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いまの自分に疲れている人のための あおぞら技術用語
「プロトコルの巻」

清水幹太 清水幹太 Apr 4 2018

清水幹太さんによる技術用語連載。今回はご本人の過去の失敗を「プロトコル」に例えて、わかりやすく解説しています。

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自慢ではないが、結構ここまでの人生いろいろあった。特に、20代になってからこの方、学校を中退したり、成り行きでいろいろな仕事を転々としたり、それなりに波瀾万丈とも言える人生を歩んできているので、ちょっと面白いエピソードもいくつかある。

それは大いに結構なことなのだが、30代に入って仕事もそこそこうまく行きはじめた頃、この、それなりに波瀾万丈な人生のお蔭で記念碑的な失敗をしてしまったことがある。

今回のテーマである「プロトコル」を間違えてしまったのだ。

2008年8月7日。銀座アップルストア。2階。もうあれから10年になってしまうのか。

私はそのとき、極度の緊張状態にあった。この日、私は生まれて初めての舞台に立とうとしていた。「月刊インタラ塾第2回『清水幹太が語る1クリックへの責任』」。そう、この日は私にとって、初めてたくさんの人の前でスピーチをする、つまり、生まれて初めて講演をすることになっていたのだ。

制作業界に就職して2年半、必死に働いて、話題のプロジェクトにも参加してきた。そんな私に、このイベントシリーズを主催している業界の大先輩が注目してくれて「講演してみないか」と声をかけてくれた。就職前から憧れてきた存在だ。

天下のアップルストアは、200人もの人でいっぱいになっていた。

テーマは、「1クリックへの責任」。どういう内容だったかは忘れたが、良いデジタルコンテンツをつくる上で、1つ1つのクリックを大切にして丁寧にものをつくってるぜ、みたいなことを講義する感じだったかと思う。

緊張していい条件がすべて揃っていた。初めての晴れ舞台というには、私は緊張しすぎていたのだろう。

自分が講演なんかするような大層な人間になるだなんて全く想像しなかったしいやこんなの無理だ無理だ。人多杉だしだいたい自分みたいな22歳からハゲてて青春も何もなかった人間の話なんて聞いてどうするんだ。この人たちは銀座まで何をしにきたのかどういうつもりなのか私の話なんかじゃなくてジーニアスバーでジーニアスと話してればいいじゃないかだいたいこの場で変なことをしゃべったら先輩をしくじってしまうしきっと業界干されるのかなもう嫌だなせっかく就職したのにどうしようどうしようなんかすごいこれ女の人結構多いぞどうすればいいんだ女だ女だ女だ女だ男だ女だこっち見るな見ないでくれやばいやばいなんかおじいさんとかもいるぞダメだもうすみません人生長らく生きてらっしゃったのに最終的にこれからどうでもいいお話をお聞かせしますすみませんおじいさんギャー始まるもう始まるぞこれどうしようどうしようどうしようよしとりあえずなんか言うぞ。

「こんにちは。清水幹太です。今日はお越し頂いてありがとうございました。まずは自己紹介からさせて頂きます。」

まともだ。結構まともな言葉がスッと出てきた。滑り出しは順調だ。これなら行ける。この調子で、音楽のように流れるようにしゃべっていけば、予定の1時間半なんて余裕で過ぎているはずだ。よしこんな感じで突っ走るぞ。

そして1時間10分後、私はしゃべり続けていた。むしろしゃべり過ぎていた。あろうことか、90分の講演時間であるにもかかわらず、時間を気にせずに70分間自己紹介をし続けてしまったのだ。「まずは自己紹介からさせて頂きます。」とか言ってそのまま70分だ。

自分の生い立ちから、バーテンダーをやっていた頃の話、楽器を吹いていた話、ホリエモンの会社でバイトしていてすぐに辞めた話、みたいな基本的に本筋とは関係のない話。

当然、22歳でハゲ始めた話もした。実家でテレビを見ていたら突然母親から頭部に育毛剤スプレーを掛けられ、「何すんだよ!」と怒ったら、「いや、だって、あまりに不憫だったから・・・」なんて言われたことまで話した。

テーマである「1クリックへの責任」に全く触れないままに、かなり濃い目に自分の人生について語った後、持ち時間が残り20分であることに突然気づいた。

結構渋い顔をしている(ように見える)運営の方々。明らかに間延びムードを感じさせる観客席。

そういう講演だから、ノートを持ち込んでメモを取ろうとしていたお客さんもいた。しかし、みんな途中でノートを閉じてしまったらしい。

残り20分。覚えたてのキーノートでつくったスライドはまだ2/3以上残っている。無理やり帳尻を合わせようと、ものすごいペースで残りの部分、というか実際はメインの部分を駆け足で走り抜ける。

