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「変態(メタモルフォーゼ)アニメーションナイト」というNEW CHANNEL(1)

土居伸彰 土居伸彰 Nov 23 2017

アニメーション研究者・土居伸彰による短期連載がスタート! 奇才ビックフォードのある作品をきっかけに「変態アニメーションナイト」という名称が生まれた!?

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変態アニメーションナイトとは何か?

変態(メタモルフォーゼ)アニメーションナイトとは何か? それは、一度観ただけでは咀嚼不可能かつ強烈なインパクトを残し、観るものを唖然とさせ、しかしDNAにまで刻まれて、そしてなぜか解放された気分になるような、個性の強い短編アニメーション作品を観る集いである。これほどまでに自由でいいのだ、純粋に創造をしていいのだ、と観ている者が気付き、知らぬ間にがんじがらめになっていた自分にも気付き、そして、こんなやり方や生き方があるのだと気づき、その心持ちをも変態(メタモルフォーゼ)させるための上映である。

僕はこの変態アニメーションナイトというイベントの発案者であり、作品選定者である。普段は新千歳空港国際アニメーション映画祭というおそらく世界唯一の「空港内で完結する」アニメーション映画祭のフェスティバル・ディレクターをしたり、ニューディアーという会社で世界のインディペンデント・アニメーション作品の劇場用配給をしたり、アニメーション作品に関する批評や評論をしたり(フィルムアート社より『個人的なハーモニー ノルシュテインと現代アニメーション論』『21世紀のアニメーションがわかる本』という二冊の本も出しています)、「まったく新しいアニメーションフェスティバル」「アニメーション概念の拡張と逸脱」を掲げるGEORAMAというフェスティバルを東京で主宰したり、手を変え品を変え、さまざまなやり方で世界のアニメーションを紹介する仕事をしている。

変態アニメーションナイトは、そのさまざまなやり方のなかでも、一際変わったアプローチを行うものである。インパクトの強い名前、インパクトの強いビジュアルで衆目を集めようとするこの上映イベントは、Twitterを中心に引きが強く、既存のアニメーションファン、映画ファンとはまた違った、何か変わったものはないかと日々目を光らせる好奇心旺盛な人々を磁石のように集め、開催のたびに盛況となっている。

2017年12月、2012年スタートの変態アニメーションナイトは5周年記念の企画として、「変態アニメーションナイト ザ・ツアー:セレブレート」という新たな試みをする。いつものように世界中から未知の変な短編アニメーション作品を集めつつ、同時に、過去のシリーズで人気となった作家たちを来日させ、札幌・京都・東京・福岡の4都市を回る。これまで、オールナイトや劇場用配給などさまざまなかたちで変態アニメーションナイトを開催してきた。上映形態自体がメタモルフォーゼしているのである。ここでいっちょこのイベントを進化させてみようと思い、いつもよりも規模を大きくして、ツアーで日本を回っていく。

ツアー開催に先立って、変態ナイトとは何なのか、これまで何をしてきたのか、どういう目的と目標を持って開催されているのか、NEWREELさんの誌面をお借りして、お伝えしたいと思う。

4つ目のチャンネルを作る

アニメーションは、大きく分けて三つの方法で世の中に浸透する。(1)映画やテレビなどのマーケット、(2)映画祭、(3)インターネットである。変態アニメーションナイトで上映する作品は、マーケットに乗らない。そもそも短編というフォーマットが非常に現状のマーケットとは相性が悪い。そういった作品を評価する場としてアニメーション映画祭が作られたわけだが、変態アニメーションが上映する作品は映画祭が評価する基準からもどうも外れている。生々しくて、奇妙すぎるからだ。個性的なのでコンペには入るが、受賞は絶対にしないタイプの作品群があり、そういったものこそが、変態アニメーションナイトという上映形態をもたらしたともいえる。映画祭とは異なる評価基準を持つ短編活躍の場として、ストリーミング動画サイトがある。たとえばYouTubeであればその作品のアイデアが容易にわかる・共有可能である作品が好まれ、再生回数こそが新たな貨幣のかわりとなる。このルートを通じて世の中に広がっていったアニメーション作品も多くある。だが、変態アニメーションがピックアップするのは、ウェブにアップされていても決してバズらない作品だ。

まとめると、変態アニメーションナイトが取り上げるのは、総じて、どう受け止めていいかわからない作家・作品である。

「変態ナイト」を作ったブルース・ビックフォード

その代表となるのが、変態アニメーションナイトがその初期から紹介しているブルース・ビックフォードである。おそらく読者のみなさんのなかには、彼が誰なのかを知っている人もいるはずだ。フランク・ザッパの音楽を伴ったクレイアニメーション作品が有名だからだ。終わることなくエネルギッシュにメタモルフォーゼしつづけるその作風は、変態(メタモルフォーゼ)というにふさわしい。ただし近年の彼の姿・活動を知る人は少ない。1989年に『プロメテウスの庭』を発表して以来、表立った活動をそれほどアクティブに行っているわけではないからだ。彼は現在、シアトル郊外のシータック(シアトルとタコマの間の街)に亡き母が遺産として残してくれた生家を相続し、そこでひっそりと人知れず、様子を見かねた周りのアーティストたちのサポートとケアを受けながら、ひとり制作を続けている。

ビックフォードの作品、そしてビックフォード本人は、魅惑的で呪術的な魅力を放っている。粘土だろうが線画だろうが、彼のアニメーションは常に同じリズムで、全画面オールオーバーで進行する破壊と創造を繰り返す。人の生死など宇宙の現象のひとつの過程にすぎぬとばかりに。一方で、アメリカ人が触れて育つであろう様々な映画やテレビ、マンガからの影響もふんだんにちりばめた俗っぽさもある。

アメリカ西海岸、とりわけ北西部を拠点とするアニメーション作家たちと話をすると、誰もがみな一度は、ブルース・ビックフォードの面倒をみる時期を経験している。誰もが彼の生活をみかねて、買い出しをしてあげたり話し相手になってあげたり、彼についてのドキュメンタリーを作ってみたり、マネジメントをしてあげたり、作品を完成させてあげたり(勝手に自分で音楽をつけたりして)。彼の作品を知る誰もが、ビックフォードは人類史上に残る作家だとわかっていて、しかし然るべき評価を受けていない彼の状況をみかねて、何かをしてあげたいと思ってしまうのだ…僕もまたそのひとりである。かつてシータックの彼の家を訪問し、過去の作品のセットや人形がところ狭しと並べられたガレージを見たとき、圧倒され、魅了され、この才能をしかるべきかたちで紹介するためなら、破産してもいいと、魅入られたように思ってしまった。(実際に破産しそうになったので危なかった…という話はここではしないでおく。)

「変態アニメーションナイト」という名称が生まれたのも、そして、MCなどで「ツッコミ」のようなものを入れながら上映するスタイルが生まれたのも、ブルース・ビックフォードのおかげである。そのことを説明するために、変態ナイト登場のそもそもの経緯を紹介したい。

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