どこか懐かしいような、何かいいことが起きる予感が心の奥からムクムクと湧いてくるような、素敵な曲だ。ケミカル・ブラザーズ自身も、これは「希望の曲」だと話している。
心で周囲の色を見るんだ
そうすれば、キミが恐れている闇は消える
大丈夫、キミを愛し続けるよ
心で色を見て……
と歌は繰り返される。
監督は、イギリスのブリストルを拠点に活動するアニメーション作家であり映像作家のラス・マーフィー、またの名をラフマーシー。MTVやニコロデオンでアニメーション制作の修行を積んだ。当時はベクターグラフィックスを使っており、細部にまで精密に仕上げる強いこだわりを持って仕事をしていた。だが、2011年、MVの制作を依頼され、実写映像にアニメーションを重ねるという提案を受けたのが大きな転機となった。ワコムのタブレットとPhotoshopでラフに画像を載せるという作業によって、それまで完ぺきを目指していた自分のルールが崩壊し、ルーズに自由に描くことに目覚めた。
Instagramをスケッチブック代わりにしてアイデアを落書きしているというマーフィー監督だが、ベクターグラフィック時代の作品にそれが直接反映されることはなかった。しかし、ワコムとPhotoshopを使うようになって変わったと、クリエイティブ系情報サイト「It’s Nice That」の2018年のインタビューで監督は語っていた。
ストーリーボードに基づいて制作することは滅多になく、いつも試行錯誤だ。「子どもは、結果を考えることなくクリエイティブな活動自体を楽しんでいる。あらゆるルールを無視して描く、そんな子どものやり方が大好き」という監督は、「自分で楽しいと感じれば、正しい方向に進んでいることがわかる」という主義で仕事をしている。また監督は、お昼に「遊び時間」をとり、インスタで新しいアイデアを試したりスケッチを行うようにしているという。そこから「エネルギーがもらえる」のだそうだ。
さて、この曲を初めて聞いたマーフィー監督は、すぐにそのテーマに共鳴し、ポジティブなものを感じた。新型コロナのロックダウンが緩和されて、これから夏に向かう太陽の光とも重なって、明るい気持ちになったという。そして、強烈に懐かしい気分がこみ上げてきて、90年代に初めてケミカル・ブラザーズに出会ったころの映像にピンと来るものはないかと掘り返した。使用したのは、90年代後半のレイブの映像。これに、スーパー8っぽいテクスチャーとビジュアルを手描きで加えていった。「色でカオスを生み出して情緒を引き出すのが好きなんだけど、これは、その手法にとってパーフェクトなプロジェクトだった」とマーフィー監督。
ヨーロッパのロックダウンは厳しかったから、ワクチンで感染が落ち着いて、ようやく規制が緩和された今の時期、みんなはものすごい達成感と解放感を味わっているんだろうね。この歌と映像は、「みんなよく頑張ったね、これから世の中は良くなるよ」と励ましているようだ。