そしてタイムオーバー。

話しかけてきてくれたお客さんも、運営側も概ね、苦笑いしながら「・・・面白かったです」という始末だった。

銀座アップルストア2階に漂う苦笑いと微妙に微笑ましい空気と、「お前はよく頑張ったよ」感。

結果として、そこにいる全員が、自分の意思に反して妙に私の生い立ちからの人生、人となりについて詳しくなっている状態がそこにあった。この人たちは、必要以上に私のことを知っているのだ。

それにしても、彼らが知りたかったのは、私の制作に関わる秘密、というか秘訣、というかそういうものだったわけで、本来必要のない分量の情報を得てしまったのだ。

改めて、今回のテーマは、「プロトコル」である。プロトコルという言葉自体は、実は技術用語ではない。WIkipedia によると、プロトコルとは、「複数の者が対象となる事項を確実に実行するための手順について定めたもの」。すごく簡単にまとめると、「コミュニケーションのフォーマット」。「こういう順番でこういうことをしゃべってね」みたいなことである。

それでもよくわからないと思うので、ハガキにたとえてみる。ハガキというのはある種のプロトコルだ。ハガキというのはだいたい同じだ。郵便番号と切手貼るところと、住所と宛先の名前、差出人。そして裏面に伝える内容を書く。

この形式に沿って書くことで、配達する人や機械は迅速に仕分けしたり、正確に宛先に届けることが可能になる。

形が決まっているから処理がしやすいわけで、そういう意味でハガキは効率化された連絡形式、プロトコルだ。

そういう、「決められた、共通の伝え方」みたいな意味合いで使われてきた「プロトコル」という言葉も、コンピュータの発達によってすっかり技術用語になった。と言ってもあんまり意味は変化せず、「マシンやソフトウェアどうしのやりとりに関する取り決め」ということになる。

機械やソフト間の通信データの形式、ということで良いかと思う。それが、コンピュータをいじっているとたまに耳にすることがある「プロトコル」だ。

一番有名なプロトコルといえば、恐らく「HTTP」だろう。いろんなウェブサイトのURLの最初にくっついているアレである。もはやみんな「エイチティーティーピーコロンスラッシュスラッシュ」なんて言って自然に使っているが、日常生活の中に入ってくるにはちょっとコンピュータ臭すぎる言葉だ。

そんな HTTP は、「ハイパーテキスト・トランスファー・プロトコル」の略で、先ほど説明したプロトコルの一種、ということになる。HTML(ウェブサイトの中身)であるとか、その上に乗っている画像とか映像だったり、ウェブサイトのを表示するために必要な情報をやりとりするための形式だ。

みなさんが日々見ているウェブサイトの画像や文章は、最初から自分たちのパソコンや携帯に存在するわけではない。

URL にアクセスして「ここのウェブサイトに入ってる画像や文章をください!」とリクエストした後に、みなさんのパソコンや携帯に送られてきたものなのだ。

そんなときに、携帯のブラウザは、「データください!」というお願いをウェブサイトを提供しているサーバに送る。その「お願い」は、ハガキみたいな感じで、差出人とお願い内容と時間みたいな、相手側の機械が内容を理解できる形で発信される。

そしてそれに対する「お返事」としてデータが送られてくる。そのときも、中のデータがどういうデータだよー(文字とか、画像とか)とか、その情報の転送の時間だったりとか、それが行われているドメイン名だったりとか、あともちろん情報の中身そのものも含め、かなりいろんな情報が整理されて一緒に送られてくる。

で、それをウェブブラウザが理解して、画像とか文字として表示される。

ウェブサイトを見るとき、そんな「お願い」や「お返事」のハガキ的なやりとりが無数に飛び交っているのだ。その「ハガキ」にあたる部分が「HTTP」なのである。

HTTP はそういう意味では、すごく丁寧なプロトコル、形式だ。日本語で言うと「○○にいる●●を使って▲▲の時間に★★の形式の情報を■■であるところの※※さんにお渡しします。それがこれです。」みたいな感じだ。

