感じています。もっとのびやかでもいいですよね。なおみのようなキャラが育ちにくい土壌というか。

社会に出て空気読めないって言われた口です(笑)。そこまで言われなくても“天然”とか。そういうレッテルを貼る時点でちょっとはネガティブなわけで、言ってる方はちょっとした気持ちだと思うんだけど、言われている人にはネガティブに影響していることもあるって理解しないといけないんじゃないかなって思います。

──特に多様性の時代では、PC(ポリティカルコレクトネス)的な観点でも再確認の作業がすすめられていますよね。ガラパゴズで気が付きにくい日本だからこそ、より意識的な姿勢が求められるかもしれませんね。

学生時代にアメリカに行く前に、私は日本語しか話せなかったわけで、そこでは天然とか言われて育った。アメリカに行くと、私に投げかけられる言葉が、がらりとポジティブなものに変わったんです。明るいね、笑顔がいいね、小麦色の肌が素敵、とか。自分のままでいてもいいんだって、自分のアイデンティを英語のなかで見つけてしまった。私は意見が強いほうだから、日本では出る釘は打つじゃないけど、すごく打たれている気持ちにさせられます。カテゴライズに当てはまらない、“その他”の存在で生きてきた。ここ近年で、欧米の仕事が増えると、やっと自分の場所を見つけた気がしたんですね。とはいえ、エディターにとって、アメリカって競争率も激しく厳しい世界なので、どうなるかはわかりません。

──そういう意味では、Cut + Runという世界でもトップのエディータハウスというパートナーの存在は心強いですね。

本当に最高のパートナー。全力で守ってくれるし、なにより私を信じてくれてる。日本語訛りの英語を話すという状況においても、「大丈夫。周りの人はそれになれないといけない、そういう時代だから」って言ってくれるんですよね。

──お話をきいていると、今回のナイキの「世界を変える、自分を変えずに」ってキャッチフレーズに、Aikaさんの今がオーバーラップしますね。

確かに(笑)。自分を変えたくないとは思っていますね。もう変えられないと言った方が正しいかも。このCMが公開後、同業仲間から「大変だったでしょ?」ってよく聞かれるけど、すごく楽しかった。そりゃ、編集に対するフィードバックにイラッとしたりはするけど(笑)、総合的な体験として、楽しかった。それって、やっぱりコラボレーションができたから。コラボレーションって、お互いが対等な立場でリスペクトしあえる関係の上に成り立っていて、その感情や環境って、全部仕上がりにも出るものなんですよね。プロジェクトが終わった時に、リアルに役に立てたと実感できるのは、コラボレーションの中で仕事ができたときなんです。

GUINNESS – Liberty Fields | The Pioneers of Women’s Rugby

dir: Mackenzie Sheppard, ed: Aika Miyake  Aikaさんが編集を手掛けた最新作品。

kana
bykana

NEWREELの編集者。コツコツと原稿を書く。