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技術よりも世界観を大切にしたい。
注目のCGアニメーション作家でんすけ28号インタビュー

kana May 29 2018

2016年多摩美術大学のメディア芸術コースを卒業し、フリーランスの映像作家・アートディレクターとして益々活躍の場を広げるでんすけ28号。一度でも彼の作品群に触れると、その独創的な世界観は頭の片隅にこびりつき、勝手にループをはじめてしまう。NEWREEL ではでんすけ28号の作品の作り方を根ほり葉ほりと聞いてみた。ちなみにアーティストネーム「でんすけ28号」は小学生の時にオンラインゲームで使っていたハンドルネームから。

取材写真
rakutaro
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モデリングとモーションはほぼ自動。世界観作りに時間を掛けたいから

「Qiezi Mabo loves PUNPEE – Qiezi Mabo Forever (Fried Chicken Mix)」dir: でんすけ28号

──卒業後、就職をせずフリーランスとして活動されていますが、学生時代からやっていた仕事が軌道にのってのことなんですか?

自分のやりたことをやり続けるにはフリーランスでいくしかないと思っていて。なので卒業間近の頃は、当たって砕けろ、じゃないですが、色んなコンペに出品していました。

——学生の時にバンドYour Gay Thoughts の MV「To Disappear」を作られ話題になりましたね。

Vimeo で僕の作品を見たレーベルから連絡をもらって作ったんです。海外からの依頼だし、テンション上がって、やるしかない! と。それで出来上がったら上手いことハマってくれて Vimeo の Staff Picks に選ばれ、その後は、仕事が仕事を呼んで繋がっている感じです。

「Your Gay Thoughts – To Disappear」dir: でんすけ28号

——昨年は MV を中心に量産されている印象なのですが、制作ペース早いですよね?

どうですかね……。でも、自分でモデリングをちゃんとするっていうこだわりが無くて。ビルとかモデルは結構買ってきたりするんで、そういう意味で早いと思います(笑)。それでマテリアルをつけて自分のものにする。最近はキャラクターアニメーションが多いのですが、キャラクターのモーション自体もあまり自分で作るっていうこだわりないんですよ。

──奇妙な動きのキャラクターが多いのでそこにはこだわっているのかと思っていました。

最近は Adobe の mixamo っていうサービスを使っています。そこにキャラクターをポンって投げると、勝手にリグ付けしてくれる。モーションのライブラリも充実していて、アクションを選択するだけでいいっていうめちゃくちゃ便利なサービス。数分で出来てしまう。僕の場合、概念さえあっていればそれでいいんです。キャラクターアニメーションでいうと、キャラが歩いていたりジャンプしていたり、アクションの意味が伝わればそれでOK。逆にスタンダードなアクションがしっかり伝わらないとフィクション的な動きに対比が生まれず、いきてこない。突飛なモーションよりもそういった普通の動きを違和感なくゼロから作り出すことの方が難しいし、時間がかかってしまう。mixamoはそこを補ってくれるので積極的に利用しています。もちろんこだわるところはこだわりますが、気持ちいい動きを追求しようとか、そういったものは無いですね。省けるところは省いているので、そういう意味では早いですね。見る人がみたら、「あ、これ mixamo じゃん」って(笑)、すぐわかると思います。それよりも世界観を作るのに時間を掛けたいんです。

──時間を掛ける世界観作りはどういう作業をしていますか?

アイデア、シナリオを考える作業です。チェズマボ(Qiezi Mabo)なんかは、楽曲とリリックをもらった瞬間からめちゃくちゃイメージできました。リリックが秀逸なんです。脈絡があるようで無い。そういうイメージのものを僕はずっとやりたいと思っていたんです。映像も脈絡があるようで無いようなカットをつらつらと連ねて一本のビデオを作りたいと思っていたから。「お、それじゃん!」って。

アイデアの出し方としては、やりたことのストックがあって、仕事が来たらそこから引き出してくる感じ。MV なら、曲を聞いて白紙から考えていくというよりも、手持ちのアイデアとどうマッチさせるかっていうところを考えることが多いです。チェズマボに関してはマッチするどころじゃなくて、それ!って言うくらいドンピシャでした。

──裏ストーリーがありそうって思っていました。

そういう風に醸し出しているだけです(笑)。1フレーズのリリックから連想されることを自分なりに解釈してビジュアル化してカットを繋いでいきました。

──登場する覆面男やバニーちゃんといったキャラクターも買っているのですか?

