描きたかったのは宇宙の中を転がる地球
dir: 大月壮 ill:最後の手段 ch、de:矢野顕子、YUKI、最後の手段
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──サザンオールスターズ「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」(監督:大月壮)、そしてEVISBEATS feat. CHAN-MIKA「NEW YOKU」(監督:最後の手段)など、それぞれ監督されたMVが話題になっています。その2組のコラボレーションが今回、実現しましたね。
大月壮(以下、大月):曲調にピッタリの気持ち良いものができて、公開されてからもう30回は見ています(10月10日公開。取材は10月12日)。心地良いな~って。最後の手段とは昔から知り合いだったけど、一緒に仕事をしたことはなかったし、「NEW YOKU」を観たばかりで、その手数の多さにやられていた時だったし、そういうのを全部込みで、このMVが彼らと一緒にやれるチャンスだと思ったんです。
今回は矢野顕子さんとYUKIさんが描いたバナナのキャラクターを主人公にしたアニメーションを作りたいというオファーから始まっていまして、最後の手段のゆるい雰囲気でアニメにしたら、良いものができそうな予感がありました。
──大月さんはこれまでYUKIさんのMVやライブ映像、変わったものだとスマホゲームなども手がけてこられていますが、今作のテーマは?
大月:歌詞の内容と曲調に素直に寄り添って、子どもから老人まで安心して観られる映像にしたかった。あったかくてスローな曲調に合った、ゆるくて優しいアニメーションと、そこに差し込まれる狂気の手数で描かれたメタモルフォーゼ。ストーリーとしては、矢野顕子さんとYUKIさんが扮するバナナのキャラクターが、日本から始まって、地球上のいろんなところを回りながら、ついには、スケールアップして宇宙にまでバナナを届けにいくという内容。
──それぞれの場所の描写が楽しいですね。
大月:なぜなのか自分でもよくわからないんですが、“あじさいの咲く漁村”というイメージが降りてきたり、他には、高台から景色を眺めている風景が頭に浮かんだり。美しいと感じた風景を、最後の手段に描き起こしてもらいました。世界の風景では、北極や砂漠といった極地も盛り込みながら、一番描きたかったのはラストの「宇宙」。僕ね、今年に入って一番感動した映像が、天の川を撮影したタイムラプス映像だったんです。天の川が実際に空を回転していくのがわかる。それを見た時に、「あ〜、地球が宇宙の中を転がってるな〜」って感じたんですよね。それにすごく感動して、その感じを宇宙のシーンでは描写できればと思ったんです。そこまで伝わっていないかもしれないですけど、そういうインスピレーションがこの背景にはありました。
──ロマンティックですね。
狂気の手数のメタモルフォーゼ
──確認ですが、原画は一枚一枚すべて手描きなんですよね?
最後の手段・有坂亜由夢(以下、有):もちろんです。
──バナナを食べて弾け溶けるシーン、強烈ですね。
大月:見せ場のメタモルフォーゼ。合計7つのメタモルフォーゼが展開します。食べると笑顔になり、その笑顔が溶けて、次の人がまたその中から現れる。最後の手段と組む時に肝となったのが、このメタモルフォーゼの表現。彼らの“狂気の手数”はこの企画には不可欠で、それをメタモルフォーゼでやりたい! とにかくそれでした。
──最後の手段としては、そのお題へのリアクションは?
有:そういうのが好きなので、ウェルカムでした。1メタモルフォーゼで60〜80枚くらい描きました。大月さんからのオーダーである「幸福感と恍惚感がジュワ〜〜ンと広がっていく心象風景」を、手描きでどこまで描けるかが勝負でした。とにかく幸福感をイメージしながら、毒々しくなりすぎないように気をつけました。
最後の手段によって一枚一枚、手描きで起こされたメタモルフォーゼの原画
最後の手段・木幡連(以下、連):ストーリー部分はほのぼのとしてるんだけど、サビで狂気の映像になって、見せ場の緩急をしっかり作っていきたいとのことでした。最後の手段はいつも全力投球しがちで、例えば「NEW YOKU」を作ったときも、お隣に住んでいるおばあちゃんに見せたら、全然集中して見てくれなくて…。「ちゃんと映像見てほしいのに~」と思っていたら、おばあちゃんに言われたんですよ、「見せ場を作ったほうがいい」って。
──ドキッとしますね。そのおばあさんはクリエイターですか?
