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ミルワイス「2016 – My Generation」のMVは
現代の独裁と現実となった「時計仕掛けのオレンジ」への警鐘

金井哲夫 金井哲夫 Oct 12 2021

ミルワイスの新作MVはかなり奥が深い。無数のロゴやマスコットキャラクターなど、現代社会を象徴する見慣れたアイコンたちを通り過ぎた後に起きる大炎上。エッ!? これってバッドエンド? ハッピーエンド? その答えはNEWREELの記事を読めばわかります……!

dir
Ludovic Houplai
prod co
H5
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Mirwais
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エレクトロニック・ミュージシャンのミルウェイスが20年ぶりに発表した新曲「2016 – My Generation」のMV。これから発売される予定のアルバム「The Retrofuture」から先行シングルカットされた曲だ。

行き止まりの高速道路を高速でバックする車のフロントウィンドウから見える光景は、無数のロゴやマスコットキャラクターなど、現代社会を象徴するアイコン。ポップアート、巨大テック企業、コンピューター・セキュリティー、スポーツ、宗教、ポルノ、政治、金融と7つの世界を通り抜ける。そして車が止まる。タンクローリーだったんだね。気がつかなかったけど、これがずっとオイルを垂らしながら走っていた。運転車がライターでオイルに火を点けると……。

これだけのモノが1本の道の周りに集結していたら、「やかましい! みんな燃えちまえ!」って気になるよね。しかしまさに我々の世代は、これらに囲まれて生きてる。そりゃ疲れるよ。しかし単に「疲れる」ってだけの話ではない。このMVは、かなり奥が深かった。

監督は、フランスの映像スタジオH5の共同創業者でありアートディレクターであるルドヴィク・ウープラン。「2016 – My Generation」は、そもそも2016年、ドナルド・トランプが大統領選で当選したときにアイデアを得て制作された「My Generateion」のアップデート版。ここでミルワイスとウープラン監督は、トランプ大統領の「現代の独裁」を描こうとした。無数のロゴやキャラクターが重要な役割を果たしている。ウープラン監督は、1日に何千というロゴを目にする現代の商業主義的世界と、トランプに代表される独裁的世界とを合体させたわけだ。彼はこれらの要素に解釈を加えることなく、「時間のポラロイド」でスナップショットを撮影して道路脇に並べることにした。つまり、私情を交えず客観的にシンボルを並べたということだ。そのストーリーボードを完成させるまで、毎日こつこつ手描きして、1年を費やした。

トラックがバックするアイデアは、ミルワイスのものだという。そうすることで、さまざまなアイテムを長い時間見ていられるからだ。現代人は情報の流れの人質になっているとウープラン監督は言う。その情報の「流れ」を意識して、道は一直線なのだそうだ。またここにはウープラン監督が言う「金魚の記憶理論」も関係している。どんなに長い映像を見ても、人が憶えているのは最後の場面だけという理論だ。この動画は、そもそもの始まりを憶えていない人の記憶に対しても、そして「そんなに速くもなく、そんなに長い時間生きてきたわけでもないのに」という事実に疑問を投げかけている。こうして道路をバックしながら振り返ると、忘れていたけど、ほんのわずかな時間に、どんだけの情報を、しかもどうでもいい商業主義的なものを受け取っていたのかと思い知らされる。

またウープラン監督は、これは映画「時計仕掛けのオレンジ」に重なるものがあるとも話している。映画では、残虐な性癖を持つ主人公のアレックスは病院に収容され、治療のために目を閉じられないようクリップで瞼を固定された状態で、残酷な映像を強制的に見続けさせられるというシーンがある。この映画が公開されてから50年後の今、それと同じようなことが一般の我々の日常になっている。みんなが膨大な映像を見続けさせられる拷問状態にあるというのだ。そんなこんなで、この映像は意図的にフラストレーションが溜まるように作られていた。トランプに代表される政治的独裁の他にも、現代社会はあらゆるものがブランド化されたコマーシャリズムの全体主義に陥ってることを実感させられる。その閉塞感を、最後の炎が焼き払ってくれるってわけ。あー、スッキリ。ハッピーエンドなのだね。

最後に残る疑問は、なんで最後に出てくるタイトルに日本語が? って点だけど、ごめんなさい、そこは不明。

ところでウープラン監督と言えば、「Logorama」の監督として知られている。2009年、ウープラン監督がH5のメンバーであるフランソワ・アロー、エルヴェ・ドゥ・クレシーと共同で製作した15分のアニメーションなのだけど、みんながよく知っている商品やブランドのロゴとマスコットキャラクターばかりの街でのクライムアクション。マクドナルドのドナルド・マクドナルドが悪者で、ミシュランマンの警官とカーチェイスを繰り広げるというもの。2009年、アカデミー賞短編アニメーション部門を獲得した。

金井哲夫

雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。