「私、生まれも育ちも葛飾柴又です。帝釈天で産湯を使い、姓は車、名は寅次郎、人呼んでフーテンの寅と発します。」的な冗長さを感じさせる。

しかし、サーバに置いてある情報を確実にリクエストして、間違いなく手に入れるためにはこれが合理的だったりする。

これによって、欲しい情報を順番通りにきちんと手に入れることができる。

こういう丁寧なプロトコルで通信が行われているから、たとえば掲示板で犯罪予告をした人を捕まえることができたり、インターネット上での人の動きを把握することもできる。

ところが、そんな丁寧な情報がいらない、むしろ邪魔になるケースもある。たとえば、動体検知センサーの前に人が通ったことを速やかにコンピュータ間で伝えたいとする。これは感知速度と反応速度が重要だ。「○○にいる●●を使って~~」なんてやっていたら即座に反応することができない。
この場合、「誰かが通った」という情報だけが伝わればいいから、それがリアルタイムに伝わるような「雑な」プロトコルを使う。UDP(ユーザ データグラム プロトコル)なんかがそれだ。
HTTP がハガキなら、UDP はポストイットに要件が書いてあるだけのものを想像すればいい。

余計な情報を省きまくって、ひたすらシンプルな構造になっている。

シンプルだから、伝達速度が速い。ので、UDP はリアルタイムな仕掛けをつくるのにとても向いている。宛先とか郵便番号とか全部すっとばして、裏面の内容だけさくっと書いてそのへんにポストイットで貼ってあるイメージだ。

このセンサーの話でいうと、丁寧なプロトコルの場合、「髪の長い妙齢の女性が何時何分にセンサーの前を通過致しました」みたいな感じになるが、UDP みたいなシンプルなプロトコルだと、「来た!」で済ますわけだ。

しかしこれはすごく理にかなった話だ。人間、生きていると正確さが必要な状態と緊急性が高い状態っていうのが両方ある。「髪の長い妙齢の女性が何時何分にセンサーの前を通過致しました」が必要な場合と、「来た!」で OK な場合がある。人間も、生活する中で用途と場合に応じて、自然とプロトコルを切り替えて工夫しているのだ。

もっと言うと、なるべく高速に情報が欲しいんだけどその中のある要素だけはきちんと知りたい、なんていう場合もある。「髪が長い人が来た!」みたいに、誰かが来たことと、その人の髪型だけが必要で他は必要がない場合だ。

そういう場合は、自前で必要な情報だけが入ったプロトコルをつくって、プログラムに組み込むなんていうこともある。

総じて言うと、目的によって必要な情報の種類も情報量も違うんだから、ニーズによって通信の形式もいろいろ変えようぜ! というのがプロトコルの考え方であり、醍醐味だ。醍醐味なんだろうか。いやたぶん、醍醐味だ。

思えば、前述の、自己紹介に85%くらい費やしてしまった私の初講演での失敗は、お客さんが何を必要としていて、その必要としている情報をどう整理して提供するか、みたいな意識に欠けていたから発生した失敗だ。

世の中にはプレゼンテーションのテクニックみたいなものが存在している。たとえば、言葉にすると長くなる説明は映像を見せる、みたいなこと。

話の大事なところは3つの要点にまとめて順番に説明する、とか、そういったようなものに加えて、時間配分ももちろんテクニックだ。

そういったテクニックというのも、要するに情報を求める人に対して適切な答えをまとめるための伝え方のルール、ということになり、つまりはプロトコル、ということになってくる。

筆者も上記の大失敗のあと、落ち込みまくってこういったテクニックを勉強しまくった。人に何かをうまいこと伝えるためのプロトコルを身につけて自信もついたのか、もう客席に女性が多かったりおじいちゃんがいたりしても緊張はしない。プロトコルにさえのっとっていれば、おじいちゃんにもきっちり言いたいことが伝わるのだ。22歳でハゲ始めた話をわざわざお話することもなくなった。

人に限らず、機械に限らず、何かを伝えるときに、適切な順番と何が必要な情報かを整理して、合意のもとに情報を共有することはとても大事だ、ということなのだろう。

技術の世界には、たまにこういう、「人間社会をうまく生きる知恵」みたいのが突然投影されていることがある。

そんなとき、プロトコルのようなとっつきにくい概念も、「愛い奴」に見えてくる。

そんな大失敗を経て、すっかり講演慣れして時間内にうまいこと説明ができるようになった筆者への講演依頼は、qanta@bassdrum.org までお願い致します。ちゃんとやります。

(マンガイラスト・ロビン西 /協力・S2ファクトリー

清水幹太

バーテンやトロンボーン吹き、デザイナーを経て、ニューヨークをベースにテクニカルディレクターをやっている。

BASSDRUM( http://bassdrum.org