面白い映像には「型」がある
PlayStation「GRAVITY CAT 重力的眩暈子猫編」dir: 柳沢翔
ーPlayStationのCM「重力猫」や、資生堂のCM「High School Girl? メーク女子高生のヒミツ」は、国内だけでなく海外でも人気となりました。柳沢さんのモノ作りにおける方程式みたいなものはあるのですか?
技術的な話と観念的な話があって。技術的な話は単純で、人を飽きさせない生理的なもの。辻川幸一郎さんのコーネリアスの初期作品群とか、本能的なところに訴えかける「型」があると思っています。
PlayStation「重力猫」メイキング映像
ーそれはどういうことでしょうか?
「型=リズム」だと思っています。世界中の神話を突き詰めていくと、実はどれも同じ中心軌道でできている、っていう話と一緒。時間軸があるモノには、バイオリズム的なものがあるんです。僕のパソコンにそういう作品だけを集めたフォルダがあって、それらを見ていると、なんとなく共通項がわかってくるんですね。何秒でこうなって、それが変化して、最後に元に戻って、戻ったら1回目とちょっとだけ変わっている…とか。映像の歴史が積み上げた普遍的なリズム。そこに、自分がビジュアル的に好きなものを持ってくる。クレメント・グリーンバーグが言った「見たものがすべて」という、あまりにもまっとうな言葉通り。
概念的なことで言うと、無理そうなことを2つくらい重ねると、世の中にないものが作れると思っています。みんなのモチベーションが変わってくる。観ている人もそうだし、スタッフ側もそうなんです。広告って、モチベーションをコントロールしづらい時があるんです。スタッフの熱意に対して受け皿が小さすぎる逆転現象が起きる時がある。誰も見たことのないものをやっているんだっていうだけで、自分もそうですが、関わってるスタッフ全員が情熱を傾けられる。大義があるだけで、モチベーションが違う。ディレクターは、その熱意を伝えることが仕事だと思うんですね。
ハイスクールガールの舞台裏
「High School Girl? メーク女子高生のヒミツ」dir: 柳沢翔
ー「ハイスクールガール」の制作時に「大義」の重要性に気づいたとおっしゃっていましたね。
あの映像は、カメラマンが大橋仁さんだったんです。仁さんは被写体のプライベートゾーンにバッと寄って、「人間」を撮る才能に長けている。でもハイスクールガールは、「ここで2秒、ここでのカメラの振りは1秒半…」みたいなタイプの仕事でした。それでも僕は大橋仁でやりたかった。資生堂のビューティーに、大橋仁っていう剥き出しのアーティストをぶつけたかったんです。
いざキックオフミーティングで仁さんに撮影内容を伝えたら、「あー、それはできたらいいよねー」って、はるか遠くに行ってしまった。「あー!! どうしよう」と思いました。それで、「仁さん、できない要素が3つあって、出演者は8時間止まっていないといけないし、自然光の中でやるから光のコントロールはできない、しかもワンカット。不可能系が3つです!」と言ったら、「…それは面白いです!」ってめっちゃ近くに来てくれた。アーティストに火をつけるのって、こういうことなんだと思いました。僕らが登ろうとしている山は、まだ到達した人がいないんだってわかった瞬間に、本当のクリエイターであればあるほど、パンク魂に火がつく。そこからうまく回りはじめました。仁さんの現場掌握能力のおかげで、素人の子たちが8時間静止していられたんです。人の心を動かす作品を作るためには、まずスタッフ全員が燃えあがらないといけないんだって。
ー役者さんも大変だったと思いますが、オーディションで集められたのですか?
彼らは一般の学生たち。ナマっぽい人たちを仁さんに撮ってもらいたかったから。雑誌の『東京グラフィティ』に協力をお願いしたところ、担当してくれたのがすごく熱い人で、渋谷でナンパしてきてくれました。それで集まった子たちが、本当のイケてるヤツら。そういう子たちって、この業界に入ってる子たちよりも、リアルな格好良さがあると思うんです。「この子たち、絶対使いたい!」と。でも「8時間とか静止しててね」なんて言ったら絶対に逃げられる。「女装する仕事です。すごいカメラマンが撮影しますよ」ってところを前面に出して説得しました。
ー8時間動けないと知った時は、どんなリアクションでしたか?
当日現場で、「じゃあ、ここに座ってこういうポーズとって。はい。じゃあ、今から8時間止まってて」「え???」みたいな(笑)。東京〜ハワイ間を動くなって言ってるのと同じことで、やってみるとわかるんですけど、3分でも超キツいんです。1時間をすぎたあたりから、無の状態ですね。そんな無茶ができたのも、全員が「何か」を作ろうとしてきたから。言い訳かもしれませんが。
「スノービューティー」dir: 柳沢翔二階堂ふみと窪田正孝の二人芝居。雪景色の駅舎。幻想的な空間を舞台にした物語。ここでも重力が反転する仕かけが使われている。
ー「重力猫」では、カンヌライオンズのフィルムクラフト部門でゴールドを受賞さてました。おめでとうございます。そしてその後、海外のプロダクションとも続々と契約されていますね。
Blink(UK)とInsurrection(フランス)、Pretty Bird(北米)の3社と契約しました。
ー今後は、海外でも積極的に仕事をされていく予定ですか?
日本が大好きだし、あんまり出たくないんですよ。日本というよりも、家から(笑)。なので3社とも、日本での僕のワークフローが生かせる条件にさせてもらってます。とは言え、面白そうな企画があれば臨機応変に対応せざるを得ないのですが。現在も1つ、進行中の企画があります。
「星ガ丘ワンダーランド」柳沢監督の処女作。中村倫也、新井浩文、菅田将暉、佐々木希らが出演する。星ガ丘駅の近くにある、今は閉園してしまった遊園地「星ガ丘ワンダーランド」を舞台に、20年前に姿を消した母の死から明らかになる過去が描かれる。
ー31歳の時に長編映画デビューをされていますよね。
また撮りたいです。映画好きとか、映画監督としてのキャリアを築きたいとか、そういうんじゃなくて、ただただ、このままじゃ終われないというか。中学生の時の自分が観たかったものをまだ作ってないので。
ーそもそも映画に挑戦したきっかけは?
油絵を描いていて、自分に足りないものを学びたくてCMディレクターを始めたのと同じで、CMをやっていて「良い芝居ってなんじゃろ?」とか、「どうして自分はこの物語の語り口に反応するんだろう?」という部分にドンドン興味がいって、物語を作ってみたくなったんです。そんなところに話が来たので、「やる!」って意気込んで作って、でもボコボコになって帰ってくる、みたいな。
ー次回作は具体的に進んでいるのですか?
2019年に無事クランクインまでこぎつけられるといいなと思っています。
ー2018年はどういう年にしたいですか?
何も考えてないです。先のことを考えてうまくいった試しがないので、目の前のことをしっかりやっていこうと思っています。