アイスランドのポスト・クラシカル作曲家オーラヴル・アルナルズが2020年にリリースしたアルバム「some kind of peace」に収録された「Zero」のMV。暗い森の中で2人の男女が踊る光景は、なんとも幻想的。あまりに美しいので、この森は本物なのだろうかと疑ってしまう。でもずいぶん奥行きがあり、木もうんと高いし、どうもセットではなさそう。もちろん、この自然な質感は3Dグラフィックのものじゃない。制作スタッフのクレジットを見ると、ドローン関係の人たちもいる。空中撮影の場面はなかったけど、これって?
監督は、ロンドンを拠点に活動する映像監督であり、写真家、ファッションディレクター、モーションデザイナーのジョシュア・ストッカー。MVのほか、Google、コカコーラ、ソニーなど大手企業のCMも手がける。
これはロンドン近郊のサリー州の森で、ロックダウン最中の凍てつく12月に、ドローンで照明を飛ばして撮影されたもの。木々の上からドローンの照明がダンサーたちを追いかけるその陰影が、計算では得られない、幻想的な効果を出している。
Brooklyn Veganのインタビューでストッカー監督は、ドローンで照明を飛ばしたらどんなふうに見えるのか、まったく予想がつかなかったため、これは関係者全員にとって大実験だったと語っている。しかしドローンが森の上空に達すると「森は劇場に変わった」という。昔から大好きだったというオーラヴル・アルナルズの音楽とともに、監督はステディカムのオペレーター、トミー・マクマホンを賞賛している。
作品に必要なすべての映像を撮影する時間は、ドローンが飛び立ってから3時間しかなかった。ロックダウン中だったからか、めちゃくちゃ寒かったためスタッフの体力の限界だったのか、詳しいことはわからないが、あの環境でダンサーが3時間演技するというのは、むしろ驚異的だ。
夜の森の厳粛な空気の中、変化する光と影に2人のダンサーが際立つ。「それがプリズムとなって」恋に落ちてゆくと同時にその重荷を背負うという感情の動きを引き出すことができたと監督は話す。これは、ストッカー監督が自分でプロデュースした初の「パーソナル」な作品とのことだ。
「完ぺきに不完全な体験だった。それが作品自体よりも、自分にとっては大きなものになりました。このような瞬間をキャプチャーできるセットに立つと、何か本当の魔法のようなものを感じます」とストッカー監督は振り返っている。
ダンサーは、ロンドンで活躍するアリ・ゴールドスミスとルシア・チョカロ。振り付けはローレン・ブライドル。
この作品は、ぜひぜひ4K画質で見て欲しい。歯車マークの設定で切り替えてね。