キャラクターを作るのは楽しいので自分で作ります。とは言え、簡易的に作っています。Make Human っていうソフトがあって、ゲージを調整するだけで、鼻の高さや肩幅の広さなどを設定できたりするんですけど、そこでベースを作ってそれを Cinema 4D にもってきて、細かいところを修正したり、服を作ったりしています。でもリボンは買いました。コラージュと言うか、服装をコーディネートする感覚でモデルをチョイスをしています。映像自体もそういう感覚で作っています。ゼロベースではじめることはあまりないです。時間かかってしまいますから。

──利用できるものはドンドン使う。それが回り回って味にもなっていますよね。

自分でも勝手にそう解釈しています(笑)。

──チェズマボの制作期間はどれくらいなんですか?

1ヶ月半。ずっーと作っていました。朝、起きたら机にむかって作業して、飯食べて寝て……その繰り返し。チェズマボのときは、それが苦じゃなくて。楽しいんです。やっぱり最初にバンってイメージできるものってスラスラと進むものですね。ほとんど一人で作っていたから、絵コンテも描く必要なくて、頭の中のイメージを、サラリーマンが歩いている最初のカットから順に、直接パソコンで作っていきました。手を動かしていくと、よりイメージ出来るようになってくるから、作業をするごとにはっきりとしてきます。

僕、CGヘタなんです

でんすけ28号:映像作家・アニメーション作家・アートディレクター。1993年生まれ。東京都出身。2016年多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コース卒業

──動きにこだわりがないとのことですが、BUGGY MAP をはじめ、キャラクターたちはなかなか独特な動きをしていると思うのですが……。

そうですね、本格的に mixamo を使い始めたのは、DALLJUB STEP CLUB の「2」 以降なんです。それまではがんばって手付でぎこちないモーションをやっていました。
僕 CG ヘタなんです。へへへ。

──肩書はCGアニメーション作家ですよね。

むちゃくちゃヘタですよ、僕。某 CG コンテストで「CG ヘタだね」って言われました(笑)。まぁ、そうなんですけど。上手い下手じゃない気がしていて。僕が作るものには技術力とかあまりいらないというか。

──というのは?

逆に中途半端に技術力を持ってしまってはダメだと思ってます。アイデアを出す段階で技術的な思考からくる制限がかかってしまう可能性があるから。技術的に何ができて何ができないのかわかってくると「できない」「難しい」と判断したアイデアは手が出しにくくなるし、そもそも出てくるアイデアが自分の技量に基づいた着想に偏ってしまう恐れがりますよね。まぁ、すべてをコントロールできるほどの技術力を身につけることができれば、それがベストなのかもしれませんが。

例えば、小さい子どもが慣れないクレヨンでお母さんの似顔絵を描こうとすると、奇抜な造形と色使いで描画するように、ある意味下手だからこそ生まれる突飛なアイデアとか表現があると思うんです。

もちろん、テクニカルな領域が優れていないと作れないものだってあるし、そういう部分に長けている人たちのことは無茶苦茶リスペクトしてます。だけど僕はこのせっかくの下手な期間を大事にしたいと思っているんです。技術力って上げることはできても、意図的に下げることは難しいので。

──自身の体験からそう感じたことってありましたか?

以前、ライゾマティクスの Perfume 「Global Site Project」っていうプロジェクトがあったんです。パフュームのモーションキャプチャーデータが配布されて、だれでも自由に二次創作ができるというものがあって、いじってみたんです。キャラクターのモーションデータを触ったのはその時にはじめてだったんですが、楽しいな~って。でも、普通に動かしているだけじゃつまんないよなーってどこかで思いながら。そうしたら数値の入力ミスでキャラクターの関節がガキガキガキ!ってあり得ない方向にネジ曲がった。「うわーこれ面白いじゃん! これを使って作品をつくれないかな」って。

バグですよね。バグの面白さを見つけて「BUGGY MAP」をつくったんです。そうしたら周りから好評価をもらった。あ、これでいいんだ、って思って。それまでは型にはまって映像のセオリー通りにやってきたんですけど、そういう型にはまらない作品を作って、発表したらウケて、自分でも納得していたので、何やってもいいんだって、CG の可能性が広がったんです。

──枠を出たら楽しくなったんですね

何でもありなんだな~って。

「BUGGY MAP」dir: でんすけ28号

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