ポカリスエットCM、ガチダンス企画のはじまり
「ポカリガチダンス選手権」
2016年春夏のCMが話題となり、全国から応募されたガチダンスビデオで制作されたCM。本シリーズでは、このようなスピンオフビデオが多く発生し、参加者を巻き込んでいった。
──オリヴィエさんは何度も来日されていますが、日本のどんなところが好きですか?
日本の全てが好きです! もちろん、大変親切な人々、素晴らしい食べ物、たくさんの興味深いビジュアルアート、ファッションへの情熱、クレイジーなジャパニーズポップカルチャーなど。伝統的なものから、草間彌生、イッセイミヤケなどのコンテンポラリーな展覧会などを観るために、メジャーな美術館にはすべて行きました。また東京では、いくつかのパフォーマンスを観覧しました。個人的には、伝統的な能のパフォーマンスにとても感動しました。また歌舞伎には興味があったので、感慨深いものでした。また宝塚にもとても驚きました!
──Willy MoonのMV「Yeah Yeah」やTED「The Power of X」など、I COULD NEVER BE A DANCERのコレオグラフィーのイメージは、知的で洗練されていて、グラフィカルな印象だったので、「情熱」や「青春」がテーマのポカリスエットのお仕事は、意外性がありました。
オファーをいただいたときは、私たちも驚きました。なぜなら、とても日本的な企画だったからです。一方で、とても嬉しく思いました。きっかけは、「Yeah Yeah」と「The Power of X」を見た電通クリティブディレクターの正親 篤(おおぎ あつし)さんと、フィルムディレクターの井口弘一さんからご連絡をいただいたことでした。正親さんは、「これらのビデオはクレバーでユニーク」なところがこのポカリの企画にぴったりだとおっしゃっていました。世界中からリサーチしたコレオグラファー候補から選ばれ、光栄ですね。
──振り付けについて、代理店や監督からの要望はどのようなものでしたか?
「Yeah Yeah」がインスピレーションだったので、やはり“何か違うもの”、そして“腕を多く使った動き”がほしいということでした。
「Willy Moon- Yeah Yeah」
dir: Alex Courtes, dop: Axel Cosnefroy, ch&ca: I COULD NEVER BE A DANCER
I COULD NEVER BE A DANCER:コレオグラファー / 映像作家 / アートディレクター。Carine CharaireとOlivier Casamayouによる、パリを拠点に、既存の型にはまらないアーティストデュオ。ファッション、コンテンポラリーアート、広告において、ダンスを重要な要素として取り入れ、有名な王立劇場、ポンピドゥセンター、エルメス、シャネル、カイリー・ミノーグにチャカ・カーンといった、インターナショナルなアーチストとポップカルチャーに参加することを楽しんでいる。
──どのような流れで、どのようなチームで制作されたのですか?
3年の間に方法は改善されていきましたが、初年度は、私とカリーヌ ( I COULD NEVER BE A DANCER ) がパリでルーティンを作り、そのビデオを日本のチームに送って、その後、来日して調整していく…というやり方でした。ただし、やっていくうちにパリでルーティンを作ってビデオを送る方法は、時間もお金もかかるので、私とカリーヌが来日し、アシスタントのボディーを使って振付を作り、その後、日本人のダンサーの身体に振付をあてて、直接、調整・セッションをする方法に切り替えました。その方が効率的だということがわかったんですね。
チーム編成は、カリーヌ、私と1名の外国人アシスタント、1名の日本人アシスタントのの計4名。シンプルですよね。アシスタントのスヌーキーは日本在住のフランス人と韓国人とのハーフで、3カ国語を話し、日本人のダンサーに向けての指導を担当します。もう一人は、スヌーキーのアシスタントの菜花です。
2016年版は女子マネージャーと部活男子の学園生活
ポカリスエットCM「エール」篇
dir: 井口弘一、ch&ca: I COULD NEVER BE A DANCE
──2016年から3年にわたって携わってきたポカリの高校生ダンスシリーズですが、概要を教えてください。
今年、ギネス記録を樹立してこのシリーズは3年が経ちましたが、我々が携わったもので言うと、毎年、メイン映像を春版、夏版とそれぞれ作り、それに加え3つのウェブフィルムを制作しました。
ウェブフィルムはMV仕立てで、高校生ダンサーがパリ、キューバ、インドの街に弾丸で行って踊る、というものです。1年目は「ポカリの振付師が住んでいるパリに行って踊ってみよう」ということでパリの街、そしてキューバの街でも踊り、2年目がインドでした。
──第一弾が「エール」篇と「サンクス」篇でした。
女子と男子が、春篇と夏篇で掛け合うというカタチになっています。男子が部活の部員で、女子がそれらのマネージャーという設定で、春篇では女子マネージャーから男子部員にエールを送り、夏篇で男子部員がマネージャーに「ありがとう」を返す構成です。男女で分けて、校内のいろいろな場所、異なるグループによる小さなコレオグラフィーを積み重ねていくという作り方をしています。たとえば、廊下に一列に並んだパーツだったり、屋上のパーツだったり。
ポカリスエットCM「サンクス」篇
dir: 井口弘一、ch&ca: I COULD NEVER BE A DANCER
女子高校生マネージャーの学園生活と部活に励む男子高校生部員たちのイメージが、コレオグラフィーのインスピレーションとなっている。
──中心に置いたダンスのスタイルは?
