ピーター、変態アニメーションナイトの「貴公子」に
ピーター・ミラードという作家の名前を日本で浸透(といっても一部の好事家の範囲だろうけど)させたのは、この変態ナイトだという自負がある。2012年夏の変態アニメーションナイトの初回では、前半と後半に分けて、ピーター・ミラードの特集上映をやった。今ではさまざまな映画祭にひっぱりだこ(でも決して受賞はしない)のピーターだが、変態ナイトは、世界で初めて彼の特集上映をやったイベントなのである(自慢)。
ピーターはその後、2013年にはYCAM(山口情報芸術センター)10周年企画の一環として開催した「変態アニメーションオールナイト」で初来日。イベントではピーターにMCも務めてもらったが、豪雨と雷で途中停電して映写が止まったりして、これも結構大変だった。(ちなみに停電したときに流れていたのはブルース・ビックフォードの「CAS’L’」…どこまで流していたのかの頭出しがめちゃくちゃ大変だった。どのシーンも同じように見えてしまうので。さらにちなみにだが、本イベント、YCAM初のオールナイトの試みだったらしい。)
誰に頼まれるわけでもなく作品を作りつづけているという点において、ピーターはブルース・ビックフォードと似ている。他の変態ナイトの常連作家たちも、そういうタイプの人たちが多い。ただしピーターは数多くはないがクライアント・ワークもやっている。たとえばこういうのとか。でも基本的に、ピーターは空いた時間はずっと自分自身の新作を作っている。将来の見通しがなかなか見えにくいことで不安も感じるらしいのだが、基本的に、ピーターはとても充実した人生を送っているように見える。
変態ナイトで上映する作品は、どれも楽しそうに作られている。変態ナイトはとても雰囲気の良いイベントだと思うけれども、それは、作家たちが楽しんで作ったものを、お客さんとも共有できる場となっているからだろう。短編アニメーションはとりわけ映画祭コミュニティを中心に受容され、関係者プラスαだけが、時間をかけて、適切な文脈で、評価をするだけという状況だ。Vimeoもあるけれども、ウェブ上の関係は、どうしても刹那な、孤独なものに終わりがちだ。
変態ナイトはその点、直接的な利害関係のない(映画祭はどうしても互いに無関係というわけにはいかない)たくさんのお客さんと一緒に、純粋に作品の「ヘン」さを笑顔で楽しめるのがよいなと思っている。現実の場所に、ヘンなものを求めてやってくる好奇心の強いお客さんが集まることで。気分を解放してくれるピーターの作品は、そんな変態ナイトにとても合っている。
なぜクラウドファンディングをやるのか?
今回、変態ナイトのツアー開催の関連企画として、ピーターと一緒にクラウドファンディングに挑戦してみることにした。前述のとおり、変態ナイトは良いグルーヴをもった作品を実際の場で共有することで良い雰囲気の場所を作る、「楽しさ」の共有の方法論であるといえると思うのだが、クラウドファンディングを通じて、その共有の仕方であったり、作家とのコネクトの仕方のチャンネルを増やしたいと考えてのことである。
クラウドファンディングを使うというのは、何をいまさら、感があるかもしれないけれども、それだけ浸透して新味がなくなったからこそ、「普段使い」として使ってみたいと思ったという部分もある。前述したとおり、ピーターは、誰に頼まれなくても作り続ける。でもそこに、本人のクリエイティビティを邪魔しないかたちで(むしろ高めるかたちで)、「乗る」人たちを招くのは、まったく悪いことではないのではないか。だから今回は、All-or-Nothing(目標額が集まらないと不成立になる)ではなくAll-in(目標額の到達如何にかかわらず入金される)の方式にする。一円も集まらずとも、作るのは作るから。
変態ナイトとクラウドファンディングの相性を探ってみたかったというところもある。変態ナイトで上映する作品を作る作家たちは、人間的に魅力が溢れている人が多い。儲からないことを進んでやる人たちだからこそ持てる凄みと、自分のやりたいをことをめいいっぱいやるピュアさを、両立もちあわせつつ。その純でワクワクするエネルギーの塊に、直接的に触れる機会を増やせればと思ったのである。そのとき、クラウドファンディングのように、直で支援できるシステムは有効なのではないかと思った。普通であれば上映会でチケットを購入するというかたちでしか作家と触れ合うことができないのだが(もしくは物販を買う程度)、クラウドファンディングを用いれば、作品を作るところにもそのつながりを作れる。リターンでは、作品の原画がもらえたり、ピーターが支援者の似顔絵を描いてくれたり、支援者の名前をピーターがアニメーションにしてくれたりだとか、とにかく、本人の手の跡が残るものを受け取れるようにした。
今回の新作、お題は「ピーター・ミラードが教える日本アニメ100年史」。このテーマはこちらからお願いした。今年2017年は、日本でアニメーションが作られるようになって100年になる。その年を変態なりに祝ってみたいというのが、このお題を選んだひとつの理由である。この「ぐちゃぐちゃな」方法論のピーターが歴史を語るとどうなるのだろう?という純粋な好奇心もある。今回、本人の希望もあり、クラウドファンディングのバッカーの対象者は日本に限っている。それゆえに、日本の題材を選んだという部分もある。僕としては初めてのクラウドファンディングなので、短編アニメーション作家に対して、もしくは変態作家に対して、どういうふうに「ノッて」くれる人が出てくるのか? それを観てみたいなーと思うところもありつつ、あと、日本限定ということは、いちおう今回の作品は「製作国:日本」になるわけなので、作品が完成する来年、彼の作品も、日本アニメーションの101年目の達成として刻まれることになる。それもちょっとした「ノイズ」を紛れさせるものとして、なんだかワクワクする。
ピーターは12月の「変態アニメーションナイト ザ・ツアー:セレブレート」で来日する。その際には作品完成のために、日本アニメのついてのインプットを積極的にさせたいし、(たとえばツアーの会場で録音したりだとか)ツアーに来場したお客さんをも巻き込んでの仕掛けも入れていきたいなと考えている。
ただ、とてもささやかな心持ちでクラファンをやっているように書いているけれども、本人も自分の作風を曲げずに有名になったりお金持ちになったりすることについては、やぶさかではない(ただそれは、ビックフォードも同じであるのだが)。僕がたまに思うのは、「ピーター、何かの間違いでキース・ヘリングみたいにならないかな……」ということである。
イギリスは変態作家の宝庫
ところで、イギリスは変態作家の宝庫である。過去上映したことのある作家を、駆け足に何名か紹介したい。たとえば、ロバート・モーガン、ベッキー&ジョー、フィル・ムロイ。彼らの作品は今回はやらないが(たぶん)、フィル・ムロイは来年1月にシアター・イメージフォーラムでやる「長編アニメーションの新しい風」という特集上映で作品をたっぷりやりたい。
ロバート・モーガン「ボビー・イエー」
ベッキー&ジョー「だきしめないでこわいから1」
(変態ナイト常連では珍しく、ネット上でもバズっている作品)
今回はここで時間切れ。次回は残りの来日作家であるエイミー・ロックハート、そしてホン・ハクスンを取り上げてみたい。
ピーターも来日! この記事を読んで気になった方は、「変態アニメーションナイト ザ・ツアー:セレブレート」の公式ページをチェックしてみてください。