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Feature

鎌谷聡次郎インタビュー
目指したのは自然の法則と地続きなMV
水曜日のカンパネラ「屋久の日月節」

kana Oct 25 2019

友人と二人、クルマでアフリカの旅から帰国したばかりの鎌谷聡次郎監督。旅の目的は人類最古の部族と言われるブッシュマンと音楽のセッションをすること。その体験は必然のごとく水曜日のカンパネラMV「屋久の日月節」で目指したものと共通する。

dir
鎌谷聡次郎
prod co
ROBOT
cam
上野千蔵
fieldrecording
東岳志
drone pilot
田中道人
CG designer
西藤立樹
CG supervisor
早井 亨
3D scan studio
スーパースキャンスタジオ
音楽制作
オオルタイチ
m
水曜日のカンパネラ
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——アフリカではブッシュマンとセッションを、そして「屋久の日月節」では屋久島とセッションをされています。地球規模の壮大さ、ですね。

「屋久の日月節」は、YouTube Originalの企画の第二弾として声を掛けてもらいました。Re:SETというクリエイター同士をかけ合わせて生まれる化学変化をテーマに据えた番組で、メイキングドキュメタンリーも合わせて公開されています。(注:有料チャンネルだが、一ヶ月無料トライアルあり)。

カンパネラと誰かがセッションをして曲を作り、それを映像作品に落とし込むわけですが、じゃあ誰とセッションするかっていう打ち合わせで、スタッフの名刺に「大地」と印刷された名前を見て、「あ、山とセッションしたい」って思いついたんです。そうしたらコムアイさんも「山に向かってポーズをしている風景が浮かんだ」って言ってくれて。奈良の山で籠もって音楽活動を続けるオオルタイチさんにも声を掛けて、参加してもらえることになりました。

<ロケハンからの一枚>鎌谷聡次郎:映像ディレクター。カンヌライオンズシルバー賞、ADFESTグランプリ、銅賞、LIA金賞、BOVAグランプリ、SPACESHOWER TV最優秀賞ディレクター賞など受賞。海外プロダクションに映像ユニット“Sojiro & Eri”として所属。http://tsujimanagement.com/profile/sojiro-kamatani

——屋久島にするというのは、はじめからイメージにあったのですか?

山ってなったときに、クライアントさんに確認をとったら、ダメ出しを頂戴して。YouTubeのユーザーにもわかりやすいアイデアを希望されていて。まぁそれは理解もできるので「もう一回考えてきます」と。なんですが、やっぱり山っていいよな~って気持ちは変わらないんですね。
はじめは八ヶ岳を想定していたのですが、YouTubeというインターナショナルなプラットフォームなので、外国にも人気の屋久島だったらOKなんじゃないだろうかと。

——山は諦めない、と。

そう、屋久島は、「もののけ姫」の舞台ですし、屋久島がどれだけネームバリューがあるかということをプロデューサーが企画書に落とし込んでくれて、また「山」で再挑戦しました。

なんですが、やっぱり「この前の話聞いてました?」って怒られて、振り出しに戻った。やっぱり「山」だと通らないぞってことで、他の方向性を考えあぐねていたら半年が過ぎていた。するとある日、クライアントから屋久島でいきましょうと連絡が入ったんです。

企画的には、一見分かりづらいかもですが、楽曲制作では、注射針についたコンデンサーマイクをつかったフィールドレコーディングをしたり、電磁波を音楽に変換している「土星の音楽」というNASAの映像を使ったり、より深く屋久島とセッションするアイデアを評価してくれたんだと思います。

自然とCGをかけ合わせ“人工生命”を表現する

水曜日のカンパネラ「BAKU」
dir: Sojiro Kamatani

──以前に鎌谷さんが演出したカンパネラのMV「BAKU」とも連動性があるのですか?

全く関係なくて、むしろYouTube的には「BAKU」のような抽象的な方向性は避けてほしいというリクエストでしたね(笑)。

──大自然とCGヘビーな表現が共存する、ビジュアルアイデアはどのように生まれたのでしょう?

