長くモノづくりをし続けるために。
タナカカツキのアーティストお悩み相談室
タナカカツキ著『サ道』(講談社モーニングKC)。「このマンガがすごい!2017」のオトコ編で第10位にランクイン。全国のサウナー(サウナ愛好者)のバイブル。原田泰造をはじめ芸能界きってのサウナ好き俳優が集結し、サウナ好きによる、サウナ好きのための『サ道』が、テレビ東京クールドラマ25(毎週金曜深夜0:52~放送)にてテレビドラマ化決定!2019年7月よりオンエアー。
角舘 最近、曲が書けないんですよ。
──え? 何か原因があるんですか?
角舘 わからないんです。
タナカ じゃあ、解散だ(笑)。
角舘 (笑)。イメージは出来るんですよ。僕らがどういう表情で、どういう音を鳴らしているかっていうのは。それでイントロまで出てくるんですけど、言葉が出ない。気分じゃないんでしょうね。手癖や技でポップなイントロは作れるけど、僕の気持ちはもっとドロドロしていて、それを乗せられないんです。バランスが崩れ始めてきているかも。
タナカ じゃあ、角舘君は、最近は曲が描けなくてバランス崩れているってことで終わりましょうかね。
角舘&松田 (笑)。そんなバッド・エンド!
──(笑)。これまでは歌詞はどうやって作ることが多かったのですか?
角舘 不思議なんですが、今思えば、その時どうやって書いていたのかなって (笑)。
タナカ まだ若いですし、なんなら苦しんで下さいってことですよ。
角舘 でもそうしたら、今まで積み上げてきたものを壊すことになる。この前、メキシコに行ってきたんですけど、ここで一生暮らすのもありだなって思うくらい、カワイイ子がいたんですよ。
タナカ (笑)。
角舘 泊まったホテルのおばさんの娘さんで、本当に可愛くて、この子と一緒に過ごせるなら、全てを投げ出せるなって思ったんです。
タナカ つきあってもないのに(笑)。ただの旅行者なのにね。
角舘 (笑)。ロードムービーの観過ぎですね。メンバーだってプレイヤーとして食っていけるんですよ。でも壊すのも勿体無いというか、もっと可能性がみたいというか。
──カツキさんはこれまで、手が動かなくて苦しんだ経験はありますか?
タナカ ないですね(笑)。もしくは無自覚なだけかもしれないですけどね 。苦しいって結局自分がどう思うかのさじ加減ですし。かっこいい じゃないですか。あ、手が動かない、俺は何かを今乗り越えようと しているんだ、イエ~い!みたいなことになりますよね。
角舘 めちゃポジティブ。僕は割と苦しむのが嫌なんで、できるだけ楽な方向でしかやらなくていいやってずっと思ってきた口です。調子のいい時に(曲を)書き溜めておいて。だから、季節外れに夏の曲をやるってことになるんですけど(笑)。Yogeeで初めてこんなに長く一つのことをやっているんです。今までインスタレーションを作ったり、プログラミングをしてみたり、いろいろと技を身につけてきたけど、Yogeeはもう6年も経っているんですね。
タナカ モノづくりを長く続けていく秘訣はライフスタイルにありますね。ライフスタイルが崩れているアーティストは…
──アーティストってライフスタイルが崩れがちな印象ですが。
タナカ と思っているでしょ。結局みんな、アーティストで成功している人をずら~っと並べてみたときに、おおむね健康だと思うんです。スターと言われたミュージシャンたちで年を経ても活動している人って健康に気を使って自己管理のできている人。ミック・ジャガーがマラソンしているって、ファンは嫌かもしれないですけどめちゃめちゃやってるよ。完璧に、ジョギング体型。
— Mick Jagger (@MickJagger) May 15, 2019
──だからサウナですか?
タナカ サウナです。でもミュージシャンはライブがあるから、歌も歌うし、自然と運動してますよね。
角舘 でも衰えは感じます。最近は、グルテンに反応するので、基本米を食べるようにしています。意外かもしれませんが、自信ないんですよ、本当は。この道であっているのかなって毎分思っています。
タナカ 感情とクリエイティブが同期しているうちは不安なんです。その同期を外すことが出来るのが、ルーティンワーク。やる気があろうが なかろうが、不安だろうが自信があろうか関係なく作るっていうの が創作の基本スタイルだと思っています。 移ろいやすい感情とか関係なく、ルーティンワークは機嫌よく創作活動ができる習慣を作ることができる。 でもその根底にあるのは健康なんです。
トリックスターになりたい。
佐野元春スタイルか、マルチトラックスタイルか。
角舘 それとですね、一つ作品を完成させました。次に作るときにそれを超えたいじゃないですか。でないと嫌なんですね。そうやってどんどん肥大化していく。これ以上大きなものを作るっていうことに疑問を持ち始めた。今そんな感覚になっているんです。要するに、肥大化しながら同じレール上を進むんじゃなくて、別のレールに移りたいけど、それって世に求められているかっていうとそうではないだろうと思うわけです。躊躇してしまう。本音との間にギャップが生じているというか。
タナカ それでいうと2パターンあると思うんですね。ガラッとスタイルを変えるなら、めちゃめちゃ売れないと意味がない。言い換えると、売れた人だけ変わることができる。そうでないと、影響がない。バンドが成長しているときに変わるっていうのはあまり効果がない。もう一つのパターンは両方やる。このバンドで求められているものをやりながら、自分を完全に解き放つ創作もやる。
角舘 続けたほうがいいですか? トリックスターって考え方あるじゃないですか。人を驚かすための人生。僕はそうなんじゃないかと思うんですよ。
タナカ クリエイティブって、驚かせたりすることだからね。佐野元春の「VISITORS」というアルバムはそういう例でいうとすごく有名です。前作で、新感覚なシティポップの完全なる世界をベストア ルバムでどーんと発表して、すごいセールスを記録した。「次~! 」ってなったときに、いきなりニューヨークに移住して、日本では 全然浸透してないラップのアルバムを作ったんですよ。ファンはみ んな、めちゃコケた。「何ー!メロディない〜!」ってなったんで すよ。サンフランシスコの風に吹かれるのを期待していたのに、心 がスラム街になりました。でもみんな期待してたから買ったんです 。セールスもあった。そしてみんながちゃんと驚いた。それ以降、 日本でもラップ、ヒップホップは時間をかけて浸透してゆきました からね。
角舘 なるほどな。そういうふうにしたいですよね。トリックスターとして。それで言うとYogeeでそうなりたいです。
タナカ だからYogeeを完成させなあかん。
角舘 可能性ありますかね?
タナカ あると思いますよ。だから打ち上げでおじさんに囲まれてCDいっぱいもらったんでしょ? Yogeeを完成させるってことは、まだやったことのない冒険の世界。こうしたいっていうイメージをすごい解像度でしているし、持って生まれた天然でつきすすめる素質もある。もう成功するパターンですよね。僕は、ついていくということです。
角舘 あれ、いつの間にか相談になっていましたね(笑)。