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今も続くスポーツ競技団体による性差別への抗議
キャンペーン動画「Let Her Run」に胸が締めつけられる

金井哲夫 Jul 19 2021

審査員に「あなたは本当に女性ですか?」と聞かれる裸の女性選手。「はい」と答えるが、「本当に?」と念押し……「Let Her Run」(彼女を走らせろ)運動のキャンペーン動画はあまりにもショッキングな内容で胸が締めつけられる。

dir
Rafa Damy
prod co
Africa
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ブラジルの有料テレビスポーツネットワークSporTVが、スポーツの性差別をなくすために立ち上げた「Let Her Run」(彼女を走らせろ)運動のためのキャンペーン動画。2021年D&ADでグラファイトペンシル、ウッドペンシル3つ受賞している。

あまりにもショッキングな内容で、しかもこの女の子の演技が真に迫っているものだから、胸がきゅーっと締めつけられる。実際つい最近まで、これほどまでの屈辱を受けなければ、一部の女性選手は旧国際陸上競技連盟(現ワールドアスレティックまたは世界陸連)の大会に出ることができなかった。もちろんこれは1960年代の「性別確認検査」を再現した映像であって、実際にこんな形で行われていたかはわからないのだけど、ともかく身体検査は行われていた。

服を脱がされ、恥ずかしい姿勢をとらされたうえ、「あなたは本当に女性ですか?」と審査員に聞かれる。その姿勢のまま「はい」と答えるが、「本当に?」と念を押される。それが終わり、「もういいですか?」と怯えてながら聞く彼女に、審査員は「いや、まだだ」と冷酷に言い放つ。そしてそこに診察台が運ばれてくる。『「十分に女性とは言えない」はもう聞きたくない』というLet Her Runのスローガンを残酷な形で表現している。

動画の終盤には、世界陸連の検査手順が示される。そこには「陰核、膣、大陰唇の測定および触診、胸囲と陰毛の図入りの5段階評価が含まれる」とある。

その後、次のメッセージが表示される。

「1968年、競技に出場するために、多くの女性は自身が女性であることを証明しなければならなかった。男性はその限りではなかった」

「2020年、方式は変わったものの、いまだに一部のアスリートは女性であることの証明を求められている。男性はその限りではない」

「2019年5月より、先天的に5ミリモル毎リットル以上のテストステロン(男性ホルモン)を生成する女性は、国際陸連では女性と認められなくなった」

「彼女たちは走れず、仕事ができず、TOKYO2020には出られない」

「スポーツの性差別をなくそう」

そして最後に、2020年ダイヤモンドリーグ女子1500メートルの実況音声が流れ、優勝したローラ・ミューア選手のコメントをアナウンサーが伝える。

「自然に走りたくなるだけ。私は、たまたま速く走れるだけの女よ」

陸上スポーツの差別問題については、Human Right Watchの記事が詳しいので、興味のある人はどうぞ。

監督は、ブラジルのサンパウロで活動するラファ・ダミー。「真剣なキャスト、ロケーション、撮影、脚本に展開されるドラマ、赤裸々な真実、これらを強烈でリアルな演技で画面に表すこと、監督としての私はそれに突き動かされ、同時にその物語に打ちのめされた」と話している。

雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。

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