グラフィカルで、明確な腕の動きが重要でした。そして、代理店からのオーダーは「易しくないコレオグラフィーを考えてくれ」ということ。学生が真剣に取り組む姿を捉えたかったのだと思います。
──高校でダンスが必修科目になったという背景も関係していそうですね。
ええ。ですので、これらのダンスを体育祭などで学生のみなさんが踊ってくれるといいなという思いもありました。ちなみに、フランスには部活という仕組みがないんです。プロダクションの方が私たちのために、日本の部活文化についてのビデオを作ってくれました。剣道など日本のスポーツを扱うのはとても楽しかったですよ。
2017年版、青波高校の「始業式」と「修学旅行」
ポカリスエットCM「踊る始業式」篇
dir: 井口弘一、ch&ca: I COULD NEVER BE A DANCER
──2017年は、春に「踊る始業式」篇、夏に「踊る修学旅行」篇が作られました。
「踊る修学旅行」篇は、本物の船で撮影しています。私はこのCMが特に気に入っています。2017年版はダンススタイルとしては、体を打楽器のように使うボディパーカッションがテーマ。振り付けに取り入れているのがわかると思います。
ポカリスエットCM「踊る修学旅行」篇
dir: 井口弘一、ch&ca: I COULD NEVER BE A DANCE
──「踊る修学旅行」篇の、どのあたりがオリヴィエさんのお気に入りですか?
カリーヌも私も、シンプルでグラフィカルで、覚えやすいけれど、知的なコレオグラフィーが好きなのですが、それが実現できたことでしょうか。
──ポカリスエットのイメージキャラクターの八木莉可子さんも、このプロジェクトのために一生懸命に練習したそうですね。
八木さんはダンス未経験者でした。初年度は、彼女のレッスンは振り付けだけでなく、バレエなどのダンスの基礎も教えました。空いている時間で、地元でジャズやヒップホップのダンスレッスンにも通ってもらいましたね。全体を通して、八木さんを励まし、自信をもってもらうことが重要でした。すごく上達しましたし、よくやったと思います。
ギネス記録を樹立した「ポカリガチダンスFES」篇
──最終章となった今年、3,770人の高校生ダンサーとギネスレコードを樹立しました。どういう経緯で挑戦することになったのですか?
メンバー内で「ギネスレコードに挑戦しよう」というアイデアが出てきたので、「やりましょう!」と即答しました。なぜなら、フランスやヨーロッパではこのようなプロジェクトはほぼ実現不可能だからです。フランスではみんながそれぞれ違う。ボディタイプも違うし、スタイルも違うし、ダンスを習ってきたバックグラウンドも違います。みんなが同じエネルギーを持っていませんし、スピードもクオリティも違います。
一方、日本ではボディタイプはそんなに大きく変わることはありませんし、ダンスのバックグラウンドも、必修科目である程度共通しているので、グループとしてのまとまりがあります。
ポカリスエットCM「ガチダンスFES」篇
dir: 井口弘一、ch&ca: I COULD NEVER BE A DANCER
昭和記念公園で6月9日に開催された、「ガチダンスFES」。ギネス世界記録の記録カテゴリーは「TVコマーシャル向けに同時に踊った最多人数」。日本各地から、高校生が参加し、総勢3,770人がギネス世界記録に認定された。
──「ガチダンスFES」篇のコレオグラフィーはどのようなコンセプトなのですか?
