BBCがプロデュースして6月に公開した東京オリンピックの予告編動画は、東京のようで東京でないようで、エキゾチックなようで身近なような、微妙な世界を描いている。1分間、途切れることなく続く映像は、まるで超小型ドローンが狭いところへ入っていく映像のような、目が離せない没入感がある。
この作品は、ロンドンとロサンゼルスを拠点とする映像スタジオ、ネクサス・スタジオが制作し、イギリスの映画およびアニメーションのスタジオ、ファクトリー・フィフティーンの共同創業者、キブウィー・タバレス、ジョナサン・ゲイルズ、ポール・ニコルスが監督を務めている。ファクトリー・フィフティーンは、建築、3D、アニメーションなど、幅広く高度な映像技術を誇るスタジオなので、そのパワーがふんだんに投入されているのがわかる。
そこに、ブルックリンを拠点に活動する美術家ファンタジスタ歌麿呂氏が加わっている。海外で活躍する日本人アーティストの目線が、デフォルメされた架空の東京ながら、東京人が見ても違和感のない、この作品の微妙な「落とし所」になっているようだ。実際、こんな東京だったらいいのになと感じさせる。
音楽は、「科捜研の女」のテーマ曲や「攻殻機動隊」の主題歌などで知られる作曲家川井憲次氏が担当。和楽器、民謡、初音ミクなど、いろんなサウンド要素が盛り込まれているという。
いかにも東京の下町らしいごちゃごちゃした背景の中には、BBCが言うところの「イースターエッグ」が50個以上隠されているというのだが、それがどんなものを指してるのか、ちょっとわからない。おそらくイギリス人ならわかるのだろう。もしかしたら、イギリスのオリンピック選手かな。それなら、いろんなところに顔や名前が出てくる。
さてもう1本。こちらはFrance TVが制作し、5月に公開された東京オリンピックの予告動画「Sumo」。
広告代理店マレンロー・フランスを通じてフランスのイラストレーター、ステファン・ルバロアがイラストを制作した。彼のFacebookには、この作品のためのスケッチがたくさん投稿されている。ルバロア氏が、香港のわら紙にインクと水彩で原画を描き、それを元にアニメーションチームがTVPaint Animation、After Effects、Photoshopを使って動画化していった。絵の雰囲気は、伝統的な日本画の様式に従って遠近法を使わない2次元的表現を守りつつ、しかし「マンガではなく、18世紀の日本の版画の技法を極力守りました」とのことだ。あえてコマ数を落として細部にこだわったとも、メイキング動画でスーパーバイザーを務めたアニメーションスタジオMikrosのヴァンサン・ヴェンキアルティ氏は話している。水彩のスケッチのテイストがそのままアニメーションになっているのが気持ちいい。少人数のチームで雰囲気よく制作したとのことだ。
Sumoのメイキング動画
これもまた、非常に日本的だけど、どこかエキゾチック。でもやっぱり日本的。お相撲さんがいろんなスポーツに挑戦するというコンセプトは、聞いただけだと滑稽に感じてしまうけど、実際に見るとめちゃくちゃカッコイイ。
BBCの作品も、このフランステレビの作品も品良く仕上がっている。でも、見ていると顔がにやけてくる。こういうのを本当のユーモアっていうのかね。