連:お花の先生です。で、ああ、そうかと思うところもあったので、大月さんの演出意図を聞いた時に、まさにそういうことだなって。今回は、「楽し〜わ〜。面白〜い♡」と純粋に楽しんでいただきました。そして、「インドのバナナはとっても美味しいけど、インド人が全部食べちゃうから、日本には来ないのよ」と教えてくれました。
大月:最後の手段の持つ芸風で、この作品において、ここは活かしたいけど、ここは抑えたいなというのがありました。活かしたいと思ったのは、狂気の手数で「ウッ」となるところなんだけど、絵柄なども含めて、過剰に「ウッ」ってなりすぎないように抑えたかった。そのために、ほのぼのとしたアニメーションで視聴者に安心感を与えておく。歯医者さんの待合室の音楽と同じ効果なんですよね。「どんな痛いことされるんだろう」ってみんな不安になる場所だから、待合室では癒し系音楽を流して、ほわ~〜んと「大丈夫だよ〜」って安心感を演出している。「ウッ」をコントロールしたからといって、最後の手段の作家性が薄まるわけではありません。作家性はもっと深いところにあるものだから。
連:作家性に関しては、僕らもそういう風に思っているから、いろんなタッチで描いているんだと思う。
有:実際に最近は、“最後の手段感出したい”ってどんどん気負わなくなってきてる。そうしなくても、にじみ出ているんだってわかったから。
──制作時の、作画と監督間のワークフローを教えてください。
大月:まず、僕が文字コンテを書く。アニメのときは絵を描く人がいるので、絵コンテを自分で描かないほうがいいと思っています。余計なビジュアルインプットはないほうが良いですよね。
有:大月さんの文字コンテは、読んだらすぐに絵を起こせる程、詳細に書かれているんです。
大月:その後、動きの確認や、効率性をディスカッションして、最後の手段から上がってきたコンテやキャラクターデザインをクライアントに確認した後、絵コンテを並べてビデオコンテを作ります。そして、作画に入ってもらうという流れです。
有:我々は、手描きで原画を描いた後、スキャンして、切り抜いて、レイヤー状に並べて大月さんに送る。
大月:それをAfter Effects上でアニメーションやエフェクトをつけていきます。
──詳細な文字コンテとのことですが、どのくらいの自由度を持たせてディレクションするのですか?
大月:僕は、“意味”と“感覚”を分けて考えるようにしていて。文字コンテで伝えるのは、主に「意味」の部分。「このシーンはこういう意味です」というのが、情景が浮かぶように書かれている。その解釈が合っていれば、基本的には良いと思っています。一緒に作っているわけだから、絵的な部分はすべてまかせています。
な・ん・で・す・が、メタモルフォーゼの箇所はこの映像の肝なので、楽曲に合わせてタイミングごとに枚数をきっちり割り出して、細かくディレクションしました。
有:私たちは紙に描いたものを、パラパラ漫画のように確認することしかできない。だから大月さんの編集したものを見て、「おぉ、こうやって動くんだ」って。メタモルフォーゼのところは、最初は切り抜かない予定だったんです。それを自分で原画を切り抜いて、それにエフェクトをかけていたのには驚きました。
大月:ジュワ〜〜ンって感じを強調したくて、滲みのようなエフェクトを加えた。でも自分で全部切り抜けるかなって思って、1メタモルフォーゼやってみたけど、狂気の作業量で丸一日かかって(笑)。
有:なので、サンフランシスコに住むもう一人のメンバー、おいたまに、狂気の切り抜き作業をやってもらいました(笑)。
アナログの原画と、デジタルなエフェクトの関係
制作期間は、約2カ月。アニメーションは最高で12フレーム/秒、デジタルエフェクトは24フレーム/秒で制作。
──最後の手段の中では、役割分担はあるのですか?
連:有坂がメタモルフォーゼ、キャラクター周りを担当していて、僕が背景や着色を担当しています。大変だったのが、ゆるいストーリーアニメの部分が、全然ゆるくなかったこと(笑)。背景も全力投球が必要で、メタモルフォーゼとガッツリ同じ労力を使いました。他にも3人に手伝ってもらいました。
大月:それはやべ~な~。
有:動きはそんなにないんですが、その分しっかりと描かないと(メタモルフォーゼと)バランスが取れない。
大月:そっか。じゃあ、全編フルメタモルフォーゼも作れたのか!?
連:あ~(笑)。
大月:あじさいは連くんのお母さんが描いてるんだよね?
連:趣味で絵を描いているんですが、前から「手伝いたいわ~、やりたいわ~」っていう感じだったのでお願いしたら、めちゃくちゃ速くてびっくりしました。
大月:ついに親まで…本当、最後の手段だよね(笑)。
有:原画の束がすごいことになりました。
──お互いの持ち味が合わさって、この気持ち良いビデオが生まれたんですね。
大月:連くんが描いてくれていた、高台から夕焼けを眺めているシーンの空の色がすごくきれいで。空を虹色に感じさせたくてエフェクトでほんのちょっと色を変化させてます。
連:夕焼け空はもっと上手に描ける自信があったんですが、グラデーションがうまくいかなくて。でも、大月さんが光を入れてくれたら良くなりました。
有:コマ撮りで光の表現って至難の技で、ウチらにはああいうことができないですからね。
大月:なんだけど、いつも本当に半信半疑なんですよ。アニメーション上に光を足していって、それってアナログにいきなりデジタルを足す行為だから、そこのゴールが未だに確信が持てないところがあって。違和感を感じながらやっています。「ちょっと(デジタルで)面汚ししてないかな?」って、最後の手段にも相談をしたりしてて。
連:気にならないし、そういうことをまさに期待していたのはありました。
バナナの象徴するもの、それは…?
バナナのキャラクターはYUKIデザイン、ネコのキャラクターは矢野顕子デザインによる。
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──世界の人々に届けられるバナナ。幸せの象徴と捉えてもいいんでしょうか?
大月:「これがあれば安心で、これがなければ寂しくて、これさえあればみんな笑顔」という歌詞通りのモノ。バナナのままでもいいし、何かに置き換えて解釈もできる素敵な歌詞ですよね。それは人それぞれ。愛でもいいし、コーヒーでもいいし、精神安定剤でもいいんじゃないかな(笑)。愛を世界にバラ撒く2人のバナナに、僕はティモシー・リアリー博士を想像しちゃいましたね(編注:サイケデリックカルチャーの父であり、元ハーバード大学教授であり、アーティスト)。
連:バナナがつないだ宇宙人との出会い。感動しました。
大月:宇宙人とも仲良くなれるバナナ。ロマンチックでしょ。
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