参加者はダンサーだけでなく“高校生全般”だったので、フラッシュモブのようにはしたくなかった。なので、難易度もあり、ビジュアル的にも面白く、意欲的なものを作りました。
リハーサルの模様
──これだけの人数に教えるのは大変そうですね。
もちろん、全員に対して私たちが直接教えることは難しいですよね。カリーヌとルーティンを作って8名の高校生ダンサーに踊ってもらい、日本人の身体表現において、またグループで踊ったときにどう見えるのかを検証していきました。日本の高校生の身体でどう見えるのかというのは、私たちにとって非常に重要でした。彼らの身体とエネルギーに最も合ったルーティンを作りたいと思っていましたから。高校生ダンサーグループとともに進めていったことで、どういうのが効果的にハマるのかを見極めることができました。
その後、チュートリアルビデオを作り、リーダーとなる高校生ダンサーをはじめ、参加希望者に覚えてもらって、本番まで練習を重ねてもらいました。そして当日、本番でみんなが集合してくるわけです。本番はまるでバーニングマンのようでした。リハーサルを2時間行った後、本番撮影を2時間かけて行いました。
「ガチダンスFES」レッスンビデオ
日本的なエモーションの表現の仕方
取材の際、オリヴィエさんのお気に入りの動きをやってもらった。
Olivier Casamayou(オリヴィエ・カサマヨウ):コレオグラファー / 映像作家 / アートディレクター。パリのソルボンヌ大学で公務員になるための古典文法・言語の学位を取得しながら、ソロやトリオ(Natyam, Techno Animal, 3003)公演を通じて、独学でダンスを習得。1996年、ベルギーでAlain Platel主催のダンスコンペに出演し、様々なダンススタイルが絡み合ったユニークな演技でベストダンスソロ部門で1位を受賞。過去には、Jérôme BelやMarco Berrettini、Edouard Levéらと共演している。
──このプロジェクトは、「ダンスで青春」を超えて、参加者にはそれ以上の経験となったのではないでしょうか。
たくさんの物語が生まれたプロジェクトだと思います。シリーズを通して、「青春」「エネルギー」「自分の限界を超える」という大きなテーマがありましたが、まさしくそれらが実現したのです。参加した高校生はプロのダンサーではありませんが、プロ顔負けのレベルで踊りました。本当に彼らは学んだと思います。練習もたくさんしました。このCMのテーマは、すべてこれらの映像に表現されていると思います。みんな本当に素晴らしかったです。
この仕事で、みんなのダンスにおける熱い情熱を感じました。グループダンスだから、上手いとか下手とか以上に、ひとつの旅なんですね。グループとしての体験なんです。日本人はシャイと言われていますが、私に言わせると日本人のエモーションは、欧米的な“表現”でも、“ロマンティック”なアプローチでもなく、グループで醸し出すエモーションだと思うのです。
このプロジェクトに参加できたことをとても誇りに思っています。素晴らしいアドベンチャーで、「ギネスレコードに挑戦」するなんて、こんなクレイジーな仕事をするとは夢にも思っていませんでした。
最後に、ガチダンスFESのドキュメンタリー動画があるのですが、ぜひご覧いただきたいです。CMとは違った一人ひとりの熱い情熱を感じていただければと思います。
──最後に、これから挑戦してみたいこと、今後、日本でリリースされるお仕事があればご紹介ください。
日本での仕事は、7月にオンエアされたユニクロのCM、アンクルパンツ(関和亮監督) 、8月にオンエアされた北野武さんが出演するDMMのCM (田向潤監督)、9月にはパリでエルメスのパーティー、北京でカルティエのハイジュエリーショーが控えています。
近い未来に、ビジュアル的に面白くて、強いコンセプトのあるものをやりたいです。TEDの「The Power of X」のようなものです。役割はコレオグラフィー、アートディレクション、フィルムディレクション、なんでも私たちはオープンです。
ポカリスエットCM制作スタッフ
監督:井口 弘一
コレオグラファー:I COULD NEVER BE A DANCER(IUGO)
ECD:古川 裕也(電通)
CD / CW:磯島 拓矢(電通)
CD / AD / PL:正親 篤(電通)
CD / PL:眞鍋 亮平(電通)
CW:筒井 晴子(電通)
PL:佐藤 雄介(電通)
AD:松永 美春(電通)
AD:佐藤 香織(電通)
CP:豊岡 将和(電通)
振り入れ講師・振付アシスタント:Snuki、菜花
プロダクション:小澤 祐治、小林 勇介(ギークピクチュアズ)
プロダクションマネージャー:大竹 聡、辻井崇(ギークピクチュアズ)
アシスタントディレクター:江田 剛士