コムアイさんと人工生命の話をしました。AIの“知能”ではなくて“生命(ALife)”の方ですね。その後、人工生命の研究者にインタビューをしたりして、僕の理解ですが、科学は公約を求める傾向にあって、まずカオスをつくって、マクロの視点で俯瞰で観察する。すると、パターンが見えてくるという考え方だと思うんです。例えば、砂漠の市場にて、その中はそれぞれがそれぞれの営みをしていてカオスなんだけど、俯瞰でみるとあるパターンが浮かび上がってくる。味噌汁でいうと、俯瞰でみることによって、べナール対流といわれる六角形の対流が浮かび上がってくるわけです。(興味のある方はベナール対流で検索してみよう)。そういうパターンが抽出されるというのは面白い。じゃあ、プログラミングで、「Aがこう動くとBが反応してこう動く」というプログラムをつくったとして、それが2者間ではシンプルな動き。でも、たくさんあると複雑化され、パターンが生まれ、それを更に推し進めていくと生命性が生まれるという…。この反応拡散系(reaction-diffusion system)を軸にMVの表現も考えていきました。プログラミングとかオートマチックな表現が合うんじゃないかって。コムアイさんが山の中に起ち現れて、間口を広く見る人の興味喚起をして、面白そうだねってそこから掘っていくと、人工生命や屋久島のユニークな生態系へつながっていくという意図があります。

<ロケハンからの一枚>撮影前にはシナリオハンティングとロケーションハンティングで2度屋久島に訪れている。クルマで島を回りながら、太鼓を叩いたり屋久島の自然と一体化するプロセスを大切にしたそう。屋久島の生態系がカメラマンの上野千蔵氏によりキャプチャーされる。

──屋久島の生態系は特別なものがあるのですか?

ええ、土地が豊かで栄養豊富なイメージがあるかと思いますが、実は、島自体は火山が隆起してできた岩なんです。土をよけるとすぐに岩がでてくる。雨で養分は簡単に流され、それらが魚の餌になっていたりするのですが、肥沃ではないんです。屋久島に生息する鹿や猿も通常のサイズよりも小さい。それでもなぜ、緑深い環境が保たれているかというと、死んだ動植物を取り込む自食作用という、自然のサイクルで自分を更新しているんです。それがこのMVのひとつのテーマなんです。コムアイさんが、死んでは蘇り生命が更新していく様を描いているんですね。コムアイさんとタイチくんが「2D的な輪廻ではなくて、複雑に次元が絡み合って螺旋状に回っていくイメージだね」って言っていて、それをビジュアライズ出来たら面白いなと。繰り返される生命だけど、毎回その度に変わっていく、そんなイメージです。

「屋久の日月節」のMV用に描かれた絵コンテ。クリックで拡大

——オートマチックな感じは、プログラミングでCGをジェネレートしているのですか?

プログラミング的なものを着想したものの、僕はその方面がまったく明るくなくて、ならCGで表現していこうと。そう決めたものの自然のサイクルをどう具体的にCGで表現すべきか、迷いの部分が沢山あって、そんな時に出会ったのが禅画の「南泉斬猫」。公案(禅の問)を描いたもので、師匠が子猫を取り囲む僧たちに、「この猫も禅の思想をもっているのか?答えられない場合は猫を斬る」と言います。僧たちからは答えが出ず、猫は斬り殺されてしまいます。その後、高弟子が旅から戻ってきます。師匠が同じ問答をしたときに、その弟子は履いていた草履を頭に置き、歩き去ったといいます。それを見た師匠は「お前があの時にいたら猫は生きていただろう」と言ったという話。その禅画を見た時に、天才バカボン的というか、諸行無常というか、自分たちが決めることの出来ない自然のサイクルを感じました。CGに落とし込む時に人為的な感じや、自分の理想が形になるのは違うなって思いました。みんなの相互作用が関係して流れ出来るものでありたいと思ったんです。

──エゴが存在しない、監督はしているけど鎌谷さんのコントロール下にない表現。たしかに禅っぽいですね。

僕も関係しているけど、色んな人が関わって、自然も関係して、でっかい渦になっている。全てのものがいきなりあるんじゃなくて、必然的にある流れというか。

──その循環って、自然が百年もかかって作るやつじゃないですか。

そう、どうしたらいいんだ!でも、それが禅画との出会いによって「オートマチックな思想」にたどり着いたのです。理想なんて無いというか。ブッシュマンの生き方にも近いというか。それで、CGを作る思考をなるべくオートマチックにすべく、CGを担当する西藤(立樹)さんに、「左手で絵を描くように作ってください」と。

──その発注さえも禅問答に聞こえます(笑)。

コンテを渡して、シーンや流れは伝えた上で、具体的な動き方においてですが。屋久島になぞらえて、自然なテクスチャにすると馴染みのいいCGになるでしょうが、それはイメージと違っていて、CGっぽいテクスチャだけど動きが有機的というか、左手で半分目をつぶりながら、半分オートマチックな感じで描いてもらうくらいがいいなと。あとは、出てきたものをベースにやり取りを重ねてどんどんブラッシュアップしていくのですが、そうすると勢いがなくなって、結局デモのまま使うものもありました。この作業が、一番ボリュームが大きくて、ファイル名“0101.zip”のデータがお正月に届くんです。誰もお正月休めない状況でした。こんな事やっている時点で、実際の作業は全然オートマチックではないのですが(笑)。

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